みそわらびコラボ作品☆わらびサイド

”こどもの長髪、邪気発生”





黒地の紙に白で抜かれた明朝体の大きな文字

ただこれだけのシンプルなデザインのポスターが住宅街の電柱に貼り出されていた。

しかも1枚だけではない、
電柱という電柱全てに貼られているのだ。

そして、その特徴的な少し遠くからでも読めるその大きな文字とは別に

その下に赤の小さな文字で説明書きが、、、

以下内容↓↓↓

✃-✁-✃-✁✃-✁-✃-✁✃-✁-✃-✁
””ヤングなヒューマンのメスの髪の毛には
たくさんの悪い”気”が集まってきますのだ
髪の毛を長く伸ばしていてはいけません
すっきりと短くしておきましょう””
✃-✁-✃-✁✃-✁-✃-✁✃-✁-✃-✁

ーーーーーーーー…

このポスターの貼られた近隣に住む、
”髪の長い”女の子の娘を持つ大人たちが井戸端の集いをする、、、

田中、佐藤、高橋(わたし)は、

「こんな怪しいポスター誰が貼ったのよ!」

「新手の宗教かなにかかしら、、、」

「気味が悪いわ、、」

「心配だわねえ、、、」

「警察に相談しましょう!」

と、

それぞれが警戒心や不安感、様々な気持ちを露わにして憤りをみせていた。

今この時この瞬間には会話をする3人が結託しているかのような気持ちの共有感

共通認識の敵視

しかし、ここから
このポスターから

だんだんとなにかが、おかしくなってゆく、

事が動いたのは、田中さん宅の異変からだった、、、

「え?旦那さんがリストラされた?しかも交通事故にあって骨折?」

田中宅に呼ばれて集まっていた私たちに、深刻な表情をした田中さんは泣きながら話をしてくれた。

「もうどうしたらいいのか…」

田中さんは途方にくれていた。
私と佐藤さんは何て声をかけて良いのか分からず、言葉が出てこない。

「この長い髪のせいかな…」

「えっ?」

「ほら、ポスターにあったでしょ?長い髪には邪気が溜まるって…私も娘もロングヘアだし、何か悪い気が溜まっているとしたら…」

田中さんは日頃から風水や占いが大好きで、そういう話は信じやすいタイプであった。

「まさか!あんなポスター信じちゃだめよ!たまたま不安が重なっただけよ」
「そうよ!そうよ!」

「私は働いてないし、夫の稼ぎがないと…。娘たちも来年は高校受験だからお金かかるし、塾代もあるし、もうダメよ…」

私と佐藤さんで必死に説得を試みたが、田中さんは魂が抜けた抜け殻の様にぼーっとしていた。

数日後、
商店街で買い物をしていると、遠くにの方に田中さんの娘の佳奈ちゃんが歩いていた。
しかし、何やら様子がおかしい。
嫌がる佳奈ちゃんの手を見知らぬ誰かが必死に引っ張っている。

「え?あれって田中さん…?」

よく見ると佳奈ちゃんの手を引っ張っていたのは母親の田中さんであった。
すぐに気が付かないのも無理はない。
背中まであった田中さんのロングヘアはどこにもなく、今では男の人のようなベリーショートになっていたのだ。
女性らしいおしゃれな髪型というより、部活少女の様な機能性を重視したさっぱりとした髪型だ。

何かあったのか?声をかけて止めようかと迷っていると、田中さんたちは商店街のお店のドアを開けて中に入ってしまった。

気になってそのお店まで行ってみると、なんとそこは床屋さんであった。

「え?何で?まさか田中さん、あのポスターを信じちゃったの?」

気になった私はガラス張りの店内をこっそりと覗いてみた。
すると、嫌がる佳奈ちゃんが椅子に無理やり座らされている。

「佳奈ちゃん、泣いてるじゃない。まさか佳奈ちゃんがずっと伸ばしていたロングヘアを…」

私が驚いて固まっていると、

床屋のおじさんは佳奈ちゃんにケープをかけ、ブラシを手にした。
白いケープを黒く覆い尽くしている佳奈ちゃんの美しいロングヘアをおじさんは雑にブラッシングしている。
私の位置からは佳奈ちゃんの後ろ姿しか見えない。

