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すごいぞ!「クイズ!脳ベルSHOW」

※文中敬称略

疲れた。ただ疲れた。
私は「テレビを視ること」に疲れた。
したり顔で政治家を批判し、溺れる犬を叩き、怒りを煽動する。
別室から漏れ聞こえる音声に「何様だ偉そうに」とつぶやいた。

そんなとき、逃げるように転がり込んだ先が「クイズ!脳ベルSHOW」という番組だった。

その存在は知っていた。「BSで放送されている垢抜けないクイズ番組」という認識。
そんな番組が「地上波テレビとの縁切寺」になるとは。

まずは番組の概要を説明する。放送局はBSフジ。放送日時は毎週月曜日〜金曜日の22時〜22時45分。クイズ番組としては珍しい帯番組だ。
司会者は「ますだおかだ」の岡田圭右と、フジテレビアナウンサーの川野良子。解答者は月・火に出演する4名と水・木に出演する4名の合計8名。月・火の上位2名と水・木の上位2名が決勝に進出し、金曜日に再度4名で優勝を争う。
これだけを聞けば何の変哲もない番組のように見えるが、その内容がすごい。ここからは、2021年2月24日と25日の放送を取り上げ、この番組の魅力をご紹介する。

[1]解答者の人選が秀逸

この日の解答者は以下の通り。

中村玉緒|石橋保|西村知美|吉田照美

いずれも一斉を風靡した著名人である。が、失礼を承知で言えば、バリバリのトップランナーではない。基本的に、この番組の解答者には「久しぶりに見た!」という人が混じる。たまに「マジで知らない」という人も混じる。だが、それが思わぬ面白さを生む。

この日は大きな事件が起きた。途中、クイズの答えに「唐沢寿明」が登場。これは解答者の石橋保が「愛という名のもとに」で唐沢と共演したことが理由だったのだが、これがとんでもない事態を引き起こす。
次の問題が出題され、シンキングタイムが始まる。解答者たちはペンを走らせるのだが、なんと中村玉緒が石橋保に話し掛けたのである。しかも一言や二言ではない。長々と石橋に「私、唐沢さんと共演したことがありましてね。唐沢さんによろしくお伝えください」と話し続けるのである(笑)
石橋は答えを書きたいが、大先輩である玉緒を無碍に扱うわけにもいかない。困惑する石橋。そこへすかさず司会の岡田が助け舟を出す。「あとで楽屋でやってください!」。ようやく石橋は玉緒から解放され、無事に答えを書くことができた。

普通のクイズ番組であれば、中村玉緒の行動は暴挙に他ならない。しかし、この番組ではそれが許される。高齢の解答者や得点の伸びない解答者をアシストする…というか、正解が出るまで待ったり、ほぼ答えを教えたりすることもある(笑)おおよそクイズ番組ではありえない光景だ。それが許される緩さと懐の深さ。その自由な空気が「どうなるんだろう?」というワクワク感を作り出す。
もしこれが「番宣のために集まった解答者」だったら。予定調和に進行するだろうし、面白さが期待値を超えることはないだろう。一見むちゃくちゃな「ごった煮の集団」だからこそ、時に爆発的なパワーを生み出すのだ。

[2]岡田圭右のMC適性

そんな「ごった煮の集団」を仕切るのが司会者の岡田圭右である。世間的には「スベリ芸の人」という印象が強いだろう。そんな人にこそ、この番組を見てほしい。間違いなく印象が変わる。
先に紹介した「中村玉緒の暴走」にストップを掛けたのは岡田だった。そのタイミングが完璧なのである。玉緒をある程度泳がせておき、機を見計らって「あとで楽屋でやってください!」とツッコむ。もし早々に「クイズ番組なんですから、隣の人に話し掛けないでください!」と待ったを掛けていたら、あの場面は生まれなかった。
更に言うならば、同時に出演していた西村知美も、中村玉緒に負けず劣らずの天然キャラである。この日も「シャインツインしだ様」という珍回答を飛ばすし、エピソードトークはどこに着地するのか見当がつかない。そんな西村もある程度自由にさせ、適度なタイミングで軌道修正を図る。解答者の面白さを引き出しつつ、そつなく番組を進行する岡田の名司会者ぶり。視聴者から「猛獣使いのよう」と称されるのも納得だ。

驚くべきことに、この番組は1日で5本収録。年齢も性別もジャンルも違う著名人たちを相手にこのスケジュールをこなす仕事ぶりも、名司会者と呼ぶにふさわしい。

[3]優勝賞品は「あきたこまち5kg」

1グループ4名ずつ、2グループで合計8名の著名人が争うこの番組。その優勝賞品は「あきたこまち5kg」である。厳密に言えば月・火の優勝者と水・木の優勝者にあきたこまち5kgが贈呈され、週間チャンピオンには更に10kgが贈呈される。
私は「一斉を風靡した著名人たちが、クイズ番組であきたこまち5kgを争う」という図式が面白くて仕方ない(笑)店頭で購入しても、せいぜい2000円〜3000円である。週間チャンピオンの10kgでも5000円前後で買えるだろう。それを著名人たちが争う。しかも帯のクイズ番組で。
普通、クイズ番組の優勝賞品といえば現金10万円とか、ダイヤモンドとか、海外旅行とか、そういうのが相場である。しかし、この番組はお米5kg。ショボい。どう考えてもショボい。でも、よく考えたら、芸能人がクイズでどんな賞品を持ち帰ろうが視聴者にはどうでもいいのである。むしろお米5kgのほうが庶民的で好印象かもしれない。

