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うたがわきしみの宇宙Ⅱ

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140文字では収まりきらなかった、うたがわきしみの世界観。コラムやエッセーやうわごとじゃない。あくまで、なにかしら、きしみの宇宙を匂わす作品になっているものたち。主に詩。ギャグ系…
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2019年5月の記事一覧

『むかしばなし』

むかーしむかし の右側のむかしの方が むかしであることに飽きて旅に出た お陰でむかしにすっぽり穴があき むかしっぽさのむかし率も半分になった 可哀想に思った現在が駆けつけ その穴を塞いだのはいいが 今度は現在がぽっかりと無くなりかけて 慌てて未来が飛んできてその現在を埋めた 未来が未来であることをやめ 現在の身代わりになった瞬間 未来は文字通りお先真っ暗になり この世はそこで終わりかけた 時代たちはもはやこれまでかと絶望した ところが、真っ暗に染まりかけた未来に 一筋の

『全部ザラメのせい』

カステラと喧嘩をし、三時間ほど口をきかずにいた。 頭を冷やすため、散歩がてらザラメを買いに町に出た。仲直りのアイテムはいつもそれだった。 帰宅すると、カステラはお気に入りの平皿の上で性懲りもなくふて寝を決めていた。 優しく声をかけるつもりが、カステラのその物言わぬ背中のふてぶしい気配に無性に腹が立ち、私はとっさに買ってきたザラメを思いきりぶちまけると、それをかき集めては一心不乱に奴の小さな鼻の穴へ詰め込んでいった。 はっと気がつくと、カステラはぐったりと力なく横たわり

自分が大嫌いな人は “永遠”という言葉を恐れる 自分が大好きな人は “永遠”という言葉に安心する #それがこの世の秘密の鍵

真顔で「最後に愛は勝つ」って言えなくしてやろうかって言われた

遺伝子のにほひがする #自由律俳句

『自殺さがし』

あまりの懐かしさに孕む #自由律俳句

自己回収ソフトを開発していた博士が ようやっと完成を見たその日に 忽然と姿を消した。

満員電車の中 ぎゅうぎゅうで向かい合う ほぼ全員が スマホだけを見て乗っている もちろん僕も こんな浅ましい未来 ちょっと前まで 誰も想像してなかった 浅ましさが浅ましい そんな未来を

『とき』 開始が開始されず 終了が終了できないでいた 時だって ただ佇みたいときがあるんだな ぼんやりと赤く染まった 沈めない夕陽を 行くことも 戻ることもできないでいる時とともに 飽かず、眺め続けた いのちの時間だった

食欲の秋 五反田鞠子がついに秋を食べ始めた それはもうありとあらゆる秋の味覚が 舌の上に同時に押し寄せた案配で 食通を自称していた鞠子も 食べ終わる頃には白目をむいていた その日から季節は春・夏・冬になった 今、目覚めた鞠子が 難しい顔で調べものをしている 春の味覚について…

『王葬』

白茶けた広大な砂漠に うねる大蛇のように横たわる大河 そこに10万頭の白いカバたちが集っていた 王の葬列だ まもなく王葬が始まる 上流から 体長52メートルの巨大な白ワニが のたりくたりと 体をくねらせながら下ってきた 無数に浮かぶ白いカバたちが シャーマンに敬礼するように いっせいに口を開く 白ワニが到着し 大きな顎をくわっと持ち上げると しんとした数舜の間が大河に落ちた 次の瞬間 白ワニは無差別にカバたちを喰らい始めた ぶんぶんと体を回転させ カバの硬い肉をみ

世界中で 誰かのために発信され 刺さらずに落ちてきた 言葉たちの残骸 俺が住んでるのはさ そういう残骸で出来た島なんだ