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死亡診断書が作り出す幻覚 ~「コロナによる死亡」と統計の正確性について

「コロナ陽性死」と「死因:新型コロナ」


都道府県による報告(厚労省事務連絡による計上方法)

2020年、恐怖の感染症として日本に渡ってきた新型コロナ。ではその感染症で日本ではどれだけの人間が死に至ったのだろうか。思い出すのもおぞましいが、テレビで毎日感染者数と死亡者数が発表されていた。それはまるでその怯えろ怯えろと、民衆に呪いを放つようだった。その死者数はことあるごとに累積で発表され、メディアは「新型コロナでこのように大勢の人の命が失われ」とお題目を唱えるに至った。

さて、自治体等の報告では2021年末までにコロナで亡くなった方はおよそ18000人というところ。その死者数の数え方とはいったいどのようなものだっただろうか。

東洋経済ONLINE
https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/
Our World in Data

コロナ騒動に疑問を持った人たちの間ではおなじみの令和2年6月18日の「厚労省通達」では「新型コロナウイルス感染症の陽性者であって、入院中や療養中に亡くなっ た方については、厳密な死因を問わず、「死亡者数」として全数を公表するよ うお願いいたします」と書かれているので、「コロナ陽性になってから亡くなったら、何で亡くなってもコロナ死じゃないか」という意見もあり、それはまさしくそうだった。

厚労省事務連絡「新型コロナウイルス感染症患者の急変及び死亡時の連絡について」https://www.mhlw.go.jp/content/000641629.pdf

以下は2022年2月17日の記事だが、顕著なので引用する。
タイトルは「<新型コロナ>神奈川県で死者35人発表、過去最多」で、新型コロナウイルス感染し死亡した人数について書いているのだが、とある有料老人ホームでクラスターがおき3名死亡したのだが「死因は全員老衰という」ことだ。死因は老衰なのに、コロナ死として公表されていた。ほかの病院での死者も「咽頭がんと肺がんを患っていた」とある。普段なら「老衰」「癌死亡」になるはずのものも「コロナ死」とされていたのだ。

東京新聞WEBより


厚労省の統計では是正されていたのか?(人口動態統計)

「なんでもコロナ死なんだから、コロナ死者数は嘘じゃないか」
そういう声ももちろん上がった。そして、それに対する反論がお医者様からあがった。

「厚労省が新型コロナの死亡者数を水増しする通達を出している」は正しくない情報 医師が解説
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/30cf80c30c166dd3db1e3faa198801ee1d734800
「感染症法における「報告」と死亡診断書に記載される「死因」の2つがある。この区別がついていないと話がわかりづらい。ただ2つの数字の差はとても多いというわけではない」
というキャプションが付いていた。

上記記事で著者の大津先生は以下のように解説している。
「感染症法上の報告を用いて公表するとした厚生労働省の通達は、「速やかに死亡者数を把握する観点から」行う意図であると衛生主管部(局)に伝えています。しかしそれは、死亡診断をすべて新型コロナにするということではありません。医師が記載する死亡診断書には本当の死因を記載します。そのため、死亡診断書から死亡票を経て集計される人口動態統計の死因は、「新型コロナで亡くなった人」の本当の数です」

さて、では人口動態統計の死因は本当に「新型コロナ死亡者」を数えているのか。

人口動態統計にも2ヶ月後に公表される速報、5か月後に公表される概数、そしてその概数に修正を加えた確定数(調査年の翌年9月に公表)がある。つまり確定数が診断書のチェックも修正も終えたものということになる。
では2021年の確定数では新型コロナ死者は何人いたのだろうか。

令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況より抜粋

「新型コロナ」は特殊目的用コードで計上されている。2020年に亡くなった方の総数は3,466人、2021年は16,784人、合わせて20,250人。なんと自治体の報告数を上回っている
大津先生の表を見返してよう。「コロナ陽性なら厳密な死因を問わない」統計よりも「新型コロナが原死因の場合のみ」計上された人口動態調査ほうがずっと数が多いようでは、「水増しは本当だった」と思われても仕方ないのではないか? なぜこんなんことが起きるんだろう。

診断書は本当に正しいのか?

