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うたがわきしみの宇宙Ⅱ

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140文字では収まりきらなかった、うたがわきしみの世界観。コラムやエッセーやうわごとじゃない。あくまで、なにかしら、きしみの宇宙を匂わす作品になっているものたち。主に詩。ギャグ系…
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#スキしてみて

人はみな 死ぬまで「自分係」 丁寧に育てて 最後まで愛して 見送っていくんだ #詩人

【書き出し小説】雨をかじって

ひしゃげた段ボールと督促状が散乱した部屋を渡る。生ゴミ特有のすえた匂いが便所まで追いかけてくる。黒ずみ切った便座に反吐を吐き、食べたら食べっぱなし、抱いたら抱きっぱなしの畜生同然の己を嘲笑う。どうで死ぬ身のひと踊り、か。 賭けるものがとうとう命しかなくなったその夜、着信音が鳴った。

【詩】命の心

結局全部「心」だった 人間が何かを為す淵源には どうしても心がある それがどんな心だったのかが 全てを決めていた すなわち この世の全ては いつかの誰かの命の想いが 形になったものなのだ 食べ物も建物も 音楽や文学 絵画や彫刻 舞台演芸などの諸芸術も 無論 文化方面だけでなく 政治、経済、流通 この世の治生産業一切合切が どこかの誰かの想いであり それが連なって形を為したものなのだ もっと言えば 動植物などの自然や地球 なかんずく人間そのものも その実 生命自体がそ

【断片文学】誰も知らない首の日

ただの生首より 耳を削ぎ落とした豚の生首の方が いっそ丸々として 驚くほど惨めだった この世の中に あんなに悲しいボールはない 裸足の少年たちに 雨と泥の中 西瓜のように激しく蹴られ 転げて回る豚の首 白く突き出た頚椎の鳴き声が 冷たく濡れそぼった足の甲に刺さる 少年がぎゃっと叫び 途端に蹲って どしゃぶりの石になる みんな黙って 立ち尽くし 知らない顔になった 手には手の子供がおり 足には足の母親がいる 首には首の妹がいて 血と泥と一緒に掻き抱かれ 寂れた一本道を

【詩】 炎だったかもしれない 風だったのかもしれない 細い布団を敷いても 助からない命 思い出せない 空の名前 頭の中が燃える合図 キラキラとした雪解けの川を 黒板が流れて行く 六畳一間に沈む 最後の授業 「春を消さないで」 #いのち時間シリーズ #写真 #詩人

【悪夢】ちょぷっ!

絶対に想像しないで聴いてください 時間は正午くらいだったと思います 雨は降っていませんでしたが 薄曇りで 風がやけに肌に纏わりつき 生ぬるい水槽に浸かっているような 気味の悪い天気でした あなたが散歩に出ると 近くの国道を大型トラックが頻繁に 相変わらずの猛スピードで ビュンビュン飛ばしています ゴツくて大きいタイヤを見つめていると なんだか吸い込まれそうです 実際 体が少し 持っていかれた気もしました ぞくりと身震いがして 背中に嫌な汗が吹

【掌編】びいどろ先生

びいどろ先生 檸檬は将棋に入りますか? 人から目玉が失くなっちゃったよ 多分神様とかのせい 最初みんなただ真っ暗で 盲になっただけかと思った でも顔を触ってみると 目の辺りがのっぺら坊みたいに つるつるで 触って失神する女の人もいれば パニックになって走り出して 車に轢かれる男の人もいた 誰かさんは 口を開けっぱなしの 仮面ライダーみたいになって ひゃめんひゃいだー ってうわ言のように繰り返してた 百々目エノキのせいだね どどめえのき? 人くらいの巨大なエノキで

【詩】綺想曲

アンキロサウルスを 銀座に突っ込んで にぎにぎしてやる 家に着いたら 下腹部が心地いいように アロエを舐め回すんだ 夕食後はサボテンを水槽に沈め 己のトゲで自殺するまで 小一時間眺める 何かの雌が 虹色の宿便を ひねり出す瞬間も 忘れずに録画する 夜は覚えたての非鳴法で 鳴き声を殺して眠る もうすぐ五度目の脱皮が始まる 海という海が死んだ 誰も知らない人類の王国で 唯一割れなかった鏡が 後ろめたく潮騒を取り戻す 映し出された音は誰? 夜の尻尾は悪魔色 遠くで月が跳

【掌編】君の赤いマフラー

――その日 一人のホームレスを 純粋に助けた 君 君だけは 救われると思ってた 神様が ちゃんと見てるはずだから なのに―― 富裕層だったから? 髪が金色で美しかったから? 正義なんて不純なものを愛してたから? 見つかって 集団でホームレスに輪姦され ――翌朝 交差点の真ん中で 全裸に剥かれたまま 冷たくなってた 幻みたいなマフラー巻いて 神様 見えますか 見えてますよね 首だけ―― 首だけが赤くて寒そうです ホームレス達が商店街で叫んでる 一枚 また一枚 シャ

【断片小説】微少女

機械なのに人と同じく 言霊を扱えるようになった 人形少女―― 生きていることが 奇跡みたいな 微少女だった 拮抗した生死のうち 痛みだけを触手に握らせ 井戸の底で深淵の綱渡りを続け 僅かに生の表面張力で流れ落ちずに しがみついていられただけの 性奴隷人形 二人で 魂を共有するように 嘔吐いた 〈了〉 ※↓インスパイア先、ゾクゾクします

【詩】 転がっていく花びらみたい 君の骨 月の灰と一緒に風になり 夜色を纏う桜を死に染めていく 膝から崩れ落ち 黝い幹で額をかち割れば 血吹雪の中で笑ってる 君に会えるだろう 何度でも 何度でも 春は僕の血で甦る

黒縁メガネをかけ 隙あらば口を尖らせ 「トゥーートゥットゥー!」 って鳴いてる女子高生 肩口までの黒髪が白い制服の上に映え 清潔そうに見える ドングリまなこは鳴いてる時寄り目がちになり シャボン玉を吹いている幼い少女に見えなくもない 多分 宇宙人だ うちの団地の 好きだな

【断片小説】青から覗く白

毎日 傷だらけで訪ねてくる君を 絶対助けないと決めていた 無論理由も訊かない 空き缶拾いのこの僕と SEXする理由も 互いに涙を溜めながら 体だけで交わす 海と膿 霧雨けぶる川沿いの小屋 ビニールシートの青から覗く白い乳房 胸の刺繍 女工の匂い 舌を入れると 歯が一本も無い 〈了〉

【詩】クラムボン

『クラムボンは死んだよ。』 世界から光が消えた闇の中でも ザリガニは泡を吐くだろう 黒目もつぶらに光るだろう 群青色の胞子が散る星空みたいなドブ下で 清潔なコンクリートか 深海のコールタールか 選べ 『クラムボンは殺されたよ。』 一生涯 正座もでぎずに軋む ニホンザリガニの背骨 それが僕 君がコンビニで煙草を買う時の 千円札と 僕が泥水の中で握りしめた 千円札は 同じ味だと思うかい まったく同じ一杯のラーメンでさえ その味の重力は誰にも選べない 『クラムボンは死ん