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【メギド72】アザゼルとはなんだったのか【2020/07初旬イベ】

はじめに

 メギド72の期間限定イベント「生と死と、それぞれの個と」が始まった。で、ストーリーを読み終わった。いいかげんプレイ歴が丸一年を越えてしまった身としては戦闘はフルオートで飛ばし(あっでもCビフロンスとCユフィールとCキマリスとフォラス並べてネークロネクロで高収入したのはすごく楽しかったです)相変わらず高水準のシナリオテキストをじっくり楽しんだ。で、ちょっとした疑問が出てきたので、読み終わった当初の思考を辿りながら整理していこうと思う。
 当該イベントシナリオのネタバレは当然として、うっかりリンクしてしまったメインストーリー7章以降(61話~)のネタバレを含むため、以下の文章はそのつもりで読んでいただきたい。

アザゼル

 読み終わって最初に思ったのは、「いきなり妙な話を始めたぞ」ということだった。何が妙というのは一言では言えないが、まずは主演男メギド(メギドミー語)のアザゼルである。
 アザゼルは一言で言えば「群体」のメギドだ。全く同じ姿、同じ思考、同じ価値観を持つ複数のメギドがそれぞれアザゼルを名乗り、決して表に出ない暗殺を生業とする。しかも暗殺に成功すればまだしも、失敗すれば死体を残さず自爆し、他のアザゼルが活動することであたかもアザゼルが死んでいないかのように見せかける。己自身の「個」と戦争の名誉を重んじるメギドにとって、これは、かなり、異常なことだ。

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 その異常性は群体を維持する方法にまで及ぶ。恐るべきことに、アザゼルは資質がありそうなメギドを拉致し、洗脳してアザゼルに仕立て上げるのである。シナリオで明かされたその一部の光景は「極限状態に追い込んで『私はアザゼルです』と繰り返させる」という意外にもおよそ一般的によくあるカルトの洗脳と似たようなもので、おそらくはそうやって洗脳教育と訓練を繰り返し、最終的に指紋まで完全一致するヴィータ体を取るほどに精神を同じくした「アザゼル」(以下「アザゼル」)が完成するのであろうと思わせた。
 そして何よりも異常なのが、この「アザゼル」の同一化は(全く同じヴィータ体を取るまでになっていながら)不完全だということである。劇中で二人も離反者(半端者と呼ばれていた)を出していることもさることながら、彼らの姿はヴィータの見分けがつかないベリアルには全くの別人に見えていた。ヴィータの見分けがつかないというのは、言い換えればヴィータ体の外見に捕らわれずにメギドを認識できることだからだ。

 ここまで考えると、アザゼルの「個」はその洗脳プロセスと教育内容にある、と考えることができなくもない。が、むしろそれらはアザゼルの「個」を表出・維持するための手段であり、「個」そのものではない。では何がアザゼルの「個」なのかといえば、「アザゼルという暗殺を生業とするメギドがいる」という都市伝説(とその詳細)こそがそれにあたると言える。これは、かなり、異常なことだ。

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シナリオの空白とその輪郭

 そのアザゼルの離反者の一人が今回の主演男メギド(以下ジャン)である。彼は離反したことによってアザゼルから追われる身となり、瀕死の状態でビフロンス(余談だがおそらく今回の主演女メギドであろう)に助けられる。ソロモン一行(ビフロンスに加えブネ、ベリアル、アンドラス、アクィエル)はジャンを狙う「アザゼル」やその配下の幻獣に遭遇し、これを撃退、爆発四散させる。当然ジャンに疑いを持つが彼にはアリバイがあり――という怪奇ミステリ仕立て(余談だがビフロンスのキャラストも怪奇ミステリ味であり、イベントシナリオ冒頭でちょっとだけ関連性のある描写がある)のシナリオなのだが、おそらくは意図的に、かなり核心に近い部分が伏せられていると感じた。

