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夏の終わり 【短編小説】

湿った夜の空気。火花がチリチリと地面に落ちる音だけが静けさを破る。線香花火、それぞれの火が小さくゆらめきながらも、まるで張り詰めた糸のように消えずに燃え続けている。

手元で感じるその微かな震えは、儚さの象徴だ。揺れる光の粒が、次の瞬間には消えてしまうかもしれないと知りながらも、その一瞬一瞬を見守りたくなる。火の粉が落ちるたび、心の中で何かがこぼれ落ちるような気がした。

遠くで虫の声が響く夜の静けさの中、時間が止まったかのように思える。それでも、線香花火の火は少しずつ短くなり、やがて燃え尽きる運命をたどっている。

まるで、あの夏の日々のように。どんなに大切にしようとしても、握りしめているうちに指の間からすり抜けていくように、やがて手の中には何も残らなくなる。

しかし、たとえ火が消えても、その温もりと光の残像は、しばらく心に留まる。それは、忘れたくない思い出のように、胸の奥でかすかに光を放ち続ける。


線香花火を楽しめる年齢になってしまった――25歳。昔はただの小さな遊びだったはずのものが、今では心に響く何かを感じさせる瞬間に変わった。子どもの頃は、ただ無邪気にその光を追いかけていたのに、今はその儚さや美しさを深く噛みしめる自分がいる。

火が消えるまでの一瞬一瞬に、何かを重ねてしまうようになった。終わりがあるからこそ、美しい。線香花火の短い命が、時間の有限さを静かに教えてくれる。25歳という年齢は、ちょうどそのことを実感し始める頃なのかもしれない。

若いと思っていた日々が過ぎ、少しずつ大人の自分が見え始める。でもまだ、その中には子どもの頃の無邪気さも残っていて、線香花火を手にした時、その両方が交差する瞬間がある。

25歳の今、夏の夜の静けさの中で火花を見つめながら、過去と未来を思い、ほんのひとときの安らぎとともに、時間の流れを感じている。

線香花火が途中で消えてしまった。火がチリチリと落ちる様子をじっと見つめていたのに、最後まで燃え尽きることなく、ふっと消えてしまったその瞬間、心の中にもぽっかりと穴が開いたような気がする。


最後まで燃えてくれない――まるで、計画通りにいかない人生の断片のようだ。期待していた未来が、予期せぬ形で途切れてしまうこともある。それでも、その途中までの光は確かに輝いていた。それが短かったからこそ、儚さに胸が締め付けられるのだろうか。

半分で終わったその花火は、満足させてくれなかったかもしれない。でも、その途中までの時間もまた、一瞬の輝きであり、意味のあるものだったと信じたい。