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雨の羽越本線〜忘れられない出会い

雨で嫌になってしまうね。

大きな荷物ね。どこから?

そう、京都から来られたの。京都は何回も行ったのよ、季節が、こちらは1か月遅いように感じるって?そうね、この辺り寒いでしょ。いつまでも寒くてね。この前札幌から来たご夫婦と話したら、あなた、「このあたりは札幌より寒いね」だって。まだ夜はストーブが要るのよ。
こちらもやっと八重桜が満開になってね。春が遅いの。雪国だから。
私お話好きでね、駅でよくいろんな人と話すのよ。駅って楽しいわよね。

一人旅?酒田に泊まるの?
旅はいいね、私も旅が好きなの。ちょうど1か月前、南インドに行ってきて。ヨガしてきたのよ。デトックス、ていうやつ?

びっくりする?そう、どこにでも行くのよ。そのヨガの旅も、みんな東京の、若い人たちばかり。由利本荘から来てるのなんて私だけで、ずいぶんびっくりされたわ。ははは。

え?いくつか、って?
私は昭和16年生まれ。76歳。
この歳になるとね、身体動かさないとダメなの。毎日ダンベル持って体操してるよ。それとサツマイモ育ててね。200坪よ、畑は。足から弱って、ほっとくと筋肉なくなるから、ちゃんとやらなくちゃ。それでも毎年、できることは減っていくの。それでいいの、できることを一生懸命やって、できないことは手放していくの。

旅はずいぶん行きましたよ、ヨーロッパ、タイ、ベトナム、中国、アメリカ、、、数えるのが大変ね。
そう、最近は一人で団体旅行に入ることが多いね。旅は大部分は娘とね。旅が好きだったのよ、娘は。

そう、「好きだった」の。死んじゃったの。人間って死ぬ時はあっという間よ。42歳で、交通事故でね。娘が死んだ2年後の、同じ時間、同じ日に、大震災。そう、3月11日の、午後2時48分に死んだの。あしたが月命日よ。

でもね、孫も子供がいて、ひ孫と孫が、ばあちゃんばあちゃん、て、しょっちゅう来るの。幸せだと思うよ。孫のひとりはそばに住んでるの。もうひとりは、秋田の駐屯地。最近怖いね、戦争なんてならなければいいけど。兄が特攻隊で死んでるの。

あなたまだまだ若いから、世界中見てまわるといいわね。旅はいいよね。だって、人間死ぬ時はあっという間なのよ、死んだら何もなくなるの。ちゃんと寝て、食べて、笑って、くよくよしない。生きてるって、すごいことなのよ。楽しまないとダメなのよ。

娘の月命日に、花を買って帰るの。そう?私も、娘はそのへんにいて見守ってくれていると思うの。あなたもそう思う?ありがとう。死んだ兄もね。だからいつも嬉しいの。人は死んでもいなくならないのよ。いつもそばにいるの。だから淋しくないのよ。死んだら悲しいけど、そばにいるんだから。

私は次の西目で降りるの。ちゃんと食べて、寝てね。酒田までの間、こっちの窓から海が見えるからね。東北はいいところよ、旅を楽しんでね、気をつけてね。さようなら。

(2017年5月の想い出)


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