和人と彼女と時々父さん(うちよそ)

「うわっまた来てる」
「誰よー?」
「父さんだよ!ね、イワタ!父さんが来た!」
「え、ウィルさんですか!?うわあ・・!」
半ば慌てるようにしてオレとイワタは店の奥に隠れた。
喫茶店に現れる魔の手。それは先輩がいない時を狙ってのことだった。
正直先輩に絶対的に勝てる人はいないと思っている。

「イワタさんも大変ね。すごいチカラを持ってるばかりに」
すっかり気に入ったのか、メイド服を召したベルがため息をつきながら言うと店のドアが開かれた。
「あら、いらっしゃい。ウィルさん。お仕事?」
「やあベルちゃん。まだ有給休暇中さ。イワタ君を知らないかい?」
「知らないわ。だいたい毎日来る人じゃないもの。それよりサービスするわよ」
「ホントかい!?そりゃあ良かった。お金なくってさぁ~」
ウインクをするベルと父さんが楽しく盛り上がっている合間に、オレは彼にローブを渡した。
透明化するローブ。先輩が自宅から取ってきたものだ。
オレには気づいてない父さん。もしかしてまた。
「やだなー!あの時はあの時。僕は研究したいけど…その…人は対象外だからね。あの変な人達とは違うよ?」
と父さんの大きな声が裏方までに届いた。
父さんは自分のために嘘をつくけど、人を騙したり、陥れたりはしない。少なくとも母さんやオレが生きてる時にはしないと思う。
家族が大好きな父さんはオレ達が悲しむ姿を一番苦手としているからだ。
「……本当、なんですかね?」
不安になっているイワタが尋ねた。ちなみに彼はオレには見えていないけど、声は聞こえている。
「じゃあもし嘘だったら父さんを思い切り殴っていいよ?母さんもきっと認めてくれるさ」
イワタは黙ってうなずいた。
「ま、今日はベルに任せてお帰り頂こうよ」
自分の唇に人差し指を当てれば、彼もまた微笑んでいた。

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