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5月2日絵日記補足


はじまり


実は一週間前に父から「たまには家族で飲みに行こう!お店も2日の19時に予約したから」と家族のLINEグループに連絡があった。
正直、私含む父以外の家族は「家で食べれば良くない?」と思っていたが、同時に「父は酒を酌み交わして仲を深めたいのかも…」とも思った。

前日まで

飲み会の席には、最近加齢によりに我儘者になった祖父も誘うらしい。大丈夫か?とその頃から皆不安に思っていた。
弟は食べ物の好き嫌いが多いので、父に何度か料理の詳細を尋ねたらしいが「創作料理のコース」としか答えてもらえず、私も妹とその店のレビュー等を見たが結局何屋なのかはよく分からなかった。(田舎の飲食店なのでインターネットにあまり情報が無い)
様々な不安を胸に飲み会の日を迎えた。

当日の天野家

父以外の全員がお腹を壊していたし、祖父はドタキャンした。父は祖父のドタキャンに「やっぱりなぁ…」と落ち込みながらも、店の予約時間を1時間早めた18時に変更していた。(祖父だけ別居なので招待する手間が無くなったから)
17時30分になると父は「行くぞー!」と勢いよく家族を急かしていたが、初めての家族飲み会。しかもコース料理まで予約しているので、皆おめかしを頑張っておりなかなか出発できない。母なんか黄色い新品のコートをおろして「ペニーワイズに襲われた少年のバウンド(概念コスプレ)」と言われていた。

結局皆が車に乗り込んだのは17時45分。店に着いたのは17時45分30秒だった。めちゃくちゃ家から近かったのだ。店に早く着きすぎた我々は、車の中で「もう入るか」「もう少し待つか」の議論を重ね、17時48分頃に店に入った。

天野家、入店

父が店員さんに「すみません、急遽1人来れなくなったんですが、料理は6人分で大丈夫です。」と言っていて驚いた。店員さんも「え!?大丈夫ですか?」と言っていたが父は「大丈夫です!みんな体が大きいので」と言って店員からややウケを取っていた。父のお店への配慮だと思うのだが、みんなお腹壊しているので不安しかない。予約時間を早める連絡をしたときに1人キャンセルして、キャンセル料金の事を聞けば良かったのではないかと思ったがもう遅い。

普通の家のような見た目のお店だったが、中に入ると古風な日本家屋のような雰囲気で驚いた。
私達は囲炉裏がある個室に通され「すごいねぇ」等と口々に呟いていたら、店員さんが飲み物のメニューを持ってきてくださった。
母は帰りに30秒車を運転しなきゃいけないし、妹弟はそれぞれお腹を壊していたのでソフトドリンクを頼んだ。お酒は父だけだった。私も父の狙いは何となく理解しているつもりだったのでお酒を飲みたかったが、飲めるお酒が無かった。(お酒が弱いので)

料理がきた!

飲み物が運ばれて来たらいよいよ料理だ。一品目は「若竹の煮物」だった。私はタケノコが大好きなので早速食べようとすると、弟が「おねぇ(私のこと)!ニシンが入ってる!」と言った。
私は臭いが強い魚は得意ではない。煮物の中にニシンを見つけ臭いを嗅いでみると、しっかりと魚独特の臭いがした。タケノコにもしっかり魚の臭いがついている。お腹を壊しかなり食欲が減退しているのもあり、私と妹と弟は両親に前菜を食べてもらった。両親が1人3皿前菜を食べているのを見てかなり申し訳ない気持ちになったし、父の理想の家族飲み会から遠ざかっているのを感じた。

2皿目

次に運ばれて来たのはトゲクリガニ(ミソと卵が売りのカニ)×6杯だった。
私と弟は顔を見合わせてゴクリとツバを飲んだ。私の家でかに味噌を食べるのは母だけなのだ。全部母に回すとしても1人で6杯は体に障るかもしれない。「どうしよう…」と思い父を見ると、かに味噌を積極的に食べていて驚いた。「大丈夫なの!?」と聞いたら「大丈夫だし」と言われた。多分、お店への気遣いだと思うが、父の必死さが伝わってきて悲しくなった。
私も出来れば食べてやりたいが、かに味噌は私の苦手食材の中でもS級の苦手さだし、お腹壊してるし、どうしても無理だった…。ここあたりから、皆「なんでこんなことに…」と思っていたと思う。家族だから、分かる。皆がソワソワとお互いの顔色を伺っている、何となく気まずい空気が充満していた。