死亡診断書の記入ルール


大津先生は「医師が記載する死亡診断書には本当の死因を記載します」と書かれているが、お医者様は何を持って「本当の死因」を記入し、誰が「原死因」を決めているのか。

厚労省の「死亡診断書 (死体検案書) 記入マニュアル」解説が載っている。死亡の原因の欄には「直接の死亡の原因となった傷病名等を(ア)欄に、(ア)欄の原因となる傷病名等があれ ば(イ)欄に、(イ)欄の原因となる傷病名等があれば(ウ)欄に記入します」とある。「欄が不足する場合には、(エ)欄に複 数の傷病名等を記入」最後に「直接には死因に関係していないが、Ⅰ欄の傷病等の経過に影響を及ぼした傷病名等があ れば記入」。つまりⅡ欄は死因に関係していないものが書かれる。そして診断書Ⅰ欄の最下欄の傷病が原死因とされることが一般原則とのこと。

「死亡診断書 (死体検案書) 記入マニュアル」より https://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/dl/manual_r05.pdf


【Ⅰ欄の記載方法】

さらに厚労省の資料で「疾病及び死因コーディングについてのルール及びガイドライン」にも詳しく解説されているが、インフルエンザでの例を見てみよう。患者はインフルエンザが原因で心疾患に罹り、最後は急性心筋梗塞で亡くなっている。このようなときの原死因は「(b)のアテローム硬化性心疾患」を選ぶべきとある。このように感染症がきっかけで死に至っても、Ⅰ欄(a)(日本の診断書では(ア))欄には直接死因が書かれるし、Ⅰ欄の最後に感染症名が書かれていても、基本は原死因に採用されないようである。

インフルエンザが原因で死に至っても原死因として採用されない例

同資料に逆のケースも書かれている。「がん患者の中には感染症にかかりやすく なり、これにより死亡する場合」は「がん」の方を死因に選ぶとされる。

直接死因は帯状疱疹(ヘルペス感染)だが、原死因は免疫低下の原因となった白血病を選ぶ。

以上を踏まえると、たとえ新型コロナ陽性のまま死亡しても、そして新型コロナが原因で別の病気になりそれが原因で亡くなっても、また基礎疾患が新型コロナ感染のせいで重篤化して死亡しても、原死因で「新型コロナ」を選ぶケースは稀だろうと考えられる。では実際に診断書ではどう書かれているのだろうか。

「新型コロナ」はルール無用

新型コロナを死因とする死亡診断書についての研究がある。
「新型コロナウイルス感染症の複合死因分析:2020~21 年」には、新型コロナウイルス感染症が死因欄に書かれた死亡診断書の統計が掲載されている。

新型コロナウイルス感染症の複合死因分析:2020〜21年
別府 志海,篠原 恵美子 厚労科研報告書より

上記表を見ると、2020年も2021年も圧倒的に「Ⅰ欄(ア)」にCOVID-19が記載されており、全死因と比較すると原死因として選ばれる率が非常に高いことがわかる。Ⅰ欄のどこに書かれていても大部分が原死因になっている。上記報告書には「Ⅰ欄アに COVID-19 の記載がある場合をみると、Ⅰ欄アでは COVID-19 以外では肺炎の記 載が若干みられるが、Ⅰ欄イ~Ⅰ欄エへの死因の記載はほとんどなく、COVID-19 以外の死 因は主にⅡ欄に記載されていることが分かる。その場合の主な死因は、糖尿病や心不全、慢性腎臓病が多くなっている」とある。死に至る重篤な基礎疾患を「死因とは無関係」とし、新型コロナ感染のみを死因として書く。先ほど挙げた「死亡診断書」のルールとずいぶん逸脱してるのではないか。これが大津先生の言う「本当の死因」なのか? 

