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マッチョを見に行った話

月1回一緒にディズニーに行っている友人に「マッスルバーに行ってみたい」と言われた。
マッスルバー…文字通り筋骨隆々の男性達が接客してくれる酒場なのだが、昔テレビで見たときは「楽しそうだけど結構大人のお店だなぁ」という印象を抱いた。全く違うかもしれないが爽やかなセクキャバ(行ったことないけど)のようなイメージだ。

セクキャバ、お触りオッケーのキャバクラという認識だったけど調べたら凄い施設だった!!!!ガーン


友人は夢や魔法やコンセプトカフェのような想像力溢れる空間や創作物が好きという認識があったので、しっかり現実の男性と触れ合う場に行きたいと言い出すなんて「これは絶対になにか勘違いしてるぞ!?」と思ったが、それはそれとして私は以前からマッチョに興味があったので二つ返事でオッケーした。


当日、私と友人は若干の緊張感を持ちながら集まった。事前にお店のURLとキャスト一覧を送ったためか、さすがに友人もマッスルバーが単なる店員が全員マッチョの飲食店ではないという事に気づいている様子だ。
お気に入りのうどん屋さんでうどんをすすりながらマッスルバーの打ち合わせをする。私が「マッスルバーに行く前に買い物する?」と聞いたら友人は「ユザワヤに行きたい。買い物で盛り上がったらマッスルバーは別に行かなくてもいいかもね…」と言った。友人は少し弱気な様子だ。私もうっすら「ちょっと緊張するし無理して行かなくていいかもな」と思っていたが、それを言うのはなんとなくダサい気がして言えなかった。

うどんを食べ終わり、徐々に緊張が増してくるのを感じながらアニメグッズ屋やユザワヤに寄った。友人のユザワヤの買い物を待ってる間、緊張のあまり「ずっと買い物が続けばいいのに」と思った。しかしそんな願いが通じるはずもなく、友人の買い物が終わりいよいよマッスルバーに向かうことに。

外は小雨だったのでとりあえずコンビニで大きめの傘を買い、2人で1つの傘に入りながら歩く。その頃にはもう2人共完全に弱気になっており、とりあえずお店の外観だけでも見ようと話していた。
道中、友人が「キャストがカッコ良すぎるよね…」と言った。そうなのだ。言われてみたらそれが最も緊張する理由だった。

カッコ良いと、緊張しちゃうよ!!!!

私達は明るく爽やかで素朴なムキムキ男性が料理を運んでくれるだけで満足なのに…それなのに顔のカッコ良さに気を配っている男性と近距離で会話しなきゃいけないなんて…
決してカッコ良さが嫌な訳では無い。カッコ良さに緊張して上手くお喋りできない自分を想像したら情けない気持ちになるのだ。

30代も中盤に差し掛かり、緊張する場面も少なくなってきたからこそできれば緊張は避けたい。
しかしそんな恥ずかしいことをしっかり伝えるのも恥ずかしい。なので行くしかない。

いよいよ店まで30mの距離に差し掛かったとき、私と友人は完全に無言になっていた。ディズニーで10時間近く待機してたときもこれほど無言にはならなかった。それが今や、初対面のカッコ良いマッチョと近距離で話すことに萎縮して話す余裕も無くなっている。

とうとう店が入っている雑居ビルに到着した。ビルのエレベーターを上がるとお店があるらしい。友人と顔を見合わせエレベーターに乗り込んだ。
この雑居ビルは大人のお店がたくさん入っているためか香水のいい匂いがする。友人に「いい匂いがするね」と言ったら「埃っぽいよ…」と言われた。
6000円払って参加したディズニーのツアーが参加者同士のディスカッションがメインの謎企画だった時も文句一つ言わなかった友人が、こんな取るに足らないイチャモンとも言えるような事をわざわざ口に出して言うなんて…よっぽど限界なのが伝わってきた。

エレベーターを降りると三畳ほどの空間に出た。恐らくバーから漏れ聞こえるドゥッドゥッドゥッという音楽の重低音が体の表面をわずかに振動させる。目の前の扉が恐らくマッスルバーなのだが看板は特に無いし、ドアノブ?には自転車につけるようなダイアルロックがかけており私達から全ての自信を奪った。
どうやって入るんだろう…チャイムも見当たらず、扉の脇に電気のスイッチだけがある。分からなすぎて友人に「とりあえず電気でも消す?」と聞いたら「ここが暗くなるだけだよ」と言われた。かと言ってノックするのもなんか違うような気がする。

中の様子が気になり、扉の幅5センチ程の曇りガラスに注目した。近づき過ぎると我々の存在がバレてしまう恐れがあるので適度な距離を保ちそっと覗く。曇りガラスは今まで出会った事がないレベルで曇りに雲っており中の様子なんか1つも分かりゃしなかったが、ピンク紫のこの世で1番怪しい色の光が揺れて動いていた。実はドラッグパーティ会場ですよと言われても「そうなんだ!」と納得してしまうだろう。

ドキドキしながら磨りガラスに目を凝らしていたら急に肌色の影がフワッと見えた。

「マッチョだ!!!!!!!!!!」

と思い、急いで磨りガラスの死角にまわりこんだ。その瞬間女性の楽しそうな笑い声が

キャハハハッ

と聞こえた。
知らない女性の笑い声というのはこんなにも恐ろしいのか!!!!
一気に緊張感が高まり、もう身が持たないと思った私は「帰ろう…!」と言って友人の方を振り返った。
すると友人は既にエレベーターを呼んでおり、急いでエレベーターに乗り込んだ。

エレベーター内で2人で「あそこには入れないよね…」「あの扉の威圧感がすごかったよね…」と、意気消沈しながらいかに怖かったかという情けない会話をした。外に出ると雨がどしゃ降りになっており、私達の心情を現しているようだった。

緊張からの開放と、自分達の情けなさが身に沁みすぎて私達はせきを切ったように笑った。2人共30歳半ばにして幼すぎるメンタルだということがただただ浮き彫りになり、大笑いしながら「ダサ過ぎる…!」や「私達はマッチョすら見に行けないのかよ…!」と言い合った。

ひとしきり情けな笑いした後、近くのパセラに行くことになった。スムーズに受付を済ませエレベーターに乗った際、パセラはなんて入りやすいんだと感激した。

カラオケはおおいに盛り上がり、すごく楽しかったので「またこうしてマッスルバーの後にカラオケ行きましょうよ」と言ったら友人は笑っていた。マッスルバーには行っていないからだ。

その日の絵日記

しかし私達はマッチョを見る野望は捨てきれず、いつか必ずリベンジしようという約束をした。
人数を増やして緊張を分散させるか、遊び慣れた友人か度胸のある友人を誘おうということになった。もうあんな情けない爆笑はしなくないからだ。

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