「えぇだからちゃんと了承を得て来ました

「えぇだからちゃんと了承を得て来ました。妻への贈り物を選ぶのを手伝って欲しくて。」
 
 
少し照れ臭そうな顔で笑った久坂を見て三津もそれなら喜んでと笑った。
 
 
「すぐに支度しますね!」
 
 
掃除の為の装備を全て取っ払って乱れた髪だけ整え直して簪を挿し,すぐさま玄関に飛び出した。
 
 
「すみませんね突然押しかけて無理言って。」 gaapiacct.pixnet.net
 
 
「いいえ!迷惑掛けないか心配ですけど。」
 
 
道も分からないし新選組に見つかれば厄介なただのお荷物だと自嘲した。そんな三津に久坂は心配要らないと笑った。
行く場所は決めてるし新選組の巡察経路は大体把握している。
 
 
「今までも帯や帯留め着物やら贈ってましたがやっぱり選ぶのが苦手で。
喜んでもらいたいがどう言う物が喜んでもらえるのか分からないんです。」
 
 
「そうですか。それなら深く考えなくていいですよ!品物を見て奥さんのお顔がぱっと浮かべばそれで大丈夫です。」
 
 
三津は人差し指を立ててにっと笑った。
久坂はそれだけ?と少し拍子抜けな顔をした。
 
 
「この簪。これ小五郎さんから初めて戴いた物なんです。怪我を手当したお礼にと。
これを選んだ理由がそれなんです。私の顔が思い浮かんだって。」
 
 
嬉しそうな三津の笑顔に久坂はなるほどと笑みを浮かべた。
同じ様に文が嬉しそうに笑う顔が頭に浮かんだ。
 
 
「これサヤさんが小五郎さんに助言したらしいんですけどね!
自分の事を考えて選んでくれた物なら何でも嬉しいって。
やから久坂さんが選んで贈ってくださったって事がすでに奥さんを喜ばせてると思いますよ。」
 
 
『へぇ。桂さんでも悩んでサヤさんに助言を仰いだって訳か。やっぱり三津さん喜ばせようと必死なんだな。』
 
 
百戦錬磨であろう色男が女中に相談している姿を想像するとニヤニヤしてしまう。ちょっと弱みを握った気分。
 
 
「では,その方法で選んでみます。」
 
 
それで選んだのはちりめん細工の花の髪飾り。桜色を選んだ。来年こそは咲き誇る桜の花を共に見たいと願いを込めて。
 
 
「いい物が買えました。ありがとうございます。」
 
 
それは良かったと満足げな三津に久坂はどうぞとちりめん細工の花の根付けを差し出した。
 
 
「え?」
 
 
「可愛い妹にも何かしてやりたくなりまして。」
 
 
妹?私?と黒い瞳を丸くして,にっこり笑う久坂と根付けを何度も交互に見た。
 
 
「昨日思ったんですよ。妹とはこんなものかなと。松陰先生が文に抱いていた気持ちは私が三津さんに抱くものと同じなのかなと。」
 
 
妻に抱くものとは何か違う愛おしさを感じたと言う。
 
 
「兄上!こんなに頼れる兄ならば妹は幸せ者です!」
 
 
「まぁ実際わやで迷惑でしかない兄ですがね。」
 
 
そう笑って根付けを三津の帯に挟み込んだ。妻に選んだ髪飾りと同じ色合いの小さな花が揺れていた。少し散歩をしようかと鴨川の土手を歩く。
嬉しそうに根付けを揺らす姿に久坂は目を細めた。
 
 
『桂さんはまた男から物を受け取って!と怒るかね。』
 
 
可愛い妹へなんだ。それぐらい大目に見てもらいたい。
 
 
「あ!そうだ。三津さんちょっとだけ用事を済ませてきてもいいですか?」
 
 
思い出したと声を上げ,申し訳ないと眉尻を下げた。
 
 
「大丈夫ですよ!」
 
 
「すぐに戻るんで待っててもらえます?迷子になるから絶対動かないで下さいね?」
 
 
すぐ戻るからと念押しする久坂を笑って見送り,一応身を隠すように草の茂みに紛れた。
 
 
案外出掛けても大丈夫なんだなと笑みを深めていたら,
 
 
「三津。」
 
 
静かに名を呼ばれた。くるりと振り返れば土手に笠を被った男が一人。
 
 
「え……。」
 
 
目深に被っているが口元と声,醸し出す雰囲気に心臓の鼓動が早くなる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?