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Life is Strangeのコミックシリーズの話

本記事は「Life is Strange」シリーズのネタバレを含みます。
・Life is Strange
・Life is Strange Before the Storm
・Life is Strange 2
・Life is Strange True Colors

Life is Strangeのコミックシリーズ

"An outstanding sequel and a must-read for fans"
ということで、このシリーズは「Life is Strange」本編の後日談を収録したコミックである。私がこのシリーズの存在を知ったのは2019年の秋ごろ。そして、つい最近完結編の6巻が発売されたので、どんな話か紹介していこうと思う。上記のリンクを見ていただければわかるがKindle版でも値段はそこそこ高いし(一巻あたり1700円程度)、当然だが日本語のローカライズはしていない。ただ、Kindle版はコマ送りで読める機能があるので、読みやすい部類だと思う。

全6巻構成

以下はコミックシリーズのネタバレがあり、これから読みたい方はここで引き返していただきたい。また、面白いかどうか。といった話については「Life is Strangeのキャラクターそのものが好き」という方「どんな内容であれシリーズのファンなので知りたい」という方以外には、おすすめはしません。ちなみに私は後者のパターンです。

あらすじ

話の始まりは「Life is Strange」で"Sacrifice Arcadia Bay"を選んだ世界。冒頭でマックスがカオス理論、バタフライ効果についての独白から始まる。

"I used to wonder as a kid: if the butterfly knew what it was doing, the damage it was causing… would it keep on flying?"
"For a while I thought I had an answer. I became the cause and the effect. I became the chaos of a butterfly's wings until… I stopped. "
"But then I saw the truth…"
"I wasn't the butterfly. I never was."
"…I was a particle of dust caught in the beat of its wings, just like everything else."
Life is Strange #1 "Dust" Arc Chapter #1

彼女自身がバタフライ効果の「はばたき」を起こす側だと思っていたが、彼女自身もまた「はばたき」によって生じる「チリ(Dust)」の一片でしかないことを知る。これが本作の世界観(設定)の根幹になっている。

©Emma Vieceli :TITAN COMICS

舞台はアルカディア・ベイが竜巻に襲われてから1年後の2014年のシアトルから始まる。マックスとクロエはそれぞれフォトグラファー・グラフィックデザイナーとして、友人のバンド「The Highseas」の仕事を手伝っていた。そんな中、アルカディア・ベイはプレスコット財団により復興を目指しているというニュースが報じられる。クロエは自分が助けられたことで「選択しなかった結末」への思いが強く残っており、それはネイサンにより失われたレイチェルや竜巻によって失われたアルカディア・ベイの人たち、そして母親のジョイスへの思いが彼女の頭をめぐる。

©Emma Vieceli:TITAN COMICS

クロエはこれ以上ここに居られないとマックスの元を去ろうとし、引き留めようとした瞬間、なぜか彼女の背後からクロエが現れる。そしてマックスは鼻血を出していた。マックスは時間遡行系の超能力を使ったときに副作用として鼻血が出るのだが、当然彼女は能力を自発的に行使した覚えがない。一つわかったことは、マックスが見たクロエと、クロエの見たマックスに矛盾が生じていること。
不可解な状況はその後も続き、バンドの演奏中にさっきまで一緒にいたクロエが突如いなくなる。慌ててマックスは鼻血を撒き散らしクロエの名を呼ぶも、青髪の女の人なんていないよと周囲は言い、友人でもあるThe Highseasのメンバーは「アルカディア・ベイのクロエ?」とまるで既にいなくなった人物のように扱う。他のメンバーに「え?だってクロエはー」と言い放つところで、マックスはいつの間にか倒れて、クロエに支えられているのに気づく。

©Emma Vieceli :TITAN COMICS

なぜ、いきなりクロエが現れたり、消えたり、違うクロエになっていたりするのか?なぜ、マックスはそのたびに鼻血を流すのか。その原因を探しに、ふたりはアルカディア・ベイに戻ることを決心する。

「時をかける少女」から「世界線をかける少女」に

©Emma Vieceli:TITAN COMICS

本作において、マックスは新たな超能力に目覚めている。

・その場にある「選択しなかった結末=並行世界」が見える
・並行世界の人物と会話したり、触れ合ったりすることが可能
 (並行世界にマックスが存在する場合、その存在と置き換わる)
・マックスと物理的に接触することで、並行世界のビジョンを共有できる
・並行世界にその人物が既に存在しない場合、会話などができない

ただ、この能力はマックスが受動的なビジョンとして勝手に見えてしまっているだけで、実際は「他の世界線に飛ぶことができる」能力である。
ブラックウェル校で「選択しなかった世界」のウォーレン・グラハムと出会い、マックスの能力について示唆を与える。彼はマックスのことを、アメリカのテレビアニメ“Quantum Leap(邦題:タイムマシーンにお願い)”の主人公にサム・ベケット博士のようだと評している。

