マガジンのカバー画像

うたがわきしみの宇宙Ⅱ

890
140文字では収まりきらなかった、うたがわきしみの世界観。コラムやエッセーやうわごとじゃない。あくまで、なにかしら、きしみの宇宙を匂わす作品になっているものたち。主に詩。ギャグ系…
運営しているクリエイター

#ショートショート

【詩】破滅日記

町外れのドブ川の水を飲めば 誰でも死ねた しゃっくり三回出たあとに 道はいつもお祭り騒ぎで猥雑で 酔っぱらい達が山車を引き回し 人いきれで空気がお湯になるせいで 車が通れない 体がどんどん小さくなる奇病に侵された娘 珠代 11歳の誕生日 祖母がプレゼントで部屋を埋め尽くす 「またそんなに買って」 妻が無表情で洗濯物を畳む 「バァーバなんだからいいじゃない ねぇ?」 珠代ににっこりと笑い掛け 洗濯物を取り込みにいくような足取りで ベランダに向かう 数瞬―― ドチャッと巨大な

【悪夢】ちょぷっ!

絶対に想像しないで聴いてください 時間は正午くらいだったと思います 雨は降っていませんでしたが 薄曇りで 風がやけに肌に纏わりつき 生ぬるい水槽に浸かっているような 気味の悪い天気でした あなたが散歩に出ると 近くの国道を大型トラックが頻繁に 相変わらずの猛スピードで ビュンビュン飛ばしています ゴツくて大きいタイヤを見つめていると なんだか吸い込まれそうです 実際 体が少し 持っていかれた気もしました ぞくりと身震いがして 背中に嫌な汗が吹

【掌編】びいどろ先生

びいどろ先生 檸檬は将棋に入りますか? 人から目玉が失くなっちゃったよ 多分神様とかのせい 最初みんなただ真っ暗で 盲になっただけかと思った でも顔を触ってみると 目の辺りがのっぺら坊みたいに つるつるで 触って失神する女の人もいれば パニックになって走り出して 車に轢かれる男の人もいた 誰かさんは 口を開けっぱなしの 仮面ライダーみたいになって ひゃめんひゃいだー ってうわ言のように繰り返してた 百々目エノキのせいだね どどめえのき? 人くらいの巨大なエノキで

【掌編】君の赤いマフラー

――その日 一人のホームレスを 純粋に助けた 君 君だけは 救われると思ってた 神様が ちゃんと見てるはずだから なのに―― 富裕層だったから? 髪が金色で美しかったから? 正義なんて不純なものを愛してたから? 見つかって 集団でホームレスに輪姦され ――翌朝 交差点の真ん中で 全裸に剥かれたまま 冷たくなってた 幻みたいなマフラー巻いて 神様 見えますか 見えてますよね 首だけ―― 首だけが赤くて寒そうです ホームレス達が商店街で叫んでる 一枚 また一枚 シャ

【断片小説】微少女

機械なのに人と同じく 言霊を扱えるようになった 人形少女―― 生きていることが 奇跡みたいな 微少女だった 拮抗した生死のうち 痛みだけを触手に握らせ 井戸の底で深淵の綱渡りを続け 僅かに生の表面張力で流れ落ちずに しがみついていられただけの 性奴隷人形 二人で 魂を共有するように 嘔吐いた 〈了〉 ※↓インスパイア先、ゾクゾクします

【断片小説】青から覗く白

毎日 傷だらけで訪ねてくる君を 絶対助けないと決めていた 無論理由も訊かない 空き缶拾いのこの僕と SEXする理由も 互いに涙を溜めながら 体だけで交わす 海と膿 霧雨けぶる川沿いの小屋 ビニールシートの青から覗く白い乳房 胸の刺繍 女工の匂い 舌を入れると 歯が一本も無い 〈了〉

【詩】風景

半裸で裸足の娘が 往来の真ん中でペタンとしゃがみこみ 「死にたいよ~!死にたいよ~!」 と泣き叫んでいる 母親が覆い被さるように 娘を抱きしめるが 悲痛な声は激しくなるだけ 父親は口と腰に手をやり 青ざめた顔で立ち尽くしている それを 皆見ない 視界に入ってるのに 見ない 僕だけが見てる

【詩】胸騒ぎ

湯が出しっぱなしの浴室 踊りたいだけの姉が家中でターン 洗い場で古いストーブが焚かれる 僕は嫉妬深い大型犬と戯れ 風呂桶から溢れた湯がストーブを浸す ジュッ 湯を出した母は戻らず 脱衣場にも湯が満ちる 次女は母を呪って働かず 踊る姉は汗を振り乱す 湯を止められない僕はただSEXする

【詩】ぬくもり

お婆ちゃん もう目見えないの? 耳も? リウマチ…指もダメってこと? 膝も? じゃあずっと寝たきり? 歯も無いし 全然美味しいの食べれないじゃん てかあちこちガンだらけで トイレも一人で無理って… もう一緒に旅行も行けないじゃん ねぇ お婆ちゃんて あと何ができるの? 「まだお前を愛せるよ」

『ラストクローン』

百万回蘇生を繰り返して、 生きながらえてきました。 もう一度貴方に会いたくて……。 でも、 そろそろ記憶の劣化が限界に達したようです。 もう、あなたの顔も声も思い出せません……。 ただ、あなたの欠片のような温もりだけ、 まだ、胸の奥にあります。 どれだけこの日を待ちわびたことか。 ついに、貴方が目覚める日が来たのですね。 なのに、それを、心から、喜べないなんて…。 だから、神様は、私に意地悪をしたのですね。 次のクローニングで、 「貴方を知ってる私」は 完全に消えること

【SF超短編小説】 その日核ミサイルがあちこちに落ち 世界は誰のものでもなくなった 存在の所有を認識できる“意識”が “心”が一つ残らず滅びたのだ それでも地球は回り続けた

関係性を築いては怖くなって逃げ出す それを繰り返す 自分から離れてしまえば 相手から離別を申し渡されることはない 傷つけられることに対する異常なまでの恐怖心 要するにあなたの細胞はそういうもので出来ています さて貴方にとって今一番大切なのは 私との信頼関係ーーおや? また逃げたか

おはようチャップリン いい朝だね おやおや 今日はまた随分と勢いがいいね 「ちょっとあなた!ゴミ出しは!? まさかまた増水した川に名前付けて 声掛けたりしてないでしょうね? それでなくても近所に◯チガイがいる って噂で恥ずかしいんだから 絶対やめて!」 それでも僕は 詩人なんだ…