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うたがわきしみの宇宙Ⅱ

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140文字では収まりきらなかった、うたがわきしみの世界観。コラムやエッセーやうわごとじゃない。あくまで、なにかしら、きしみの宇宙を匂わす作品になっているものたち。主に詩。ギャグ系…
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#文芸

【詩】破滅日記

町外れのドブ川の水を飲めば 誰でも死ねた しゃっくり三回出たあとに 道はいつもお祭り騒ぎで猥雑で 酔っぱらい達が山車を引き回し 人いきれで空気がお湯になるせいで 車が通れない 体がどんどん小さくなる奇病に侵された娘 珠代 11歳の誕生日 祖母がプレゼントで部屋を埋め尽くす 「またそんなに買って」 妻が無表情で洗濯物を畳む 「バァーバなんだからいいじゃない ねぇ?」 珠代ににっこりと笑い掛け 洗濯物を取り込みにいくような足取りで ベランダに向かう 数瞬―― ドチャッと巨大な

【断片文学】誰も知らない首の日

ただの生首より 耳を削ぎ落とした豚の生首の方が いっそ丸々として 驚くほど惨めだった この世の中に あんなに悲しいボールはない 裸足の少年たちに 雨と泥の中 西瓜のように激しく蹴られ 転げて回る豚の首 白く突き出た頚椎の鳴き声が 冷たく濡れそぼった足の甲に刺さる 少年がぎゃっと叫び 途端に蹲って どしゃぶりの石になる みんな黙って 立ち尽くし 知らない顔になった 手には手の子供がおり 足には足の母親がいる 首には首の妹がいて 血と泥と一緒に掻き抱かれ 寂れた一本道を

【詩】 炎だったかもしれない 風だったのかもしれない 細い布団を敷いても 助からない命 思い出せない 空の名前 頭の中が燃える合図 キラキラとした雪解けの川を 黒板が流れて行く 六畳一間に沈む 最後の授業 「春を消さないで」 #いのち時間シリーズ #写真 #詩人

【掌編】びいどろ先生

びいどろ先生 檸檬は将棋に入りますか? 人から目玉が失くなっちゃったよ 多分神様とかのせい 最初みんなただ真っ暗で 盲になっただけかと思った でも顔を触ってみると 目の辺りがのっぺら坊みたいに つるつるで 触って失神する女の人もいれば パニックになって走り出して 車に轢かれる男の人もいた 誰かさんは 口を開けっぱなしの 仮面ライダーみたいになって ひゃめんひゃいだー ってうわ言のように繰り返してた 百々目エノキのせいだね どどめえのき? 人くらいの巨大なエノキで

【詩】綺想曲

アンキロサウルスを 銀座に突っ込んで にぎにぎしてやる 家に着いたら 下腹部が心地いいように アロエを舐め回すんだ 夕食後はサボテンを水槽に沈め 己のトゲで自殺するまで 小一時間眺める 何かの雌が 虹色の宿便を ひねり出す瞬間も 忘れずに録画する 夜は覚えたての非鳴法で 鳴き声を殺して眠る もうすぐ五度目の脱皮が始まる 海という海が死んだ 誰も知らない人類の王国で 唯一割れなかった鏡が 後ろめたく潮騒を取り戻す 映し出された音は誰? 夜の尻尾は悪魔色 遠くで月が跳

【詩】儚くも最終兵器

寂しさは人を破壊する それで時折 畜生に堕ち 精液を撒き散らすしか出来ぬ化物となる 貧しさは人を腐敗させる だから時々 餓鬼道に墜ち 何を得ても満たされぬ獣となる 病と老いは 物心両面で人類を駆逐する 神の最終兵器だ 我々が対抗措置として その保持を許されたものは たった一つ 希望だったか

【断片小説】微少女

機械なのに人と同じく 言霊を扱えるようになった 人形少女―― 生きていることが 奇跡みたいな 微少女だった 拮抗した生死のうち 痛みだけを触手に握らせ 井戸の底で深淵の綱渡りを続け 僅かに生の表面張力で流れ落ちずに しがみついていられただけの 性奴隷人形 二人で 魂を共有するように 嘔吐いた 〈了〉 ※↓インスパイア先、ゾクゾクします

【詩】 転がっていく花びらみたい 君の骨 月の灰と一緒に風になり 夜色を纏う桜を死に染めていく 膝から崩れ落ち 黝い幹で額をかち割れば 血吹雪の中で笑ってる 君に会えるだろう 何度でも 何度でも 春は僕の血で甦る

【自由律絶句】 友達なんていらなかったくせに

本日死神と手を切りました なので僕は二度と死にません むしろ死ねません 表面的には人間として衰え ひとたび滅びはしますが 本質的には不老不死で永遠に属します いのちは壊れないのです 壊せないのです 僕にも 誰にも ひとえにそれがわかるための 生涯でございました あなかしこ

【五行歌】ふたりで独りの夜

【ストレートプレイ】 傷つけて ぶつかり合って 痛み抱く夜 初めて気付くふたりの距離 冷めない温度は何処? 【きしみフィルター訳】 とうとう君の脛がぱっくりと たらば蟹の脚のように割れ 中から果肉みたいな蛇が出てくる 私の血が重かったせい? 股を開いても会えない夜

【詩】春が弾けない

君の死体 ピアノみたいに弾いてみたい 棺の上で自慰するように その小さな胸の黒鍵も 下の茂みの白鍵も 指を開いて蜜まで届く 「いま何が弾けるの?」 何でもさ 雨とか灰とか神様とか 弾けないのは春くらい 「私の部屋のドアノブを舐めた時 初めて勃起した曲は?」 ああ 君のあそこは 確かに業火の味がした 無音の海 桜の煙が染みて逝く 春が弾けない 弾けそうにない 《了》

【詩】ちゃんと愚かで忌まわしい

愚かさまで ちゃんと愛せちゃったんじゃない 苦しいのは 痛いうちが華 痛くないなら恋でもない 雨に濡れた 自転車のスポークを 目に刺しても 見える血になるの 宇宙の背骨という背骨を抜いて 骨抜きになるまで 抱かれ果ててさ 翌朝には 干からびた子猫の死体から 可愛いピンクの舌がのぞく

【一行詩】 永遠の三秒前で生きてます #一行詩 #詩人 #詩