【北条氏直と督姫【高祖の守り】】

「武辺咄聞書」からの意訳。

北条氏が降伏を決め、小田原城が開城した後、氏直は高野山へと行く事になった。督姫と別れる際、氏直は肌に身に着けていたお守りを取り出し「このお守りは【高祖の守り】といい、北条家代々の宝物である。五代の祖、早雲は伊豆より相模の地を攻めた際、勝栗を半分食し、もう残りの半分を鎧の引合に収め、出陣した。そしてその夜、見事小田原の城を攻め取る事が出来たのだ。その時残したもう半分の勝栗を綿の袋に入れ、氏綱・氏康・氏政、私の代まで相伝してきた。……私はこれから浪人となる身、どうかこの守りを一族の者へ渡してほしい」そう言って【高祖の守り】を督姫に託し、氏直は高野山へと登って行った。その後、氏直は秀吉から赦免され、督姫と再会し、二人はもう一度共に過ごせる事となった。だがその生活も束の間、氏直は疱瘡を患い、そのまま帰らぬ人となり北条嫡流家は断絶した。
若くして夫を亡くした督姫は、秀吉の計らいで池田輝政へと再嫁する事となる。

その後、氏康の息子であり、氏直にとっては叔父でもある北条氏規の元へ督姫が現れた。
「私は秀吉様の御意につき、再嫁する事となりました。――これは、小田原城が開城し、氏直様が高野山へと上がる際、私に託された物です。本家の子孫は断絶しましたが、小さくとも一城を賜った、貴殿にこれをお渡しします。どうかこのお守りを、北条家子孫代々まで伝えていって下さい」そうして深く涙を流し、督姫は【高祖の守り】を氏規に託したのだった。

【参考文献】
菊池真一編「武辺咄聞書 京都大学附属図書館蔵」(和泉古典文庫)119話(P88)

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