『異文化理解力』レビュー: グローバルなビジネス環境で活躍するための必読書
Facebookの読書会グループで紹介された本で、すごく面白くて、感動しました。
グローバルなメンバーでお仕事をされている方の間では、有名な本のようですね。
面白かった要因の一つは、監訳者の田岡恵さんが、前書きでおっしゃっているように 実際のビジネスにおける異文化理解に特化していること。
ケーススタディがいっぱい紹介されています。
もう1つは「カルチャーマップ」を使って、文化の違いを可視化していること。
このマップを使うことで、自分と相手の文化がどれくらい違うかが一目でわかります。
1.カルチャーマップの8つの指標
①コミュニケーション・・・ローコンテクストvsハイコンテクスト(直接的か、間接的か)
良いコミュニケーションは、シンプルで明確なものと考える(ローコンテクスト)。
良いコミュニケーションは、繊細で含みがあり、多層的なものである。ほのめかして伝える(ハイコンテクスト)。
これはなんとなく想像がつきますね。
アメリカ、オランダ、オーストラリア、カナダ、イギリスなどはローコンテクストの左端。
フランス、ロシア、スペインなどは、真ん中。
日本、韓国、インドネシアなどは、ハイコンテクストの右端。
ちなみに ハイコンテクストの文化圏では、学があり教養があればあるほど、話す際も聞く際も 裏に隠れたメッセージを読み取る能力が高くなり、ローコンテクストの文化圏では、学があり教養があるビジネスパーソンほど、明快で曖昧さのないコミュニケーションを取るそうです。
また、大事なのは、指標の相手の文化圏の絶対的な位置ではなく、自分との「相対的な」位置関係の方だそうです。
例えば、アメリカとイギリスはともにローコンテクストに位置しているけれど、イギリス人の方が、ほのめかして話すことが多く、それはブリティッシュ・ジョークに現れていて、これは、アメリカ人には通じないことが多いそうです。面白い。
②評価・・直接的なネガティブフィードバックと間接的なネガティブフィードバック
同僚へのネガティブフィードバックは、率直に、単刀直入に、正直に。「間違いなく不適切だ」「全くもってプロフェッショナルとは言えない」などが使われる。批判はグループの前で個人に向けて行われもする。(直接的フィードバック)
こちらは、柔らかく、さりげなく伝えられる。ポジティブなメッセージでネガティブフィードバックを包み込む。「やや不適切だ」「少しプロフェッショナルじゃない」などが使われる。批判は、1対1のみ行われる。(間接的フィードバック)
さて、アメリカはどの位置だと思いますか?
アメリカは、意外にも真ん中に位置していて、多くのヨーロッパの国が、直接的ネガティブフィードバックに位置しており、特にロシアやオランダやドイツは直接的な批判を行う傾向が高いそうです。
一番右側、間接的なネガティブフィードバックには、予想通り、多くのアジア諸国が位置し、タイ、インドネシア、日本が最も直接的でないとのこと。
最近、注目のインドは、間接的寄りではありますが、日本よりだいぶ直接的。まあ、なんか分かる気がする笑。
また、アメリカ人は、率直な人種のイメージがあるけれど、ネガティブフィードバックに関しては、ヨーロッパよりも遠回しに発言するそうです。
そして、私が意外だったのが、オランダです。
例として出てきたのが、オランダ人同士の同僚が、オフィスで激しく言い合っていたのに その夜の飲み会では、一段と仲良くなっていて、自分のことを思って率直に意見してくれた、ありがたいと思った、と言っていたと。
同じコミュニティのお一人が、近くオランダにご家族で移住されるそうなのですが、少し心配になったりして・・・。
③説得の技術・・・原理優先と応用優先(論理の構築方法)
最初に概念、そのあと議論して結論。(原理優先)
最初に事実、意見、その後結論と概念。議論は具体的。(応用優先)
わかりにくいですよね?
アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアが応用優先。
フランス、ロシアは原理優先。
アメリカとイギリスでは、イギリス人の方がずいぶん原理優先に傾いているということで、両国に留学したエジプト人のエピソードが、わかりやすかったので引用します。
この章のタイトルは、「なぜ」vs「どうやって」です。
つまり、考え方の始まりが違うんですね。
原理優先の教育を受けたフランス人のメールを フランスよりも応用優先の位置にあるイギリス人の同僚達は、読まずに「いつか読むメールフォルダ」に入れてしまうのは、「すぐに本題に入り、話を逸らさない」文化に育ったから、原理優先のフランス人の原理から入るメールをまどろっこしく感じたから。
ところで、アジアは?
