『海と毒薬』
読みました。
元になった事件を知った時はやはり衝撃が大きかったです。人間はここまでやってしまうのかと…。今の日本に生きる私の感覚としては、「ありえない」の一言です。恐ろしいばかりですが、このような出来事が結果的に医療を発達させたのですから本当に皮肉です。
読む前は、これ読めるかな、描写に耐えられるかなと不安でしたが、読めました。なんていうか、思っていたよりも、非日常の異質な出来事というよりは、日常の延長でふいに起こってしまったみたいな、そんなかんじでした。といっても戦時中なので、これを日常とは言いたくないのですが、この時代の日常とはそういうものだったということで理解していただきたいです。
私は医者ではないので、手術の描写に苦手意識というか、慣れなさを感じました。現代だってお医者さんは人の内臓を見て動かすわけなんですけど、それってすごいことですよね。戦争の時代のお医者さんもそう。ただ、この時代では、毎日のように人が死んで、死んで、死にまくって、死が当たり前になってるから、そこは現代の日本とは全く異なる。世話を見ている患者さんだって、どうせもうすぐ死ぬ。そんな状況で、正気でいられるわけがない。捕虜の生体解剖だって、普段患者に施している手術となんら変わりない…。そう思い込むほどに。でも、心のどこかには、こんなことしていいのかと考える余地もまだあって、そんな人間としてのまともな感覚が少し残っているのが、余計に苦しかったです。
私がこの人たちの立場だったら、どうしていただろう…考えられずにはいられません。人間の倫理について考えさせられる内容でした。