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だいじなひと

いつもメッセージだけの友達が電話をかけてきたものだから、電話をとる前に、あぁ、亡くなったんだと思った。

あの人は、僕を育ててくれた人。

しばらく具合が悪いのは知ってたし、退院したのも知ってたけれど。どう会えばいいか分からなかったから、しばらく会わずにいて、ただ時々思い出していた。

今日亡くなったよと、電話の向こうの友達。僕は何か聞き忘れているような気がして、なかなか電話を切れなくて。自分が受けている衝撃を、「衝撃」としか表現できないでいた。友達と感情を分かち合うことは怖かった。

電話を切る少し前にパートナーのオッサンが帰ってきた。

そして、電話を切って。オッサンに「マスターが亡くなった」と言ったところで感情の波に飲みこまれた。

汚い言い方だけど、まるでゲロを吐くかのように泣いた。涙だけでなくヨダレも垂れた。

飼ってる犬がビックリして騒ぎ出す。パパの緊急事態にうろたえる。オッサンが犬をなだめてる。僕は声を上げてワンワン泣き続けた。

あの人は僕の大事な人だった。あの人がいなければ、今の僕はいなかった。僕はあの人に守られ、育てられた。

オッサンが肩にぎこちなく手をおいてくれた。

それからさらにひとしきりワンワンと泣く
。言葉にならない感情は吐き出すしかない。

そうして、感情の波が少しずつ引いていく。

呼吸がしやすくなって、大きくひとつ息を吸い、ふーと吐き出した。

やっぱりあの人は、僕の大事な人だったのだ。僕に新しい名前をくれた人。

「ジローちゃん、考え過ぎだって」

あの人が僕の座る場所を作ってくれて、僕はカシスソーダ1杯だけで、そこに何時間でも座っていられた。

そのことが、どんなに幸せなことだったのか、と今は思う。

あの人は、未熟過ぎた18の僕を迎え入れ、見守り、支えてくれた。あの人の声が、笑顔が、今でも僕を支えてくれている。

大きな花のようなひと

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