夕暮れ【後編】

普段の日常が特別な日常に変化していく心を彩る物語

目次
1章 「空」
2章 「観葉植物」
3章−1 「川合」
3章−2 「川合」
4章−1 「向日葵」
4章−2 「向日葵」
5章−1 「夕暮れ」
5章−2

あの日から僕は青彩と連絡を取っていない。しかし、時間は決して待ってはくれなかった。タイムリミットがあるように時間は僕に迫ってきていた。

「時間が解決してくれる」

という言葉はあるが僕のこの問題は、時間で解決したくない。だから、何もできないでいる自分が許せなかった。悩みに悩んだが、悩んだところで何も始まらなかった。行動したい。そう僕の心が言っているような気がする。

会ってみよう。

そう決心して、すぐに電話をかけた。

「もしもし」
「どした?」

普通に繋がって内心ビクっとしながらも青彩に伝えたいという気持ちを振り絞って言葉を繋いだ。

「青彩、今日会えたりしないかな?」
「いいよ」
「大学の授業終わったら、広場で待ってるよ」
「わかった」

青彩の声は、手を伸ばしても届かないところに行ってしまったような声だった。

授業が終わり、広場のベンチに座り待っていた。もうそろそろ17時になる。辺りは薄暗く、広場の街頭だけが僕をスポットライトのように照らしている。今から自分の人生をかけた主人公のような気持ちだった。

「おまたせ」

青彩が17時丁度に来てくれた。

「久々だね」
「そうだね。どうしたの?」
「来てくれてありがとう。青彩と池袋で別れた後、すごく後悔したんだ。なんであのとき、勇気を出して伝えてくれた青彩の言葉に答えられなかったのか。青彩を引き止めてまでも自分の想いを言葉で伝えられなかったのか。だから、今日は伝えようと思って」

青彩は黙りながらも小さく頷く。

「青彩のことが好きで、自分にとっては特別な存在になった。だから、僕と一緒に居て欲しい」

青彩の目から涙が流れた。

そのとき、地球が止まり、宇宙全体が止まり、何もかもが止まって2人だけがこの世界にいるような不思議な感覚に襲われた。

「ありがとう」
「でも一緒には居られない、ごめんね」

理由も言わずに青彩は立ち去ろうとする。何があったかわからないが、立ち去ろうとする青彩の手を今度こそ、引き止めた。

でも、振り返った青彩の表情を見たら僕は手を離すしかなかった。
そして、もう戻っては来ないことを受け入れなければならないと感じた。

広場の街頭がこの想いを優しく見守る灯火のように明るく優しかった。

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このときの青彩の表情は

僕の記憶に鮮明に彩られて

色あせることはない。

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