©Emma Vieceli:TITAN COMICS

マックスは夢の中で、Strings(ひも)と表現されるたくさんの並行世界を垣間見、それらが彼女に干渉してきている(今いる世界から、その世界に引っ張られてばらばらにされそうになっている)ことを強く感じるようになる。アルカディア・ベイを犠牲にしてから一年。今いる自分は本当にその世界にいるべき自分なのか?そういった運命に翻弄される人生はもう嫌だと、彼女は自身が生き残る世界線に飛ぶ。そしてマックスは2014年のサンタ・モニカ・ビーチで目を覚まし、眼前に居たのはー。

感想

ファンサービスの側面が大きい作品

©Emma Vieceli:TITAN COMICS

"This action will have consequences…"
Life is Strangeの最後の選択において、"Sacrifice Chloe"と"Sacrifice Arcadia Bay"のエンディングの違いを見たことある人はご存知の通り、前者は"Spanish Sahara"をBGMに、今までクロエと過ごしてきた思い出の写真が消え、葬儀で終わる長めのムービーシーンに対し、後者は”Obstacles"をBGMに、壊滅したアルカディア・ベイを黙って去っていく比較的短めのムービーで終わる。クロエを助けることは”オリジナルの”マックスの世界線では起こらなかったことで、その時点で、違う世界線に居ることが示唆されている。

私の感覚では、Life is Strangeはクロエの物語だった。"Before the Storm"のエクストラエピソード"Farewell"での父ウィリアムの死と親友マックスとの別れ、"Before the Storm"での人生の躓き、継父デイビッド・マドセンとの衝突、新たな親友レイチェルとの出会い。そしてLife is Strangeでのレイチェルとの別れ、マックスとの再会。彼女の人生は、ふたりの親友の存在によって初めて充実したものになっていた。そして、かつての自暴自棄だったころと違って、彼女は自らの死の運命でさえ受け入れられる覚悟ができるほどに、周囲の人間を思いやれるようになっていた。

©Emma Vieceli:TITAN COMICS

私はこのシリーズにおいて、「生かされた」クロエがどうふるまっていったかといったことに興味があったが、読み進めてみれば、このコミックスは終始マックスが主人公の物語であった(当たり前なんだけど)。さらに言えば、「もし、マックスとクロエとレイチェルがみんな健在だったら」という物語を描くことを前提としてこのシリーズが出来上がったと思う。オリジナルのタイムラインではレイチェルはどう転んでもマックスの力が及ばない運命をたどっており、上記の"if"を実現するには「レイチェルがジェファソンに出会わなかった」世界が必要だった。オリジナル版でマックスが時間を巻き戻してきた結末は実はすべて存在する未来だとすれば、レイチェルがクロエとロサンゼルスに移ったタイムラインがあったっていいじゃない。

クロエが尊い

©Emma Vieceli:TITAN COMICS

オリジナルのタイムラインに残されたクロエは、「ひとりで大丈夫だから」とマックスを違う世界に送り出す。そして、マックスはレイチェルたちの世界線で世界線をジャンプする能力を使う方法がわからなくなり、2年間を過ごすことになる。その間、クロエはひたすらマックスの帰還を待つ健気な女性となっている。彼女は本編で自らと引き換えに亡くしたものに対し強い想いを持っており、それを動機として何をするのだろうと思ってはいたのだが、展開の都合上、それらのプロセスの描写はすべて省略され、最後の最後にサプライズ的に一度に語られるといった形になっている。

当初は2年間も別れることになるとは思っていなかったのだろうが、突如いなくなったマックスがどこにいったのかを周囲に説明するのに「彼女はオフグリッド生活をしている」というウソをつき続け、マックスの両親の追求にあいそれも無理筋になってきて、結局レイチェルのときと同じくMIAを出すはめになってしまった。クロエはそんな中でもマックスの帰還を信じ、自分のやるべきこと(=自分たちの"HOME"をつくること)に向けてひたむきに努力していた。マックスは特に具体的な描写がないものの、他の能力者が出てくるまでは基本的にNo Ideaであったようで、そっちの世界のクロエとレイチェルと楽しい3人のシェアハウス生活を送っていたという明暗の対比がオリジナルのクロエをより尊い存在にしている。

ふたつの世界線で、クロエのパーソナリティだけは違っており、多くのものを失い葛藤だらけのオリジナルのクロエと、失ったものが少なく、レイチェルと幸せな日々を送るクロエは「明るさ」が違い、その違いを髪色で表現しているようにも見えた(オリジナルのクロエの青髪は途中から染め直さなかったのか、時間経過とともに褪せた色になっていく)。
最後に、オリジナルのクロエは「レイチェルとクロエが幸せに暮らす世界」の写真を見ることで、自分が生き残ることで「亡くなった」ものも、自分とは交わらないどこかで生き続けていることを目の当たりにし、ようやく竜巻の日以来持ち続けていた複雑な気持ちを清算することができた。あとは自分がマックスと幸せにならないとね。

超能力について

©Emma Vieceli:TITAN COMICS

Life is Strangeの世界(Universeと表現される)は、超能力がある世界である。今作ではマックス以外にも二人の超能力者が出現し、彼らの力なしでマックスの物語は完結することはなかった。