なぜこんなことが起こるのか。大病院の医師に個人的に話を聞いてみた。
「死亡診断書はそれぞれの医師が判断するので、明確な決まりはない。自分の恩師のやり方を踏襲するのだと思う。ただ医師は命を救おうと働いていて、亡くなってしまった方にはなにもできない。それに死亡診断書をいくら書いても金にも実績にもならないから、いい加減に書いてしまう医師もいる」とのことだった。他の医師や専門家にも聞いて見たが、かっちりと明確なルールはない。あまり圧力をかけて医師の判断を狂わせてはいけないという配慮かもしれない。

法医認定医の方にもTwitterで訪ねてみたが、やはり診断書の書き方には個人差があるようだ

それにしても新型コロナの診断書は極端だと思われる。その件についても上記の医師に聞いて見たが「それはやはり最初の厚労省の通達に影響をうけているのではないか」と言う。あれは自治体にむけて発信されたものだが、あれを聞いて「自分たちもコロナに感染した患者は本来の死因に関係なく、死因は新型コロナとするべきなのだ」と勘違いしたのかも知れないというのだ。

東京新聞WEB[
<新型コロナ>県、死者65人に修正 感染者は死因問わず集計へ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/36775

確かに、当時「感染者は死因問わず集計へ」というニュースが流れた。当時まだ新型コロナによる死者は累計でも1000人に至っておらず、コロナによる死亡診断書を書いた医師も少なかったし、何より感染者が非常に少なくて、コロナを診た医師も稀だったはずだ。そんな中で上記ニュースを見れば「なるほど、死因を問わず集計するのか」とⅠ欄に「COVID-19」とだけ書いてしまう医師もいるかもしれない。
 
私の友人の御父上が無くなった際、高齢のため身体が衰弱し、まもなくお看取りだろうという日にコロナ陽性と判明、数時間後、肺に炎症もないまま死亡。渡された死亡検案書にはⅠ欄(ア)に「新型コロナ感染症」とだけ書かれていた。その写真も見せてもらった。

現実にそのように診断書を書いた医師がほとんどだったのだ。

絵にかいた化け物を現実に産み出す作法

アメリカの新型コロナ死亡診断書

実はアメリカでも死因の水増し問題は話題になった。「コロナ感染者のうち死因を問わずコロナ死に計上」はWHOの方針だったので当然のことだ。しかし、アメリカはきちんと「コロナ以外の死因」も記載している。CDCのコロナ死関連ページには「死因がCOVID-19とだけ書かれたものは5%」とある。
アメリカは2020年の早い時期からきちんと「コロナ以外の死因」も計上し、分析をしているのだ。

Deaths by Select Demographic and Geographic
Comorbidities and other conditions
Characteristicshttps://www.cdc.gov/nchs/nvss/vsrr/covid_weekly/index.htm#Comorbidities


通達が生み出した幻覚が、本物の脅威を創り出す

本当に新型コロナという感染症から市民を救いたいと思うなら、感染から死にいたる正確な経緯を診断書に書き、後の研究や調査に生かそうとするべきだろう。政府や保健機関の「コロナ感染の恐怖煽る」手法に載せられて、本来期待されていない「死亡診断の偏り」を産み出してしまった日本医療界。その偏りはやがて新たな脅威を産み出す。
「死因を問わずコロナ死に分類されていた」という「仮のコロナ死者」が、死亡診断書の裏付けを持って、さらに大きな「”本当の”コロナ死者」を産み出した。

新型コロナが5類になり、世間がコロナを恐れなくなっても、ずっと語り継がれるだろう「コロナの死者数」。それは「新型コロナは5類になるまでに約7万5千人の死者をだした」恐怖の病として語り継がれる。正しい統計も出せないまま。

その数字は西浦先生の数理モデルや、ワクチンの効果の表す「約何十万人を救った」という根拠に利用される。間違ったパラメータは偽の効果を裏付けし、次にまた「驚異の感染症から守る」というお題目の感染対策や、市民の行動制限につながっていく。
それは次にやってくる本物の脅威となる。

たかが診断書、されど診断書。
日本の呑気なお医者様方の無責任な勘違いが、巨大な化け物を現実に創り出していくのだ。


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