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『本田虎太郎のネジ』

玄関先に転がっていたネジを見つけ、拾い上げようとして掴んでいたものを離すと、ゴトっと鈍い音を立ててそれが転がった。

その顔を見て思い出した。今朝方まで抱いていた芸者の首だ。名は牡丹だったか。美しく結わえられていたであろう長い黒髪は野放図に乱れ、血の気の引いた青い顔の上で左右の目があらぬ方を向き、赤く濁っている。

昨夜は街で一番色の白い、このべっぴんを離れに呼びつけ、その白い尻に覆いかぶさるようにして朝まで抱き続けた。

記憶はそこで途切れ、気が付くと、母屋の玄関先に立っていた。

拾い上げたネジは、吾輩のネジだと直感した。

吾輩はこの街で一番偉い郵便局長、本田虎太郎。逆らう者はいない。

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。