白百合
祖父が亡くなった。
私が泊まりに行った後の帰りに必ず「もう一泊していけよ〜」と必ず口にする人だった。亭主関白で頑固だから、祖母はよく悪口を言っていたけれど、私には到底そんな人には見えなかった。
祖父は親戚に煙たがれながらも、昔やってた大工の仕事を愛して、時間があればいつも自分で本棚やら、花壇やらを作るような人だった。私がそれを持って帰ろうとするといつも母に止められた。
朝は健康の為にと必ず1人で散歩に出掛けた。膝も悪い祖父だから、周囲の人間はいつも心配していた。
数年前に保護犬を引き取ってからは、犬と昼寝をする姿をよく目にした気がする。身体を悪くした祖父を労わるように、愛犬はいつも祖父の膝の上にいた。
母、祖母、親戚との関係が悪化してから、一年以上も会いに行かなかった。祖母は私に会いたくないんじゃないか。勝手な想像が邪魔をして会いに行けなかった。
小さい頃から通っている私のかかりつけの歯医者は、祖父の家の近くだった。祖父に会いに行きたかったけど、私の被害妄想がそれの邪魔をした。
その一週間後、祖父は亡くなった。
自分が情けなくて仕方がなかった。自分の情けなさに心底腹が立った。
亡くなった日、私は祖父に会いに行った。いつも愛犬とベッドで寝ている姿を思い出した。
1年間、会いに行けなくてごめんね。
振袖見せられてよかったよ。
本当はウェディングドレス姿も見て欲しかったけれど、コロナという病原体にまた邪魔されてしまったね。
祖父は苦しまずに亡くなるだろうと思っていたけれど、最後の祖父の姿なんて想像もしたくなかった。
最近は認知症も少しだけあって、私の顔を見ては母の名前を口にしていた。そんなことも親戚と集まれば笑い話だった。
私の選択は間違っていたのかな、
私が母と仲直りするきっかけを作ってくれたのかな、
お空から、仲直りするところ、見ててね。
無口で普段は私たちの会話に何も口を挟まなかったけれど、その瞬間だけはきっと微笑んでくれるだろうと思ってるよ
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