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わらびさんとのコラボ断髪小説! 不思議な認識の場所

●不思議な認識の場所

職員室にブルーシートを敷き
そこにひとりの若い女の教師が正座させられている…

うつむき加減に髪の毛で表情は見えないが、
栗色のストレートロングヘアがなんとも美しい…

が、
そんな美しい髪の毛なのだが

「これは、本当に必要なことなんですか…?」

じょきり…

正座をさせられた女性の
泣いて震えた懇願の声にも応え返すことなく
無情なまでにバッサリと髪の毛を切ってしまう男性の手

職員室内にいる周りの先生方は、とくに異を唱えるわけでもなく、
まんじりともせず、その光景を眺めるだけ

切られている女教師もとくに抵抗するわけでもなく、
ぐすぐすメソメソと、黙って涙を流しながら鼻をすするばかり

しかし、無慈悲にも髪の毛はどんどん切られて短くされていっている

わたしは、いま目の当たりにしたこの光景を”異様”なこととして見ているが

わたし以外のその他の方々は”当たり前”
の光景として見ているようだ…

どうなっているんだろうかこれは…

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”今の子どもと相対するというのは難しい”

そんなことはよく耳にしていたことだけど、

まさか”学校全体”というのがあんなにも難しい場所だったとは思いもしなかった、、、

いつの時代にも世代によるギャップなんていうものは当たり前に発生する

その時その時の生き方で人間としての思考が形成されていくわけだから、違いがあって当然なのだ

”わたしなら生徒の気持ちを理解した立派な教師になれる”

どこに確信を持っているというわけでもなく
なりたての教師としての自信に満ち溢れたわたしは
自分のことを信じて疑わなかった

ーーーーーーーー・・・・・

わたしは、なにか、間違えたんだろうか、、、

教師としての業というか、
生徒らに多少なりとも嫌われるような言動になりかねないのも仕方のないことだと思う、

今でこそ教鞭を取り、学生にものを教える立場にはなっているが

わたしだって学生時代を過ごしている身

教師への反発の気持ちも知っている

どこの学校であろうとも、やれることは同じ
正しいことを教え、誤った道に逸れないように
生徒の子どもたちを導くのが教師のわれわれ大人だ、と

だが、全ての人間が同じというわけではないことも事実

それに時代でも人は変わる

わたしの知らないことだって起こり得る

ホームルーム中にスマホをぽちぽち弄っている数人の女子生徒らグループを注意したという若い女性の教師がいた

まあ、普通のことだよな、、、

注意するよ、それは

・・・なんだけど、

そしたら、、、

職員室で、教頭先生に髪を切られることになってしまったのだというのだが、、

ブルーシートが敷き詰められた職員室の床に、件の若い女性(同期で一緒にこの学園に新任として赴任してきた高梨美和先生)は

正座して座るように指示されて、そのまま校長や教頭先生たちが来るまで待機させられていた、、、

ホームルームが終わって職員室にもどってきたら高梨先生が床に正座しているもんだから、これは何事かと思った…

そして、

ーーーーーーーー・・・・・・

「どうして…」

震える声を絞り出すように発するのは、高梨先生

周りで見ている他の先生方は
なにもものを言わない、、、

で、目の前で高梨先生の美しく長い髪の毛が
教頭の手によって惜しげも無く鋏で切られているわけで、、、

本当に、なんの手心を加えるでもなく
かといってお店で髪を切るように調髪がされるわけでもなく
ただただテキトーに、バッサリと、、、

バサバサと切られた髪の毛の束はブルーシートの上に積もっていく、

あんなに綺麗な髪の毛を、本人の意思を無視してあんなに切ってしまって、、、

正直イカれていると思った

髪を切る教頭も、
周りで何も言わないで見ている奴らも、みんなみんな、、、

そこにゆっくりと現れた校長が、見物に加わる

この、あとから現れた校長に対して

僅かに、
すがるような想いで高梨先生は勇気を出したのだろうが、薄い希望はなんとも儚げなことか、

「これは、本当に必要なことなんですか…?」

高梨先生のこの発言に対して校長は、

「そんなことを言っているようではまだまだこの学園の教師として相応しくないですね」

「あなたには全く理解力が無い」

高梨先生の気持ちをドン底に突き落としたであろう会心の一撃

高梨先生はそれでココロが折れてしまったようで、

そこからはおとなしく教頭に髪を切られ続けていた、、、

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浸透している思想というのは、こんなにも恐ろしいことだとは思わなかった…

