掌編「隻手の戦闘美少女」875文字
暗い、林の中のようであった。
枝々に葉は1枚もないが、何しろ暗かった。木は疎らなくせに見通しが悪い。木以外の風景は汚い鼠のような色だった。ここはあちら側の世界か。
負傷した身で必死に逃げるその様子は救いようがなく紛れもない絶望とわかるし、ピンク色が基調であったらしい服はあちこちが裂けて袖や裾などはボロボロに垂れていた。
根に躓いて受け身が間に合わず顔や腹を地面に擦った。一瞬息が出来なくなり、膝からは血が滲み、ブーツには穴が空いていた。
後ろには敵が迫っていたが、顔をあげた彼女は笑顔だった。そのまま立ち上がり、対峙した。
なぜ笑う、狂ったか。
もう使えるチカラは残っていない。体術に頼るしかない状況だが彼女はこの重傷だ。どうしようというのか。
ピンク色が基調であったらしいノースリーブは肩に赤いフリルがついていたが右側のみボリュームに欠ける。そこにあるはずの腕に力を込めたところで脳の神経に手応えはあっても筋肉や骨はなく、血だけが乾くのを待っているのみ。
必殺技の発動には両手が要る。闘いを終えるには、両手の親指と人差し指を線対称に合わせた二等辺三角形からエネルギー砲を敵めがけて放たねばならない、のに。
どうしよう。今週の闘いが終えられない。
彼女が右腕を失う展開なぞ聞いていない。
しかし、私なら何とか出来るんじゃないだろうか。変身を手伝う要領で、今回だけ彼女の右腕になれるんじゃないだろうか。
そもそも、暗い林の中に迷い込んだ時点で台本と違うのだ。もう何をしても大丈夫だろう。ちがうか?
私が少しオロオロしている間に、彼女は再び負傷していた。左の耳介が破れている。
今週は本当にヤバイのが敵に当たったようだ。彼女がもたなかったら本当にこれが最終回になるかも知れないがそれは避けたい。まだ始まったばかりだし、あと2人の仲間が加わるはずだし、次週に繋げるためにも多少強引な設定改変をしても大丈夫だろう。だろう?
ズガガガーン──。
翌週、無事に青い髪のクラスメイトが力に目覚め仲間に加わったが先週失くした右腕は無いままだった。夢ではなかったようだ。
隻手のプリキ○アも流行るか。
・台本
・敵
・右腕
三題噺に挑戦しました。
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