見出し画像

このアカウントを開設した理由について~【セリアン/Therian】の現状~

 はじめまして。黒執 梓と申します。
 狼犬の【セリアン/Therian】です。
 私は数年前より、日本国内で【セリアン/Therian】のコミュニティを作る等の活動をしてきました。

【セリアン/Therian】とは、自分自身を人間以外の動物(例えば犬や猫)であると感じ、人間の感性や体の感覚に違和感を覚える人々を指す名称です。
 自分が何の動物であると感じるか、またその気持ちの強さ・発現の仕方については個々人で大きく異なりますが、いずれも『本来の自分は人間ではなく、その動物の精神(大げさに言えば魂)を持っている』と感じています。       
 日本語で既に知られている言葉としては、【人狼症/Lycanthropy】が最も近い概念と言えます。(とはいえ、【セリアン/Therian】は似ているとはいえ若干異なる概念なので、また別の機会で詳しくお話します。)

【セリアン/Therian】という言葉や概念を初めて聞く方も多いかと存じます。それもそのはずで、今まであまり世間やネットで広く認知されていませんでした。日本語圏に至っては、ほぼほぼ無名と言えたでしょう。

 そもそも【セリアン/Therian】としての悩みを抱える人の数はとても少なく、自分からこの言葉を見つけ、積極的に検索しなければセリアンのコミュニティには辿り着けませんでした。かく言う私も、幼少の頃からこの悩みを抱えていたものの、その概念や海外のセリアンのコミュニティを知ることが出来たのはつい数年前のことでした。

 母国語ではない英語での交流でしたが、自分と同じ悩みを持つ皆と出会えたことで、ずいぶん救われたと思います。そこは個人が運営するウェブサイトだったので、大手SNSと比較にならないほど規模の小さいコミュニティでしたが、しかしそれ故に【セリアン/Therian】についての知識をダイレクトに学ぶことが出来ました。自分たちが抱える悩みや問題について皆が真剣に議論して解決策を模索し、協力し合い、そして人生を前向きに考えられるようになる交流の場が育まれていたのです。「もう独りではない」という感覚は、本当に何にも換えられないものでした。

 しかし。昨今、その状況が一変してしまいました。

 ある時期を境に、自らも【セリアン/Therian】であると名乗る人々が奇抜なファッションパフォーマンスを撮影し、その動画をTikTok等のショート動画サイトに大量に流布し始めたのです。

 セリアンを自称する海外の若年層が広めたこの新しい文化ですが、日本語圏にまで認知されだしたのか、「テリアン」というハッシュタグが付けられて十代の若者を中心にものすごい勢いで拡散され始めています。まるで流行り物に乗るかのように「自分もテリアンです」とパフォーマンス動画を投稿する日本の方まで現れ始めました。

 ですが、あれらの動画に映っているセリアンはあくまでも自称・セリアンであって、たとえ海外の動画であろうとも本物のセリアンが撮影したものか定かではありません
 英語圏のセリアンのコミュニティであっても、「自分も【セリアン/Therian】かもしれないから仲間に入れてほしい」とコミュニティに入ってきてパフォーマンスを行い、数ヶ月もしないうちに飽きたからと【セリアン/Therian】を「辞めて」しまう方が近年になって急激に増えています。こういった方々は、ここ3~4年で急速に増加して海外のセリアン・コミュニティでも大きな問題になっています。
 そういった方々が【セリアン/Therian】という言葉をSNSのような大勢の人々が利用する場所で誤用・乱用しているせいで、【セリアン/Therian】という言葉の持つ意味や定義そのものが誤解されるほどの事態にまで発展しているのです。

 最初にお伝えしたとおり、【セリアン/Therian】は決してファッションやパフォーマンスを表す言葉ではありません。あくまで真剣に「自らが元来どういう生き物なのか」という生涯のテーマと真摯に向き合うという概念です。流行り廃りのゲーム感覚で始めたりやめたりすることが出来るものではありません。
『今日の私は猫の気分だから猫のテリアンになってみよう!』というような、その場限りのロールプレイを指す言葉ではないのです。
【セリアン/Therian】とは生まれつきの性質で、自分で選んでなったわけではありません。大半のセリアンが「実際の肉体」と「精神や魂の姿形」との違いに苦しみ、それでも必死で生きています。
【セリアン/Therian】とは本来、とても真剣でシリアスな言葉なのです。

 そもそも、本来の欧米圏の発音である「セリアン」や「シアリアン」ではなく、「テリアン」という間違った呼び方がネット上で定着しつつあることから見ても、【セリアン/Therian】という言葉が持つ本来の意味や在り方が正しく日本に伝わっているとは思えません。
「テリアン」の語源は英語の「Therian」のスペルをそのままローマ字読みしたものが広まってしまったものだと思われますが、これは誤読です。正しくは「セリアン」もしくは「シアリアン」です。
(※主に米国の方が「シアリアン(θɪəriən)」に近い発音をし、ヨーロッパの方が「セリアン」に近い発音をする印象があります。私のnoteでは「セリアン」と統一して記述しています)

 いずれにせよ、仮面や尻尾をつけて人目を惹くパフォーマンスをし出したのは、ごく若い世代の人々です。しかもそういったカジュアルな文化はここ2~3年で広がったものにすぎず、【セリアン/Therian】の歴史からすると非常に浅い文化です。

 それがたまたま人目についてしまって、【セリアン/Therian】の本質の大半を取り除いた上で奇抜なファッションやパフォーマンスだけが輸入されてしまったものが「テリアン」だと私は感じています。若年層の新たな文化を完全否定するつもりはありませんが、ファッション性だけを取り上げて「セリアンとは動物の仮面や尻尾をつけてパフォーマンスして話題になろうとする人たちだ」と思われるのはとても悲しいことです。

 この「Therian」という言葉の誤解と乱用は日本に限らず、今 世界中で起こっています。

 これは1990年代中期から培われてきた【セリアン/Therian】のコミュニティにとって、国籍を問わず看過できない由々しき事態です。私も当事者の一人として、黙って見過ごす事が出来なくなりました。

 自分の出来る範囲、せめて日本語圏の人々に【セリアン/Therian】について、少しでも正しい知識を知っていただこうと考えました。それが、このアカウントを開設した主な理由です。

 このnoteでは、【セリアン/Therian】の歴史、種類、用語等についてそれぞれの記事毎に記述しております。もし興味がありましたらご一読ください。

 また、このnoteが同じ悩みを抱え、苦しんでいる方の一助になれることを願っています。