アジアは、西洋とは、全く違って特殊で「包括的」に考えるそうです。
これもわかりにくいのですが、特に中国人は、マクロからミクロへと考え、西洋人は、ミクロからマクロへと考える。
ここで私は、西洋医学と漢方や薬膳の違いと似てるかもと思いました。
西洋医学は、臓器の「胃」「大腸」「膵臓」など専門医がいて臓器ごとに診察しますが、漢方は、そうではなくて、体全体を視ますよね。
ビジネスのシーンでも その傾向があって、アジア人には、生産性を上げるために一人一人に要求するものを説明するのではなく全体像を説明してから、お互いがいかに影響し合っているかを提示した方がうまくいくそうです。
ここで、私は、膝を打つというか、妙に納得してしまいました。
仕事は、一人では出来ないことが多く、全体が分かっていた方が効率的に助け合えると思っているので、それぞれ別個に管理しようとしている上司には、やりにくさを感じていたから。
異文化のシーンだけでなく、日本人同士でも文化の「理解力」が有効なんですね。
④リーダーシップ・・・権威のあり方
上司と部下の理想の距離は近いものである。(平等主義的)
上司と部下の理想の距離は遠いものである。序列に沿ってコミュニケーションが行われる。(階層主義的)
デンマークやオランダは平等主義的なリードの左端。
日本、韓国、ロシアは、階層主義的。
デンマークでは、社長は社員と同格で、みんなのまとめ役としてのリーダーで、みんなと同じようにカジュアルな格好をすることが重要。
一方で同じ人がロシアでリーダーになった時、同じように振る舞うと、リーダーとしての資質にかけていると思われてしまうそうです。
つまり、ロシア人のメンバーは指示を待っていたのに 指示してくれないから、不安だというわけ。
またオランダ人をマネジメントした人の話が笑えます。
著者は、平等主義的なリーダーにも階層主義的なリーダーにも どちらにもなる必要があり、その柔軟性を身につけなければならないと言っています。
様々な国から来た様々なスタイルを学ばなくてはいけないんですね。
もうたいへ~ん!
⑤決定・・・意思決定のプロセス
決断は全員の合意の上グループでなされる。(合意志向)
決断は個人でなされる(大抵は上司がする)。(トップダウン式)
この決断に関してはなかなか複雑です。
アメリカは、平等主義的な精神を持ちながら、トップダウン式への意思決定のアプローチをする。
なぜなら、合意を目指すことによって平凡なものが生まれてしまうと考えているから。
また、決断を著者は2つに分けていて「大文字の決断か小文字の決断か」。
アメリカとドイツのチームで仕事をした時、アメリカ人が会議の最後に、「よし、じゃあ決まりだ」と言って終わるそうです。
それに、ドイツ人は不安を感じたと。「まだ詰めていないのに?」という感じで。
ドイツ人にとっては決まりだと言ったらそれは誓約と同じで、次の日になって気軽に意見を変えることはできないけれど、アメリカ人にとっては、世界は常に動いていくから、議論を続けていくための取り決めにすぎないと考えるそうです。
アメリカ人は小文字の決断、ドイツ人は大文字の決断というわけです。
アメリカのこうしたスピード重視の考え方の背景には、イギリスの階層主義的構造から逃れてきた人たちなので スピードと個人主義に価値をおき、またゴールドラッシュなどの成功は、誰よりも早くついて懸命に働くことが重要なので、スピードを追求する上ではある程度の失敗はやむを得ないと考えられるかどうかにかかっていた
決断はいつでも修正できるという考えのもと、スピードを重視する風潮は、今でも国民的文化なのだそうです。
ここでまた、日本の特殊な文化が紹介されています。
階層主義かつ超合意主義の稟議システムについてです。
つまり根回しですね。
これは、外国人の人が、日本人と特に大企業と仕事をする時、学んでおかなくてはいけない重要なポイントかもしれません。
⑥信頼・・・タスクベースか関係ベースか
信頼はビジネスに関連した活動によって築かれる。(タスクベース)
信頼は食事をしたり、お酒を飲んだり、コーヒーを一緒に飲むことによって気づかれる。仕事の関係はゆっくりと長い時間をかけて築かれる。(関係ベース)
タスクベースの左側は、アメリカ、オランダ、デンマークなど。
関係ベースの右側は、ブラジル、インド、中国、ロシア、日本など。
著者は信頼を2つに分けていて、「頭からくる信頼」と「心からくる信頼」があり、頭からくる信頼をタスクベース、心からくる信頼を関係ベースとしています。
特にブラジルやアジアは、まずお酒や食事を一緒にして、それも結構長い時間長い期間費やして、人間同士で仲良くなってから、信頼をして、この人だったら大丈夫ということでビジネスが始まるけれど、アメリカは逆にスピードを重視して、相手のことを思って、無駄な時間をカットして、仕事を進め、その成果によって信頼を得ていくスタイルなのだそうです。