3皿目


次に来たのはヒラメの昆布締めだった。私はヒラメの昆布締めは好きなので「おいしそー!!!」と大はしゃぎして見せた。
ふと弟を見るとなんか泣きそうな顔で「ごめん、食べて…」と私に2皿渡してきた。弟は魚介類で食べれるものがかなり少ない。
このあたりで弟が「俺、食べられるもの少ないって言ってるじゃん…」と言っていた。もう弟とは27年も一緒に暮らしているからそんなの全員分かっているが、父自身も苦手であろうカニ味噌を食べてるのを見る限り、誰も何が出るのか分かっていないのだと何となく感じた。

4皿目

店員さんが「今おにぎり持ってきますねー」と言った。私は「あれ!?〆!?」と驚いたが、弟は「おに…ぎり…」と固まっていた。それを見て私もハッとした。私と弟は割と潔癖な方なので人が直接握ったおにぎりが難しいのだ。
ここで私は父に「普通さ、飲み会の幹事やるっつったら参加者の食の好みは加味するじゃん。もう飲み会の幹事する立場じゃ無くなって何十年も経つから忘れちゃったかもだけど」と言ってしまった。
父は「お父さん、いつも気を遣われる側だから忘れてた…次は気を付けるよ…」と言っていた。

めっちゃくちゃヤバい空気

なんとも言えない、高濃度の悲しくてやるせない空気がMAXに達した。本来なら、飲み会の主催である父が適当に話題を提示して話を盛り上げる役だと思うのだけど、正直父は場の空気を操れるタイプではなく(少なくとも家族の間では)むしろ悪化させる方なので、父にはどうすることも出来ない。

私は「もう、絶対に父が望んだ飲み会じゃないな」と確信していた。
多分父の目的として、家族で飲み会をして普段話せないような腹を割った話をして仲を深めたかっただろうし、理想の飲み会像があったはずなのだ。
それが今や家にいるときの50倍はぎこちない空気が流れている。

めかし込んだ人達が、こんなに盛り下がっているなんて……

気付いたら私は大笑いしてした。
あまりの盛り下がりに自分達が客観的に見えて笑えてきたのだ。
弟の不満げな悲しい顔も気の毒過ぎて笑いのツボを刺激する。助けてくれ。こうなっては人として終わりだ。前菜を食べまくる両親もこうなったら面白い。前菜の概念どうなってるんだという感じだ。

私は5分ぐらい笑いが止まらなくなり、息ができなくなった。私以外の人は「えぇー…」という引いた顔で私を見ている。
何とか笑い終えると、次は弟が「何も上手くいってねぇーー!!!」と爆笑しだした。弟も私と同じく自分達が客観的に見えて笑えてきたのだろうが、私はもう冷めていたので「お前が笑うなよ」と思っていた。1番好き嫌い多いのは弟じゃないか。

少しずつ良くなった空気

謎の大笑いのあとおにぎりが運ばれて来たので、私も弟も潔癖の気持ちを殺しておにぎりを食べた。
かなり美味しい!!!
結局弟は2 個もおにぎりを食べた。弟が初めて飲み会で口にした食事だった。飲み会に行ってやっとありつけた食事がおにぎり2個なんて…。
でも弟は一切固形物が食道を通らなかった可能性があったので、私はずっと弟に「良かったね!」と心からのお祝いの言葉を言った。

すると、そこから「銀鱈の西京漬け」や「若鶏モモ肉のスパイス焼き」など皆が食べられる料理が運ばれてきて、飲み会の空気は良くなった。最後に運動部の合宿のときに出される量の天ぷらが来たときはビビったが、持ち帰りが出来たので大丈夫だった。

なにはともあれ、無事に飲み会が終了したのだ。
家に帰ってから、妹とずっと「何故飲み会の空気が変になったのか」「どうすれば良かったのか」「自分が開催する場合はどうする」について話しているが、それがかなり盛り上がり楽しい。
結果として印象深い面白い思い出になった。父ありがとう。

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