が所持する銃の
が所持する銃の手入れをしていたのである。
俊冬は、副長たちがその連れに気がつくまえに、すばやく地に片膝をついて控えた。
そのタイミングで、避孕 俊春とその連れが、おれたちのまえにやってきた。
俊春は歩をとめたと同時に体ごと脇へよけ、俊冬同様地に片膝をついて控える。
「副長、ただいまもどりました」
副長は、怪訝なをわずかに伏せたまま告げた。
「おとめ申しあげましたが、公式にも非公式にも呼びよせて会う機会はないとおおせられまして……。お連れしたしだいでございます」
え?
副長だけではない。この場にいる全員がはっとした。ちょうど安富もでてきたので、かれもくわえてである。
全員が、いっせいに片膝をついてひかえた。
「やめてくれ。目立ってしまう」
俊春の連れ、すなわち会津侯は、おれたちに立つようにあわててうながした。
厩ではあるが、城のほうからみえなくもない。たしかに全員がかしこまっていたら、たまたまみた人は「あれ?だれか偉い人がきているのか?」って不可思議に思うであろう。
すばやく動いたのは俊冬である。かれは、さっと馬番の控え部屋にはいっていった。
会津侯をむかえられるよう、体裁を整えるためにちがいない。
「会津……」
やっとショックからさめた副長がいいかけたところに、会津侯は目深にかぶっている編み笠の下に指を一本立てて合図を送り、だまらせた。
それから、掌をひらひらさせて控えるのをやめるよう合図を送る。
そう命じられれば、従うしかない。全員がおずおずと立ち上がった。
「兼定っ」
おれたちが立ち上がったのに、会津侯は片膝を地につけてしまった。厳密には、相棒のまえで片膝を地につけ、そのまま相棒に抱きついてしまった。
「京の黒谷で会って以来だな。元気そうだ」
なんと、会津侯は相棒の頭部をひっしと抱きしめたではないか。編み笠の先端が、背中をつんつんと突きまくっているのもかまわず、相棒は甘えた声をだして抱擁をうけとめている。
なんてうらやましい光景、ではなく、感動的なシーンなんだ。
ちなみに、黒谷とは、京都守護職として会津藩が本陣としてつかっていた浄土宗大本山ののことである。
金戒光明寺は、とならぶ浄土宗の七大本山の一つであり、格式のたかい寺院なのである。
京にいた際、その黒谷で相棒とおれは何度か会津侯と対面したことがある。
会津侯と実弟の桑名少将は、ことのほか気に入ってくれたのである。それこそ、引き抜いて何万石もあたえてくれそうな勢いであった。
あっ、もちろん引き抜きの対象者は、相棒のことである。おれ、ではない。
編み笠の下にあるはみえない。しかし、一心に相棒の頭を抱きしめるその様子をみていると、泣いているんじゃないかとキュンときてしまう。
自分自身のことだけではない。おおくの家臣、さらにおおくの領民たちのが背負うには、それらは巨大で重すぎる。
おしつぶされてもおかしくないし、逃げだしてもおかしくない。
会津侯は、性格上それができないのかもしれない。いくら藩祖の遺訓だといっても、ここまで依怙地にしたがう必要はないのだ。
実際は、プレッシャーにおしつぶされかけている。逃げだしたがっている。かろうじて、踏みとどまっている。
相棒の頭を抱きしめる会津侯をみ、そう実感した。
それは、おれだけではない。この場にいる全員が感じているだろう。をむけた。
いつもさわやかな笑みを浮かべているかれであるが、いまその口は唇がかみしめられている。そこからをさげると、だらりとさがるりょううでのさきで、両拳が握りしめられている。
そのかれのをさげると、だらりとさがるりょううでのさきで、両拳が握りしめられている。
そのかれので会津侯をみつめている。
副長は、斎藤にみられていることに気がついていないようである。
は、しばし副長にとどまっていた。それが、ふたたび会津侯へともどる。そのタイミングで、会津侯と相棒の側にたたずんでいる俊春が、こちらをみていることに気がついた。
そのかっこかわいいに、わずかではあるが驚きというかショックというか、そういった類のものが浮かんでいる。ポーカーフェイスのかれにしては、めずらしいかもしれない。
かれは、おれとをそらした。
そうすることでなにかを伝えたかったのだとすれば、残念ながらおれには理解できなかった。
俊冬が馬番の控え部屋からでてきた。副長にちかづくと、その耳になにかをささやく。
「どうぞ、おはいりください」
副長はいまだ相棒の頭を抱きしめている会津侯にちかづき、その華奢な両肩に掌をそえてうながした。
控え部屋は、十畳ほどの畳敷きのなんにもない部屋である。土間があり、そこに七輪がおいてある。相棒は、土間でお座りし、おれたちは部屋にあがりこんだ。