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うたがわきしみの宇宙Ⅱ

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140文字では収まりきらなかった、うたがわきしみの世界観。コラムやエッセーやうわごとじゃない。あくまで、なにかしら、きしみの宇宙を匂わす作品になっているものたち。主に詩。ギャグ系…
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2017年5月の記事一覧

『ラストクローン』

百万回蘇生を繰り返して、 生きながらえてきました。 もう一度貴方に会いたくて……。 でも、 そろそろ記憶の劣化が限界に達したようです。 もう、あなたの顔も声も思い出せません……。 ただ、あなたの欠片のような温もりだけ、 まだ、胸の奥にあります。 どれだけこの日を待ちわびたことか。 ついに、貴方が目覚める日が来たのですね。 なのに、それを、心から、喜べないなんて…。 だから、神様は、私に意地悪をしたのですね。 次のクローニングで、 「貴方を知ってる私」は 完全に消えること

『“ロ”の領域』

ニューロシアの忍者サイボーグに成り下がっていた俺に、アンダーチベットのハイパー密教僧は低い声でこう告げた。 「たった今、マカロニから空洞が奪われた」 「……?」 禅問答にも似た物言いに当惑する。 密教僧は表情ひとつ変えずに続ける。 「マカロニが抱える『0』の領域だ」 ――数瞬後、掴みかけた閃きが逃げ出してしまわないうちに俺は答えた。 「“ロ”だ。……マカロニの空洞……マカロニが抱えるゼロ。それは本来、奪えるような実体がないもの。だが、『マカ【ロ】ニ』(macar【o】

『純粋大根』

――その日、大根を一本引き抜いた父が射殺された。 この星の異常気象からはじまって農作物の遺伝子組み換えは留まるところを知らず、気がつくと僕たちがまともに口にできるのは「純粋大根」だけになっていた。 超・民主主義とかいう社会は何度か破たんして前の王様が復活し、その親戚貴族たちが僕たちに大根を作らせ、たくさんの大根をおさめさせていた。大根の煮物、サラダ、漬物が主食になって何年過ぎたかわからない。 ある年、ファントムスーンという異常風により、大根の収穫が激減してしまった。それ

『染み』

白くて大きな壁に 小さな黒いシミがひとつ。 シミは恥ずかしかった。 みんなと違って自分だけが黒い。 どんなに頑張っても、けして白くはなれない。 白い壁は「おまえさえいなければ」という。 「めざわりだ」ともいう。 シミは、自分をごしごしとこすったり、 つばをつけてみたり、真っ黒な色を 必死になってごまかそうとした。 しかし、どうしてもみんなと同じ白にはなれない。 自分ひとりだけが取り残されたようで、 いてもたってもいられない気持ちになる。 ――と、壁の前に老人が一人や

「心の鬢まで白くなる」

僕は君を見つけた。 君も僕を見つけた。 見つかりあった。 だから今ココにいる。

むなしい抱かれ方する夜人形 あたし

きちんと途方に暮れた空を連れていく

そむけても消えず じっと睨む

溺れても優しい

睡眠と同じくらい君が好き

ずっと砂ケシのザラッとした方になじめない

進化した一匹の神 人間

ドブから見上げても空