逆に、個人的な関係が仕事に対するアプローチを曇らせることがないように努力をする、予算や融資といった金銭的資源を任せる相手とは意図的に個人的な関係を築かないようにすることも多いとしています。
関係ベースの社会の人は、その関係を築くのに時間をかなりかけるそうですが、関係ベースの人とタスクベースの人が交流するには、食事を共にすることが有効だけれど、1時間のランチが良いと著者は提案しています。
長すぎるのは良くないんですね。
また面白いのは、日本人が大人しすぎて、本音がもっと聞きたいと考える外国人には、飲みに行くことを勧めています。飲みニケーションですね。
⑦不一致・・・対立の扱い方
限界の相違や議論はチームや組織にとってポジティブなものだと考えている。表だって対立するのは問題ないことであり、関係にネガティブな影響は与えない。(対立型)
見解の相違や議論はチームや組織にとってネガティブなものだと考えている。(対立回避型)
対立型は、イスラエル、フランス、オランダ、ドイツ、ロシアなど。
対立回避型は、インドネシア、日本、タイ、中国など。
真ん中にアメリカやイギリス。
中国人の女性が、入念に準備したプレゼンをした際、フランス人の何人もの同僚から、質問や疑問が出たときに 泣きそうになった話が出てきます。
彼女は責められているように感じていたけれど、プレゼンが終わるとさっきみんなの前で彼女を追求した本人たちが、褒めたたえに来たそうです。
フランスの学校ではオープンに見解の相違を述べろと教えられるけれど、中国、韓国、そして日本などの儒教的な社会では、面子を持ちながら調和を維持することが一番重要とされているので、みんなの前で彼女のアイデアに反論することを厭わないフランス人の同僚たちに 中国人の彼女は驚いたというわけです。
また、特に日本、インドネシア、そしてタイは、面と向かって反対されると、中国人よりもさらに不快に感じるそうです。
このような前提の中で、グローバルチームで適切に反論を行うための方法も提案されています。
面白いのは、対立回避型の国では、
白髪の上司の前では、年少者が年長者に反論する場面はほとんどないので。意見は出てこない。
上司は、ミーティングに出席しないことを検討してみる。
ミーティングの後で 出てきた意見を報告してもらうというアイデア。
めんどいけど、有効かも?
他に見解の相違を表明するとき。アップグレードではなく、ダウングレードの機能を持つ言葉を使うようにする。
「とも言える」「多少」「若干」「部分的に」など。
また、「あなたのポイントがよく理解できませんでした」とか「なぜそう思ったかもう少し詳しく説明してくれませんか?」といった言い方をするとか。
さらにめんどいけど、さらに有効かもしれません(笑)。
⑧時間・・・時間管理の観点
重要なのは、締め切りでスケジュールどうりに進むこと。柔軟性ではなく、組織性や迅速さに価値が置かれる。(直接的な時間)
プロジェクトは流動的なものとして捉えられ、場当たり的に作業を進める。大切なのは順応性であり、組織性よりも柔軟性に価値が置かれる。( 柔軟な時間)
直接的な時間は、ドイツ、日本、オランダ、スイス、アメリカなど。
柔軟な時間は、中国、インド、ナイジェリア、ブラジル。メキシコなど。
国によって時間管理が違うことはよく知られていますが、色々な国の人が集まったグローバルなチームは、どのように運営すればいいかについては、事前にしっかりと話し合いを持ってチームのルールを決めておく音が良いと、提案されています。
2.まとめ
うわー、最後まで読んでいただいたんですね。ありがとうございます。
私は、日本で同じ人種に囲まれたオフィスで働いていますが、まるで動物園みたいと感じることがあります(笑)。
ましてや、グローバルな、オフィスで働いている方は、どれだけ大変なのか、私には想像できません。
上司や同僚だけでなく、世界中のクライアントや取引先と効果的に働くために、この文化の違いを読み解く力が。必要になって来るそうです。
大変だけれど、楽しいことでもあるよと著者は言っています。
そうですよね、この本は本当に面白かったですもの。
日本人と日本で働いている私も、外国の人との違いを通じて、自分達を知るきっかけにもなりました。
面子を気にして、反論したり、議論したりすることをしない日本人も本当は、ざっくばらんに反論したり、議論した方が、いいこともあるよねとか、アメリカ人や中国人のように、もっとスピードを意識していった方が良いよねとか、学びもかなり多かったです。
強くお勧めです。スゴ本!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?