そこから先は一瞬であった。

おじさんが手にした鋏が佳奈ちゃんの右の顎辺りでチョキチョキ動いたかと思ったら、大量の黒髪がバサバサと床に落ちた。

もちろん、外にいる私には音が聞こえるはずはないのだが、目の前の衝撃的な光景は私の脳に音を作り出した。

嘘でしょ…佳奈ちゃんはずっとロングヘアだったのに…

おじさんが佳奈ちゃんの後ろに回り込んだので様子が分からなくなる。
しかし、ドサドサと大量の長い髪が床に落ちていくのが見えてしまった。

おじさんは左側に回り込むと、先程までケープを覆っていた黒髪ロングヘアはどこにもなく、雑に切られた毛先が襟足ギリギリで揺れていた。

あっという間に顎のラインでおかっぱにされた佳奈ちゃんは頬を真っ赤にして泣いていた。

バッサリと髪を切られたことでシルエットがまるで別人だ。

しかし、佳奈ちゃんの断髪はこのまま終わらなかった。
次の瞬間、おじさんはバリカンを持ち出し、嫌がる佳奈ちゃんの頭を抑えながら、襟足を刈り上げ始めたのだ。

あまりの衝撃的な光景に私は目を伏せたが、おじさんの足元には大量の髪がドサドサと降って来ている。
その光景によってロングヘアを失った佳奈ちゃんがさらに容赦なく髪を短くされていることが嫌でも分かってしまった。

ロングヘアが似合っていた中学生の美人な佳奈ちゃんの髪は一体どれほどまで短くされてしまうのだろうか…

どうして…
まさかあの怪しいポスターを信じてこんな暴挙に出たのかしら…

そういえば田中さんは風水や占いを信じやすい性格だった。

でも、まさか…

私がスマホで検索したり、長時間ずっと考えごとをしていると、ガチャリとドアが開いた。

「あら?高橋さん?どうしたの?」

目の前にはいつの間にか田中さんとカットを終えた佳奈ちゃんが立っていた。

「あ、えっ…佳奈ちゃん…髪が…」

佳奈ちゃんの頭を見ると、先ほどまでは背中を覆い尽くしていたロングヘアはどこにもなく、綺麗に刈り込まれたスポーツ刈りになっていたのだ。後ろもサイドも数ミリに刈られており、長い髪に隠れていた襟足や耳が丸見えになっている。さらにトップの髪の毛もツンツンと立ち上がるくらい短くされてしまっている。まるで別人だ。
本人は目を真っ赤にしてまだ涙を流していた。

「見られちゃったか…。私も佳奈も長い髪を捨ててさっぱりしたの。でも、誤解しないでね。邪気を払うためには仕方なかったのよ」

「邪気って…女の子の命である髪をこんなにバッサリと短くしちゃうなんてやりすぎよ!」

「仕方ないのよ。私はずっと髪を伸ばしていたから切りたくなかったけど、邪気が溜まったロングヘアはうんと短く切るしかないのよ。でもね、聞いて!私が長い髪を切った次の日にリストラされた夫が上場企業に就職出来たのよ!交通事故で轢かれたけど、その運転手が上場企業の社長だったの。他にも髪を切ってからどんどん良い事が起きたから、娘も短くしちゃおうかなって。もっと良い事が起きるように私よりもうんと短くしてもらったの」

「田中さん…」

崩壊したダムのように喋り続ける田中さんはとても明るい笑顔で、私はかける言葉を失っていた。
横では自分の頭を触りながら佳奈ちゃんも無言で泣いている。

「高橋さんもどうかしら?邪気を払うためにその腰まである長い髪をバッサリと短くしてみない?私も切る前は嫌だったけど、切ってしまうと涼しくて楽よ。刈り上げの感触って結構気持ちが良いの」