たとえそれが常識的には有り得ないことであろうとも
”洗脳”されたその人々は
何の疑問も持たずにその行為を受け入れている

わたしは、世間の常識を保ったままにこの場にいる

”それ”が実は、この場では異常なことだというのは、自分自身でもひしひしと感じる…

そんなことを感じている時点で異常ではあるのだけれどもさ、、、

この学園で生活していて周りの様子を見ていたら、こうもなってくるというもの…

髪を切られているのにニコニコとしたまま、それを受け入れる女子生徒たち

それを見てもなんの疑問も抱かない周りの人間

その場のことをなんにも知らない第三者の目から見たらそれは全てがとんでもなく”異常者”だと思う



「先生に髪を切っていただけるということは、大変に栄誉なことです」

「先生に髪を切っていただけるのはいつかいつかと心待ちにしておりました」

にこやかな表情を浮かべて、とにかく嬉しそうに髪の毛を切られているし、
髪の毛を切られたいと懇願までしてしまっている

洗脳が極限にまで進んだであろう人間は
こうまでなのかと、、、

ここまでくると、
この学校の”生徒”としての完成品である

わたしは何度となく高梨先生や生徒たちの
髪の毛を切られるのを見ながらも
この行為に対して疑問を抱き続けている

なんで、こんなことしてるんだろう?と…

”あちら側”からしたら、
わたしへの認識洗脳の掛かりは甘くなっているということなので、
おもしろくはないだろう、

だからといってなにをされるというわけではないが、裏でヒソヒソされていることくらいは知っている…

しかし、これが一般社会を生きる人間としての”普通の精神状態”なのである

ここに来てから全てがおかしくなりつつあるが、
この常識だけは失ってはいけない一線だと思う

この考え方を失ったときそれは、わたしもここにいる大多数の生徒たちと同じように”洗脳”が完了してしまったということだろうから、、、、

ああ、、、

あの高梨先生のことをお話しておきましょうか、、、

あの散髪があってから、高梨先生の様子はゆっくりとだが”洗脳”寄りになっていき、
ついには”完成品”となってしまいました…

あんなに拒否感が強かった人でも抗えないなにかのチカラなんだと、目の当たりにして痛感しましたね、、、

そして、これも何故なんだかよくわからないのだが、わたしが高梨先生の”専属”になることに決定されたようで、

「田中先生、次はいつわたしの散髪をしてくださるのでしょうか?」

「みなさん、髪を切っていただけているのにわたしだけは、、、」

と、懇願にも聞こえる質問をされることに、、、

わたしは、高梨先生の髪をしばらく切らないことにした

実は、イカれている、とは思いつつも教頭のことが羨ましかった

高梨先生みたいなあんなに綺麗な髪の毛をバサバサと自由に切るなんて、

見てたらなんだか興奮したのだ
あのときはすごく、昂っていた

当たり前のことだが、
人の長い髪の毛は一度短く切れば
そのときの長さにまで伸びるには
かなりの時間を要する

教頭にバッサリと切られた高梨先生の髪型は、男のように短くなっていて

”完成品”となった今でもまだ、全然短い

せっかくあんなに美人で美髪の高梨先生に髪を切ってくれとお願いされるような立場なのだ、、

わたしだって教頭のようにバッサリと切るのをやりたい

せっかくなんのリスクもなく女性の髪の毛を切る権利を得たわけなので

だから、高梨先生のことは、焦らしている

もはや洗脳された状態の高梨先生は髪を切られたくてうずうずとしているのだろうが、

わたしだって切りたい気持ちを我慢するのがツラい

しかしたまに、生徒の髪を切る機会もある

よくよく考えてみたら、パラダイスなんではないかと思ってしまう自分もいる

この学園のイカれた思想に飲まれた気はないが、

せっかくのこの機会は楽しもうかと思っているところだ…

これを読んでいる人は、わたしが”どっち”なのだと判断するでしょうか…

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