作品中に出てきた能力の中でも、マックスだけがずば抜けて強力な能力で、コミックシリーズで「マックスはRewind(時間巻き戻し)をすると違う世界線に飛ぶことがある」ということが判明した。実際、マックスは作中で今まで封印していた時間巻き戻し能力を数回使い、うち3回は未来を改変した。そして能力が強力がゆえに、マックスが元の世界に戻ることがより困難になっていることが示唆されており、彼女は自分の能力をより精緻にコントロールできるようになることを求められている。それをどう解決するのだろうと思っていたら。「クロエとキャッキャウフフする夢を見て自然に使い方を自覚する」という雑な描写で「対象物のみの時間を巻き戻す」能力に目覚める。
最後に本編よろしく竜巻との対峙があるのだが、「私はアルカディア・ベイの時と違う。竜巻からはもう逃げない」と言いながら、自分のいる世界線、帰る世界線に同時発生した竜巻のみを時間を巻き戻し「ほどく」ことで竜巻をなかったことにするという離れ業で元の世界に戻ることになる。

…さすがに問題解決までのプロセスがちょっと雑すぎへんか?

もともと持っていた時間巻き戻し能力は「世界線を飛ぶ能力」である以上、対象物のみの時間を戻せば世界線のジャンプがなくなる。ということなのだろうけど、それにしては解決できる問題のスケールがでかすぎる。と、正直言うと最後の展開には置いてけぼり感を感じました。タイトルの「SETTLING DUST」の語義を考えれば「チリが巻き上がる(=世界線が干渉する)のをしずめる」のを世界線を飛ばない形で解決する。といった感じだろうか。

オリジナルのゲームにおいて「時間を巻き戻す能力」はストーリーおよびゲーム性を強化するためのツールであり、その能力を使い続けた影響が積もり積もって「バタフライ効果」を起こすという、SF的な描写についても違和感を感じることはほぼなかった。しかし、コミックシリーズでは「量子ジャンプ」という概念を出しつつもあまりそれが活かされている感じもなく、あくまでも「近しい可能性を持つ世界線は接続可能である」程度の描写でしかないため、SF的な観点からもあまり面白いとは思えなかった。

本編側とのつながりは?

Life is Strange2

Life is Strange2より

Life is Strange2で"Sacrifice Arcadia Bay"を選択した場合、エピソード5の「アウェイ」のデイビッドのRVの中でクロエとマックスの写真を見ることができる。そこでの彼女は、(過去に対する自責の念から)右腕の入れ墨を黒く塗りつぶしており、髪の毛の色は青ではなく、褪せた感じの緑っぽい色となっている。そして、コミックスシリーズの最後のクロエは、Life is Strange2の見た目と同じとなっている。ただし、Life is Strange2との相違点として、コミックスシリーズでは最後にアルカディア・ベイはプレスコット財団とローカルコミュニティの寄付により復興しているので、コミックスシリーズの結末の世界線≠Life is Strange2の世界線だと考えられる。
世界線は異なれど、Life is Strange2は2017年の話。コミックスシリーズは2014年~2016年の話で、エピローグ(クロエの見た目が写真と同じになっている)の年代は明らかにはされていない。が、最後にクロエが復興したアルカディア・ベイのイベントで「ここに来たい人を知ってる。マックス、もしよかったらー」の一言でマックスが察し「もちろん、彼に会いにどこにでも行けるわ。クロエ、準備はできてる」と「彼」ことデイビッド・マドセンに会いに行くことを示唆している。クロエが仮に髪を染めずに放置していて伸びて最後の髪型になっているとすれば、コミックスシリーズの最後は2017年で、従ってLife is Strange2で「アウェイ」に会いに行った写真のクロエも2017年の出来事だと考えられる。和解には3年はかかったようです。

True Colors(ステフ・ギングリッチ)

©Emma Vieceli:TITAN COMICS

かつてレイチェルに思いを寄せていたステフについては、レイチェルが健在の世界線ではブラックウェル校を卒業後、シアトルを拠点に舞台芸術を仕事にしていて、オリジナルの世界線では登場せず、おまけ漫画でピクシーのTRPG仲間としてオンライン上で出ているのみである(おまけ漫画のステフもどちらに属するかという明確な描写はない)
コミックスシリーズのエピローグにて、ステフはアルカディア・ベイに来るように誘われていたが、その連絡に対し一切のリアクションを見せていないことから、彼女はまだ「心の準備」ができていないようだ。
実際、True Colorsの前日譚の"Wavelength"は2018年の出来事であり、彼女は依然としてアルカディア・ベイで起きたことのフラッシュバックがまだ残っており(クロエが銃殺されようが、竜巻で家族を失おうが同じ展開)、コミックスシリーズのエピローグが2017年の出来事であればタイムラインとしては一致する。ただ、それ以上の情報がないため、True Colorsとコミックスシリーズがつながっているかというのは情報が足りない。

©Emma Vieceli:TITAN COMICS

とはいえ、ボーナス漫画にTrue Colorsのオープニング前にアレックスがヘイブン・スプリングスに行くバスの中の話を書き下ろしているため、割とつながりは意識してそう?単にTrue Colorsのプロモ漫画だと言えばそうかもしれないが。。。


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