[4]誰が呼んだか「ちょっとマシなご長寿早押しクイズ」

この番組のキャッチフレーズは「年齢とともに衰えていく脳に警鐘を鳴らす脳活性化バラエティー!」である。解答者は40代以上。70代や80代が出演者することもザラだ。
個人的な印象として、この番組は「ゆるいマジカル頭脳パワー」のようだと思う。今をときめく芸能人なら、当然答えられるような問題がほとんどだ。しかし、解答者たちはそれを間違える。白紙回答も多々。早押しなのに10秒以上誰も押さないということもある。それどころか、自分の出演作が問題に出てきても、当時の共演者どころかタイトルそのものを忘れていることもある。もはや警鐘を鳴らされても手遅れではないか。
そんな有様なので「ちょっとマシなご長寿早押しクイズ」と呼ばれることも。頻繁に飛び出す珍回答の数々。だから肩肘を張らずに楽しめるのだ。

ただ、中村玉緒に関しては「ガチのご長寿早押しクイズ」だったと思う(笑)

[5]心地よい懐かしさとB級感

解答者の顔ぶれは「40代以上」「かつて一斉を風靡した著名人」がほとんど。「懐かしのあの人」という面々だ。出題される問題も「ヒット歌謡の歌詞」や「今から○○年前のCM」などが多く、クイズ周りだけでも懐かしさを感じる。
加えて、演出面も一昔前のテイストだ。問題が出るときの効果音は「ジャン!」だし、週間チャンピオンを決めるのはすごろく、しかもサイコロを振るスタイル。アナログ感ムンムンである。
この古臭さ、懐かしさを感じる解答者と番組内容、これらが合わさって独特なB級感が醸し出される。一流レストランでもチェーン店でもない、地元の定食屋に久々に行って「昔と何も変わっていない」と思うような感覚。そういうお店にしか出せないような、独特の味わいと心地よさを楽しめる。

[6]これは「全世代型バラエティ」だ

「ゆるいマジカル頭脳パワー」と書いたように、この番組では頭をひねって考える問題が出る。こういう問題は若いほうが有利だ。一方で、途中からは「懐かしの○○」という問題が増える。こちらは年長者のほうが有利だ。
我が家でも脳トレ系の問題は30代の私が強く、懐かし系の問題は還暦の両親が強い。特に、ヒット歌謡の歌詞を答える問題は両親が即答し、私はお手上げというパターンばかりだ。
仮にもう一世代下の子ども世代が視聴したとしても、その親世代や祖父母世代と一緒に楽しめるだろう。若い世代が得意な問題と、年長者が年の功を発揮する問題が、うまく散りばめられているからだ。単なるクイズ番組ではなく「全世代型バラエティ」と言っても過言ではない。

[7]老いる楽しみここにあり

「子供笑うな来た道だもの 年寄り笑うな行く道だもの」という言葉がある。
だが、この番組を見ていると「年寄りを笑ってもいいじゃないか」と思えてくる。かつて一斉を風靡した著名人も衰え、自分の出演作でさえ忘れることもある。個人によって差はあれど、人間誰しも衰えるのだ。無理に若く取り繕っても限界がある。それよりも、その衰えを素直に受け入れ、みんなで笑い合うほうが幸せなのではないか。
そう考えた途端、老いることも悪くないと思えてきた。大げさかもしれないが、この番組からは「老いる楽しみ」を学ばせてもらっている。
東大生が頭脳を自慢したり、話題の芸能人が100万円を獲得したりするより、旬を過ぎた著名人が珍回答を繰り出しながらお米5kgを争うほうが断然面白いのだ。そこには「老い」という地続きの親しみや、等身大の人間の姿や、間違いを笑って吹き飛ばす大らかさがある。

こんな真面目なことを書いているうちに、今週の「クイズ!脳ベルSHOW」が終わった。放送を見ていたら、お堅い文章を書いているのがバカらしくなってきた(笑)長々と書いておきながらこんなことを言っては元も子もないが、こんな説明聞かなくても刺さる人には刺さる番組。それが「クイズ!脳ベルSHOW」だ。


さて、本日2021年2月27日(土)19時から、BSフジにて「脳ベルプロレスリング」という特番が放送される。往年の名レスラーたちがいつものクイズに加え、テレビゲームや駄菓子屋ゲームで競うとのこと。出演者は長州力、天龍源一郎、武藤敬司、蝶野正洋など。名前を見るだけでワクワクが止まらない。果たしてこの強烈な面々を岡田圭右がどう仕切るのか。期待に胸躍らせて待っている。

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