爆発侍 尾之壱・爆発刀 二四

第二章 温泉宿場の邂逅 九

「行き方知れず、ですか?」
「そうだ。ある日ふと姿が見えなくなって、そのまま何処へ行ったのか。智惠家中でもなにか事件に巻き込まれたか、それとも脱藩蓄電したのか、両方の可能性で調べているらしいが……」
「そう、ですか」
 山北が姿を消した理由は、恐らくおこんに関わる事に違いない。
「それで、山北という男は、どのような人物なのですか?」
「どのような、と聞かれてもな。俺も、稽古の場でしか見知ってはいないのだが……」
 右門に聞かれ、堤は腕組みして考え込む。
「先ほども言ったが、荒削りではあったが、剣の筋は悪くなかった。寡黙な男で、自分からなにかを主張するような事は無かったな」
「藩内で懇意にしていた人物とかはいなかったのですか?」
「藩内の事は良く解らんが、そう言えば、宮部殿と良く話をしていたな」
「宮部殿?」
「ああ、宮部伊三郎みやべいさぶろうと言ってな、藩士では無く、食客扱いで智惠家の世話になっている剣客だ」
「食客ですか……」
 客分として受け入れられていると言う事は、宮部伊三郎という人物、なかなかに腕の立つ剣客に違いない。

 だが、右門の剣に関する記憶知識には、宮部伊三郎という名は存在しなかった。
「お前も知らぬか。俺も聞いた事が無かった」
 右門の顔を見て察したのか、堤が言う。
「どうやら、決まった流派には学んでいないらしい。本人も『我流』を名乗っているしな」
「我流、ですか」
「うむ。変則の二刀流を扱う男でな、確かに見た事のない剣法だった」
「変則の二刀流?」
「ああ。二刀流と言えば、かの宮本武蔵の二天流にてんりゅうが思い浮かぶが、それとは全く違う。そもそも、剣の持ち手が逆なのだ」
「と、言いますと?」
「右手に脇指、左手に大刀を持つ」
「なるほど、逆ですね」
「最初は左利きの剣士かと思ったのだが、所作は全て右前のそれだ」
「剣を持つ手だけが左右逆、と」
「そうだ。しかも、それで滅法腕が立つ」

 剣を左右逆に持つ二刀流、それはどういうものなのだろう、右門の脳裏に、件の剣士が想定される。だが、今まで見たどの流派とも違うその構えがどのように動くものか、右門には全く想定できなかった。

 右門は、その宮部伊三郎という男に興味が沸いた。

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