 まずひとつに、最後に残った「アザゼル」に曰く「アザゼルには始まりも終わりもない」。劇中でアンドラスが指摘した通り、それはおかしい。既にジャン(ともう一名の離反者)という綻びが発生している以上、アザゼルには終わりがある(想起される)。ということは、始まり(最初のアザゼル)もある。はずなのだが、それは一切語られない。語られたのは「始まりと終わりを結び合わせれば果ては消え円環となる」という喩え話であり、それが意味する具体的な内容については一切語られない。文面を素直に捉えて既に登場している時間遡行ゲートを連想したプレイヤーもいるようだが、時間遡行ゲートには制限が多く、他メギドをアザゼル化する洗脳を可能とするものとはとても思えない。
 次に、「メギドラルは変化している」という事実がある。メインストーリーにおいてブネはそれを「心底恐ろしい」と語った。アザゼルという異質すぎるメギドの存在もそうだが、それ以前にもオリエンスに代表される新世代メギドが「メギドの変化」すなわち「メギドラルの変化」を示す存在として提示されている。
 でありながら、今回のイベントのメインメンバーには新世代メギドが(おそらく)いない。アンドラスとビフロンスは明言されていないものの、ブネは勿論、ベリアル、アクィエルに至ってはそれより遥かに古い。そのため、「新世代メギドがアザゼルというメギドに対してどう反応するか」の材料が無い、つまりメギドラルの変化、言い換えるならば未来を推測する材料を排除しているのである。話のまとまりを重視して示唆するにとどめたという言い方もできるかもしれない。

 これだけでは何の話をしているのかいささか茫漠としすぎており、「妙な話だ」という印象だけが残った。消化不良と言ってもいいだろう。ここでジャンに視点を移す。「アザゼル」になる以前の記憶を見事にすべて洗脳で消し飛ばされたジャンは、他の「アザゼル」が全員死亡することで唯一の「アザゼル」となり、最終的に自分はアザゼルであるというアイデンティティを選択するに至る。アザゼルという呪いから逃れられなかったとも、受け入れたとも取れる終わり方であり、ただ彼が未来を向いていることは間違いないと思わせるものだった。ここでアザゼル(ジャン)は産まれた、とも言える。
 だとすればつまり、この話は「アザゼル(メギド72登録名義を指す)誕生秘話」であり、何者かもわからぬメギドが「アザゼル」になり、「ジャン」になり、そしてアザゼルとして産まれるまでの物語だった。と気づいたとき、このシナリオの空白部分の輪郭を構成する最後のパーツの在り処に思い至った。ドーナツの穴が見えてきたのである。

 メインストーリー8章一節、74話。母なる白き妖蛆から語られるメギド発生の真実。その内容は大まかに言えば、妖蛆がメギドラルに幻獣を産み落とす途中、その肉体に彼の世界からやってきたメギドの魂が入り込んでメギドとなる――何者でもない命が、よそから来た魂に上書きされ、別の生物として産まれるのである。
 アザゼルの発生プロセスはそのままこのメタファーであると言えるだろう。

 ここまでくれば、シナリオが伏せていたものが何なのかはドーナツの穴を覗き込む程度には推測が立つ。おそらくは、「母なる白き妖蛆のそれを真似てメギドを新たに(人工的に)作り出そうとした誰か」がいる。劇中ではアザゼルというメギドが自分の「個」を継承させるために洗脳という手段を取った、という前提で語られている(「アザゼル」の言を素直に受け取ればそうなる)が、必ずしもそうとは限らない。まずアザゼルではない何者かの作り出した洗脳プロセスがあり、アザゼルはそのプロセスを考えだした誰かが作り上げた、そのプロセスに乗せるための非実在メギドであるという可能性もある。都市伝説めいたアザゼルの個や「アザゼル」制作プロセスがあまりに人工的であること、それが完全に成功しているならまだしも失敗していることを合わせると、個人的にはその方がしっくりくる。
 何より、その方が「アザゼルの誕生」としては相応しい背景ではないだろうか。

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