私は田中さんにドン引きしてしまった。

「私は遠慮しておく…」

「あら?そう。高橋さんなら刈り上げショートとかスポーツ刈りも似合うと思うのにな〜」

そう言って田中さんは泣いている佳奈ちゃんを連れて家に帰って行った。

呆然として残された私はこの出来事をすぐ佐藤さんに話したいと思い、佐藤さん宅に向かった。

ピンポーン

「佐藤さん、私!高橋です!ちょっと話がしたくて」

走って上がった息を整え、私は佐藤さんのマンションのインターホンに必死に訴えかけた。

「あら、高橋さん。今取り込んでるけど、どうぞ」

インターホンから佐藤さんの声が聞こえて、エントランスの自動ドアが開いた。
私はエレベーターに乗り急いで佐藤さんの部屋に向かった。

ガチャリとドアが開いてエプロンを着た佐藤さんが顔を出した。

「突然ごめんね!でも、聞いてよ!田中さんったらあの怪しいポスターを信じて、自分の髪も娘の佳奈ちゃんの髪も短髪にしちゃったのよ!年頃の娘の長い髪をスポーツ刈りにするなんて、虐待よね?それで…え?」

勢いに任せて喋り出した私は次の瞬間、石のように固まった。
玄関を開けてくれた佐藤さんの他には電動バリカンが握られていたのだ。

「なん…で…バリカンを…?」

頭の中に現れた嫌な予感を必死に振り払いながら、私は佐藤さんを見つめた。よく見るとエプロンには大量の短い髪の毛が付着していた。

「あ、実はね。今、娘の散髪をしていて…」

「え?舞ちゃんの散髪?どうして…?まさかあのポスターを…」

まさか佐藤さんまであのポスターを見て田中さんと同じ様に洗脳されてしまったのか?
娘の舞ちゃんは大丈夫だろうか?

「えっと、ほら、来年は受験だから気合いを入れるために…バッサリとね!そろそろ暑くなってくるし、長い髪よりさっぱり短くした方が良いかと思って…」

必死に言い訳をしている佐藤さんの様子から私は自分の嫌な予感が当たったことを知る。

「舞ちゃんは?どこ?」

私は佐藤さんを押し退けて家に入り、舞ちゃんを探す。
すると、お風呂場の方から舞ちゃんらしき泣き声が聞こえた。

「舞ちゃん!大丈夫?」

お風呂場のドアを開けると、私は本日2回目の衝撃を受けた。

まず目に入ったのはお風呂場に散らばる大量の長い髪の毛であった。
切られてもなお艶々した長い黒髪が山を作って床を黒く埋め尽くしていた。

そして次に目に入ったのは、その髪の毛の山に囲まれて裸で正座をしている舞ちゃんの姿であった。
佳奈ちゃんと同じくらいあったはずの舞ちゃんのロングヘアが耳下辺りでバッサリとおかっぱに切られていたのだ。
襟足の部分はバリカンで刈っていた途中だったのだろう。襟足の真ん中にバリカンで数ミリに刈った一本の道ができていた。

