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うたがわきしみの宇宙Ⅱ

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140文字では収まりきらなかった、うたがわきしみの世界観。コラムやエッセーやうわごとじゃない。あくまで、なにかしら、きしみの宇宙を匂わす作品になっているものたち。主に詩。ギャグ系…
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2017年4月の記事一覧

『幸せ屋』~岸和田老人の奇妙な一日~

岸和田はどうも健康すぎると日頃から思っていた。齢九十にして意気益々健康、血気盛ん。精力絶倫にして毎夜酒池肉林の宴を催す日々。特に健康なのは歯だ。入れ歯も差し歯もなく、あろうことか虫歯にも一度も縁がない。ある日これではいかんと思い立ち、岸和田は早速、虫歯屋に向かうことにした。 梅雨が明け、外はすでに猛暑の夏の気配。なにもこんなうだるような暑い日に、とも思ったが、思い立ったが吉日と、岸和田は最寄りの駅へと駆け込んだ。 当前のように線路はうどんでできていた。 干からびもせず、白

『探さないでください』

ある日、“意味”が 家出した。 地球の真ん中にそんな立て札が掲げてあった。 それからというもの、 あらゆる言葉の意味たちは 意味を持たなくなった。 人々は最初、それほど難儀には感じていなかった。 いや、むしろ喜ぶ者さえいた。 持って生まれた習性と呼ぶべきか、 人々は意味のないものにも意味を見出し、 情報を与えられるがまま むさぼるように解釈し続けてきた。 その結果、さながら世界は意味の洪水といったありさまで意味に対して、誰もが疲弊しきっていたのだ。 さんざん弄ばれ

『夢の都合』

夢の悲鳴が 街に響いた。 ふいに呼び止められる。 「君、ちょっといいかな? ここで何を……?」 職夢質問的な何かだろうか。 「まさか君、“夢”を追いかけたりしてないだろうね?」 「……?」 「ああ、君だね。ちょっと当局まで来てもらうよ」 「あ、いや、僕は……夢なんか持ってませんし、追いかけたりしてません」 「いいからいいから、最初はみんなそういうんだよ。 ここのところ夢からの相談が多くてね。 しつこく付きまとわれてるって。 イヤな事件も多いし、起きてしまってからだと 叩

『不毛』

その会議がいつから始まったのか。 もはや誰一人覚えてはいない。 「仕方がないことを考えていても仕方がない」 「仕方がないという奴が、たいてい一番仕方がない」 「仕方がないなんて絶対にいうな!」 「仕方がないというよりも……どうしようもない」 「どうしようもないことを考えていても、やっぱり、どうしようもないじゃないか」 「どうしようもないという奴が、たいてい一番どうしようもない」 「どしようもないなんて絶対にいうな!」 「どうしようもないというよりも……致し方な

『絶対説明都市』

ヒカリコオロギの肛門の匂いがする

君がもし生まれたいなら 本当に生まれ続けたいなら 「発生練習」を欠かさずにね

おならまで恋し

背中押したはずの手が泣いてる

さみしさ はかどる 昼の酒かよ

春を漕ぎ ぶつかり始めた 顔に虫

探してるのは 『君に贈る言葉』 じゃなくて 『君に刺さる言葉』

人間ひとりひとりが地球の専門家にならないといけなくなったんだ

アルジャーノンに花束を 炸醤麺にコチュジャンを マルコポーロに七面鳥 クラムチャウダーコンセント カルボナーラにサヨナラを マルゲリータに微笑みを うらめしーのに約束を ボルサリーノで朝食を フラペチーノに転職を アルパチーノに戦慄を https://note.mu/azamaro/n/n5066de5c0f7e?magazine_key=m51cd524319f1