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『VALORANT』日本最強チームで最もストイックな男、Laz「積み重ねてきた実力は、簡単には消えない」

ZETA DIVISION(以下、ZETA)には牙を研ぎ続けている狼がいる。

ある日のことだ。ZETAでの練習を終え、メンバーが食事のために集まった。その場の全員がふと気づく。Lazがいない。PCの方に戻ってみると、食事も取らずに1人でその日の練習の録画を食い入るように見ていたLazがいた。

絶対的王者、Laz。彼は10年以上もの間、国内FPS競技シーンの頂点捕食者であり続けた。努力を怠らない天才たちが集うZETAのメンバーをして、「Lazさんのストイックさには勝てないかもしれない」と言わしめる、孤高の天才だ。

「強いプレイヤーこそが絶対」

Lazが『Counter-Strike 1.6』をプレイし始めたのは15歳の時だった。プレイを始めてから半年経つと、彼の強さがコミュニティに広く認知されるようになった。才能ある他のゲーマーと同じように、一部で彼を「チーター」だと揶揄する声もでた。

嫌悪感こそあったものの、日常茶飯事だったので次第に気にならなくなった。自分より強いプレイヤーは何人もいた。Lazにとっては、彼らに追いつくことの方がよほど重要だった。

続編となる『Counter-Strike: Global Offensive(以下、CS:GO)』でもLazを揶揄する声は変わらなかったが、やはり無視した。「強いプレイヤーこそが絶対で、くだらないことに時間を使いたくなかった」とLazは言う。ただひたすらに強さを追い求めた。

彼がプロゲーマーになるのは至極当然の流れだった。

2015年、国内最強のチーム「Absolute」が創設された。現ZETA DIVISION(以下、ZETA)VALORANT部門の前身となるチームだ。Absoluteは国内『CS:GO』シーンで敵なしの絶対的な強さを誇った。「天才Laz」「God Laz」と、Laz自身もあらゆる賞賛を浴びた。

だが一歩でも海外に舞台を移すと話は変わった。海外の強豪には負け続けた。

「海外チームがどれだけ強いかは分かっていました」Lazは冷静にそう言った。ひたすら練習を重ね、ひたすら海外の選手を研究してきた身からすれば、勝てないこと自体は不思議ではなかった。世界の壁の高さは誰よりも理解している。

2020年、彼は多くの挫折を乗り越えてきた経験を引っ提げて『VALORANT』の世界へと飛び込んだ。

そこで待っていたのは、新たな挫折だった。

VALORANTで味わった痛烈な敗北

「最悪の結果になりました。すいませんでした」

公式の国際大会「2021 VALORANT Champions Tour(VCT)Stage 3 - Masters」にて、ZETAは屈辱的な大敗を喫した。試合後に絞り出したLazの言葉は、あまりにも切実だった。Lazにとっては悔しさよりも申し訳なさが先立った。

ゲームの人気や人口は、放っておくと簡単に減ってしまう。しかも、一度減ってしまえば取り返しがつかない。それは『CS:GO』で嫌というほど思い知らされた。だからMastersはLazにとって、「勝ち負け」以上に重要な大会だった。

だが2試合連敗し、敗退。完膚なきまでに叩きのめされた。ZETAにとってこれは大きな転機となった。Lazもこの時ばかりは引退を考えたという。

「俺よりも強い奴が日本にいるなら、そいつに任せたい。世界で活躍するのは、自分じゃなくてもいい」

Lazは本気でそう言い放つ。日本というリージョンが世界で活躍してくれれば本望だ、と。本心から出た言葉だったが、現実になることはなかった。

彼よりも絶対的に強いプレイヤーが、日本に存在しなかったのだ。

「全員そろった」感覚

ZETA再編の際にチーム内部で何が起きたかは、今さら語る意味がない。重要なのは、「最高のメンバーがそろった」ということだ。

crow、Dep、Sugarz3ro、TENNN。もれなく全員が図抜けた逸材たち。『VALORANT』の競技シーンを知っていれば誰もが理解できる。彼らが1つのチームを成していることの異常さを。

「世界で戦えるような強いやつらは何人かいるから、そのうちの誰かが世界で活躍してくれればいい。そんなやつらが全員そろった感覚」

そう言い放ったLaz自身が最も強く、そして最も信頼されていることは言うまでもない。Lazが最強なのは結果を見れば明らかだ。彼らは2022シーズン初の公式国内大会「2022 VCT Challengers JAPAN Stage1」を、文句なしの全勝優勝で終えた。

スクリムや大会を経験したことで、Lazの確信は深まっていった。

「このチームの凄いところは、自分が無理してリスクのある動きをしなくても勝ててしまうところ」

こんな経験は今まであまりなかった。これまではハイリスクハイリターンなプレイで道を切り開くことが多かった。だが今のメンバーになり、自然と立ち回りが変わった。1人で無理をする必要はなく、チーム全体でリスクを抑えながら戦えるようになった。

自分がまだ強いうちに……

チームメイトのTENNNは「Lazさんはゲームに対して一途だし、勝ってる時も負けてる時も強気な姿勢を崩さない。そういうところを心底リスペクトしてます」と語る。

いつから強気な姿勢でゲームをプレイするようになったのだろう。なぜそこまで自信に満ちたプレイができるのだろう。Lazはふと思い出す。

「3~4年くらい前の『CS:GO』時代に、スランプに陥った時期がありました」

出場したアジア大会で、いわゆる「絶対に負けてはいけない中堅チーム」と当たった。だが、一方的に負けてしまった。この敗北がLazにとっては一番の挫折だった。本気でゲームを辞めようと思った。

「ただ面白いことに、そのおかげで吹っ切れちゃって。次の試合で普段ならしないような強気なプレイを連発したら、あっさり勝っちゃった」

さらに、長く続いてたスランプも解消してしまった。「なんだこんなものか」とLazは思った。「考え方や姿勢ひとつで全部裏返ることもある。本人が積み重ねてきた実力は、簡単には消えないものなんだなって」

だがLazも危惧していることがひとつある。それは年齢による衰えだ。撃ち合いを武器に活躍してきたからこそ、年齢の影響はダイレクトに受けるだろうと考えている。

今年で彼も27歳。社会的にはまだまだ若いが、FPSの競技シーンにおいては高めの年齢層だ。日本で彼よりも年上のプロは、『VALORANT』では数人しかいない。

「経験値や頭を働かせて勝つタイプのプレイヤーは年齢を重ねても活躍できるけど、反応とエイムで相手をねじ伏せるタイプは年齢と共に急激に衰えていきます。自分が参考にしてきたプレイヤー達は全員後者でした」

もちろん、あらゆる対策は施している。練習、運動、健康。全てに気をつかい続ける日々だ。それでも、自分だけが運良く助かるなんて有り得ないことだろう。衰えを感じる日が来るはずだ。ゲームに対して一途で本気だからこそ、全てを覚悟している。

「でも今のチームメンバーには凄まじいポテンシャルを感じています。そのことが嬉しい」

正直なところ、すぐに勝てるとは思っていない。世界の壁の高さは、嫌というほど知っている。ただ彼らなら確実に経験を積んでくれる。これからどう伸びていくのかが楽しみでしょうがない。

「自分がまだ強いうちに、どういう考え方や姿勢で臨めば強くなれるのか、その手本を彼らに見せていきたい」

いつか日本リージョンが、世界の頂点に立つために。

(取材・文 gappo3)

ZETA DIVISIONが日本代表として出場する公式世界大会「2022 VALORANT Champions Tour Stage 1 - Masters Reykjavík」は、TwitchYouTubeにて配信予定。

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