「嘘でしょ…」

私は言葉を失う。

「あのね、違うのよ?誤解しないでね。私は別にあんな張り紙は信じてないの。でも、長い髪には邪気が溜まるからバッサリと切るしかないのよ」

どうやら佐藤さんも洗脳されてしまった様だ。
みんな頭がおかしい。

「ねえ、しっかりして!あんなポスターはただのイタズラよ!信じちゃダメ!」

「もちろんそう思うけど…邪気が溜まっている気がしてどうしようもないのよ!長い髪は切らないといけないの!バッサリ切ってさっぱりしないと大変なことになるの!」

佐藤さんは取り乱しながら私を押し退けて、またバリカンのスイッチを入れた。

ウィィィィィィィイン

「ほら、舞。もっと短く刈るわよ!早く邪気を払わないとね」

佐藤さんはそう言って、泣いている舞ちゃんの頭を無理やり下を向かせて、襟足の髪をバリカンで容赦なく刈り上げ始めた。

ザリザリザリという音とともに、舞ちゃんの襟足の髪が頭の半分まで数ミリに刈られている。

「そんな…どうして佐藤さんまで…」

私は田中さんに続いて常識人の佐藤さんまで頭がおかしくなったことに恐怖を感じた。
あの張り紙のせいでみんな洗脳されている。

どうしよう…

ウィィィィィィィイン
ザリザリザリ

バリカンが通る度に大量の黒髪がドサドサと裸の舞ちゃんに当たって床に積もっていく。
舞ちゃんは肩も背中も膝も切られた黒髪だらけになっていた。

私はどうすることも出来ないまま、ただ立ったまま固まっていた。

「ほら、終わったわよ。うんと短くなったわよ。スッキリしたわね。これで邪気退散できたわ!良かった」

ようやくバリカンの音が止まった。
舞ちゃんの周りには1人分とは思えないほどの切られた大量の髪の毛が落ちている。

「うぅぅぅ…ひどいよ…私の自慢の髪をこんなダサいおかっぱにするなんで…お母さんのバカ!」

耳の半分くらいで直線にカットされて襟足はジョリジョリに刈り上げられた舞ちゃんは泣きながら怒って母親を睨んでいた。

「邪気退散しないといけないんだから仕方ないでしょ?さっぱりしたわね」

素人の切ったおかっぱ頭の出来栄えはイマイチで、大人っぽい色気のあったロングヘアの舞ちゃんは田舎のダサい中学生みたいになってしまっていた。

田中さんも佐藤さんもあんなポスターを信じて、女の子の髪をこんなにするなんて…許せない!!
私の頭は怒りで満ちていた。

「ちょっと佐藤さん!あなたおかしいわよ?そんなに長い髪に邪気が溜まるって言うんなら、佐藤さんのそのゆるふわロングヘアも切りなさいよ!!」

佐藤さんの髪は茶色でボリュームのあるゆるふわロングヘアであった。

「えっ?私は…」

「そうだよ!ママも切りなよ!」

大事なロングヘアを無茶苦茶にされた舞ちゃんも私の味方だ。

「ほら、こんなに長いと邪気が溜まって良くないわよ!見るからに邪気が溜まってそうよ!」

「うるさいわね、切るわよ!私は美容室を予約しますから!」

佐藤さんもムキになって喧嘩腰だ。
その態度に私は堪忍袋の尾が切れた。

「年頃の女の子の大事な長い髪をこんなダサいおかっぱにしちゃうなんてあんまりよ!」

佐藤さんは確実に洗脳されている。

「もう!だって…長い髪には邪気が貯まるんだから仕方ないわよ!」

「じゃあ、自分だって切りなさいよ!こんな髪を伸ばしてんじゃないわよ」

私は佐藤さんの右側のゆるふわロングヘアを掴んだ。栗色で艶々の綺麗なロングヘアだ。

「痛い!やめて。私もバッサリ切るつもりよ!旦那が帰って来たらうんと短くしてもらう予定なの」

「じゃあ、今切っても問題ないわよね?」

私は床に落ちていた鋏を拾い上げ、怒りに任せて握り締めていた佐藤さんのロングヘアに鋏を入れた。
佐藤さんの右横の長い髪を根本近くからジョギジョギと切り落とす。

「いやあああああああ…」

突然の出来事に佐藤さんは悲鳴を上げる。
右側の一部の髪は耳上あたりでバラバラになって短髪になっている。

そして私の手には40センチはあろう長い髪束が握られていた。

「これでもう短くするしかないわね!」

私は握っていた髪束を佐藤さんに投げつけると、嫌になって佐藤さん宅を飛び出した。

みんなして一体何なんだ。
どうなってしまったんだ。

帰り道、電信柱には例のポスターが大量に貼られている。

『長い髪には邪気が溜まる』

この言葉が頭の中で何度も何度も繰り返される。

『長い髪には邪気が溜まる』『長い髪には邪気が溜まる』『長い髪には邪気が溜まる』

私はいつの間にかポスターから目が離せなくなっていた。

『長い髪には邪気が溜まる』

確かに長い髪は手入れが大変で、洗うのも乾かすのも時間がかかる。
長くなると重くなって首も凝るし、椅子などに挟まって痛い時もある。
床に髪が落ちていると短い髪より長い方が目立つので不潔だ。
…それに…長い髪には邪気が溜まる…
邪気が溜まったら運が悪くなり、不幸が起きるかもしれない。

「…長い髪には邪気が溜まる…」

…私はどうして田中さんや佐藤さんを責めてしまったのだろうか。邪気を払うために髪を短くするのは当然なのに…

「長い髪には邪気が溜まる…そうだ!うちの娘も切らないと!短くしないと邪気が溜まっちゃう!うんと短く切らないと!どうして今まで気がつかなかったのかしら」

私は急いで家に帰ると準備をして、帰宅してテレビを観ている娘をリビングに呼び出した。

「ほら、早くここに座って」

リビングに敷いた新聞紙の上に置かれた椅子を指して私は言った。

「え?何で?何でお父さんの散髪道具が置いてあるの?」

夫は鋏とバリカンを器用に使って自分で散髪していたから、道具は揃っている。

「え?髪を切るの?私…切りたくない…」

「いいから早く座りなさい!」

私は怒号に怯える娘を無理やり椅子に座らせた。
そして、困惑したままケープを着け、娘のポニーテールにそのまま鋏を入れた。

ジャギジャギ

なかなか切らない

娘のボリュームたっぷりの長い髪を切り落とすのは一苦労だ。

「ちょっと、お母さん!何しているの?やめて!!」

「うるさい!長い髪には邪気が溜まるんだよ。こんな長い髪はバッサリと短くしないといけないの!さっぱりとさせてあげるわ」

ジャギジャギと何度も何度も鋏を入れて、ついにボリュームたっぷり黒髪ポニーテールを娘の頭から切り離した。
小学校低学年から大事に伸ばしていた娘の長い髪は一瞬で失われた。
私は切られてもなお艶々して美しい60センチもある髪束を床に投げ捨てた。

「ひどい…お母さん…ひどいよ…何でこんなことするの?ずっと伸ばしていた大事な髪の毛なのに…」

娘はバラバラの長さになってクレーターが出来ている後頭部を泣きながら触っている。

「うるさい!邪気は退散しないと!まだまだ長いわね。これからもっともっと短くするからじっとしていなさい」

私は夫の愛用しているバリカンのスイッチを入れた。
そして、娘の頭を無理やり下に向かせて、唸るバリカンを襟足に潜り込ませた。

ヴイィィィィィイン

バリカンは激しい音をたてながら娘の残った髪を根本から刈り上げていく。

「いや!やめて!お母さん!」

私に押さえつけられながら叫ぶ娘の声はバリカンの音にかき消された。

「長い髪は邪気が溜まるから、うんと短くしないとね。大丈夫よ、さっぱりしましょうね!」

バリカンが通った後は青白い地肌が丸見えになっていた。
楽しい!バリカンって面白いくらいに髪が刈れる!
邪気退散には最高ね!

「そうだ!もういっそのこと、丸刈にしちゃいましょう!そうしたら邪気が溜まらないから安全な!きっとすっきりするわよ〜!さっぱりしちゃいましょうね!」

私は襟足、右サイド、左サイド、前髪、頭頂部、
その全てにバリカンを這わせて娘の邪気を全て退散した。

「うううぅ…ひどいよ…」

突然、丸刈りにされた娘は訳がわからず泣きじゃくっている。しかし、頭の形が良いから丸坊主はよく似合っている。

「とても似合ってるいるわよ!ロングヘアの時より頭が軽くなったんじゃない?ジョリジョリして気持ちがいいわ〜。さっぱりして洗うのが楽ね。さて、私も邪気退散しないとね…」

稼働し続けて温まったバリカンは、私の額に入り、長い髪を根こそぎ刈り落としていった。

…………………

この街から全ての長い髪の女性がいなくなった頃、

ある男たちがポスターを回収していた。

「いや〜冗談で作った洗脳ポスターがこんなことになるなんて。AIに作らせるとこんなにすごいのか。心理学の実験になったな」

「このポスターの文字や絵の配置が脳に影響して信じ込ませる力があるんだから、すごいよな。これを卒論レポートにしちゃう?」

「さすがに倫理的にまずいだろ?この街の女性たちの髪型を見たろ?本当に邪気が溜まるって信じて男みたいにさっぱり短くしちゃってるぜ」

「でも、みんな幸せそうだよな。本当のこと話すより、このままにしておいた方がこの街の人は幸せなんじゃない?」

「そうだな。ポスターを回収すればそのうち正気に戻るだろ。内緒にしておこう」

……………………

「あら、高橋さん。偶然ね。また刈ったの?娘さんも綺麗な丸刈りね」

「あら、佐藤さんと田中さん。そうなのよ!娘も一緒に仲良くバリカンでジョリジョリなの。バリカンの感触がたまらなく幸せなのよ」

「さっぱりしていていいわね〜」

「佐藤さんと田中さんもスポーツ刈りはやめて丸刈りにしたら?スッキリするわよ?一緒にジョリジョリしましょうよ」

「それもいいわね!ほおおおおおおお」

この街が正気に戻るのはまだまだ先の話であった。

おしまい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?