2024年秋学期 研究書評


11/07

ASAM ALMOHAMED, DHAVAL VYAS, Rebuilding Social Capital in Refugees and Asylum Seekers, ACM Transactions on Computer-Human Interaction, Vol.26, No.6, 2019

内容
難民や亡命希望者が健康、住居、教育、就労の支援リソースにアクセスし、社会的包摂や全体的な幸福を向上させるために、ソーシャル・キャピタルを再構築することが重要。
したがって、情報通信技術(ICT)が難民や亡命希望者をホストコミュニティ内での社会的つながりの再構築にどのように関与させ、ソーシャル・キャピタルを支援し、幸福の向上に役立てることができるかを明らかにすることが重要。
研究課題:
1.難民や亡命希望者にとって、強制移動がソーシャル・キャピタルにどのような影響を与えるか。
2.新しい国に再定住した難民や亡命希望者が、自分たちのソーシャル・キャピタルをどのように定義し、活用しているか。
3.移住後の状況において、ICTやSNSが難民や亡命希望者のソーシャル・キャピタルにどのような影響を与えるか。

移住後の体験に基づく質的調査(参加者の多くはイラク、シリア、アフガニスタン出身)
14名の難民と5名の亡命希望者→半構造化インタビュー形式
6名の難民および亡命希望者→文化的プローブ[34]を活用した方法
地元のコミュニティワーカー3名と政治活動家2名→1時間の半構造化インタビュー
結果は「移動に伴うストレス要因」「受け入れ先コミュニティでの受容」「社会的リソースへのアクセス」「難民による技術の利用」という4つのテーマにまとめた。

研究方法:最初に参加者の自宅で1時間のインタビューを行い、彼らの背景、オーストラリアに到着した時期や方法、移住前後の経験、日常生活、技術の使用状況などに関する一般的な質問を行った。冒頭で研究の目的を説明し、インタビューの録音、写真撮影、メモを取ることについて参加者の許可を得た。
インタビューだけでは全体像が把握できない可能性があるため、参加者の日常体験についての洞察を得るために文化的プローブも用いた。文化的プローブは以下のような素材を含んでいた: ・特定の物や場所、状況を撮影するための指示付きの使い捨てカメラ ・現状を改善するためのデザインアイデアを描くためのスケッチブック ・都市の地図に色付きのシールで個人的および社会的に重要な場所を示すための地図 ・上記のいずれかの素材に補足する感情を表現するためのオーディオレコーダー ・ボートでの旅など、特定の人生の出来事に関する体験を引き出すための一連の写真とそれに関連する質問が含まれた写真引き出し用のブック
これらのキットは、文化的プローブの使用に同意した10人の参加者に配布され、使用方法について30分の説明セッションを行った。説明は次の通り:「これらの資料は文化的プローブと呼ばれ、研究者が参加者の感じ方や考え方、日常生活についてより深く知るための手段です。これらを使っていただけると嬉しいです。すべての資料を使う必要はなく、義務ではありませんので、好きなように使ってください。楽しんで使っていただけると良いですね。パッケージ内にすべての説明が入っており、質問があればいつでも電話やメールで連絡してください。2週間ほどで回収に伺います。」

結果
移住に関連するストレス要因:故郷や故郷での暮らしを思い出す気持ちや、移動によって元あったソーシャル・キャピタルを失ってしまうこと、また家族の断片化が挙げられた。中東の文化では家族が宗教、社会、政治の中心と見なされているが、難民や庇護希望者の立場で家族を呼び寄せることができないというストレスを抱えている。
ホストコミュニティでの受け入れ:隣人の役割について、文化や言語の壁によって隣人との交流が欠けている。また、ステレオタイプについて、オーストラリアで流れる難民や亡命希望者への否定的なメッセージは、難民がホストコミュニティに関わる努力を妨げてしまう。テレビの使い方を一から教えるなど、難民という立場への強い偏見があった。
社会的資源へのアクセス:難民コミュニティと組織の支援。難民たちが仕事を見つけたり、情報を得たりするために自分たちのコミュニティに頼っていることがわかった。また、NGOが難民や亡命希望者のホストコミュニティとの社会的つながりを支援する重要な役割を果たしている。
難民によるテクノロジーの利用:テクノロジーにより、難民となった人たちが母国に向けて送金をすることが可能となった。また、言語の壁を克服するためにインターネットを利用することが多いことがわかった。

まとめ
結束型ソーシャル・キャピタルより橋渡し型ソーシャル・キャピタルがより広い社会と広がって統合につながると以前見たが、新しい地に来たばかりの人に対しては支援団体などの協力によって自分と同じ地域の人や似た言語を話す人など、共通点がある人の方が関わりやすいというのは確かにそうだと感じた。SNSは人によって好みが分かれていたが、基本的には使うことで離れた家族とも会話ができるので安心を与えてくれる存在だと思った。



10/31

Sin Yi Cheung , Refugees, social capital, and labour market integration in the UK, Sociology, Vol.48, No.3, 2014, p518-536

選択理由
労働市場への統合プロセスを実際のアンケートで2年弱追ったものだったため。

内容
英国に到着する庇護希望者の数は減少しているが、結果として英国にいる難民の数は増え続けているため、統合は英国の重要な政策目標となっている。研究においては、難民の統合を探るために行われた量的な研究はほとんどない。そこで今回は難民5631人が何らかの難民認定を受けた時点から1年本意わたって難民統合の成果を追跡した縦断的研究を行った。特にソーシャル・キャピタルと雇用という統合の2つの重要な側面に注目し、以下の点に焦点を当てながら検証した。
・新たな難民コミュニティにおけるソーシャル・キャピタルの形態を特定
・様々なタイプのソーシャル・ネットワーク、ソーシャル・キャピタルと難民の就労へのアクセスとの関係を調査
・様々なタイプの就労へのアクセスをサポートする可能性が最も高いソーシャル・キャピタルの形態を特定

統合は、同化に向かう移民の過程である。社会心理学者はこの概念を基に研究している。また、統合は移民が自身の文化を保持しつつ、現地社会と日常的に交流することで成立するため、社会的ネットワークが重要となる。一方で、社会的ネットワークの欠如や人種差別などが統合を妨げ、疎外の原因となる可能性も指摘される。
初期の英国の統合政策では、同民族や同国籍グループへの支援が統合を促進するとされたが、後に多文化主義への反発から同化主義的な方向へと転換し、結束型ソーシャル・キャピタルの支援が縮小され、異文化交流による橋渡し型ソーシャル・キャピタルの構築が奨励された。

英国では政府が有給労働を社会的包摂の手段と見なし、雇用は新たな社会的ネットワークの形成、英語学習の機会、経済的自立を支援する手段であるとしている。就労している難民は、失業者よりも受け入れ社会に適応しやすい。しかし多くの難民が技能に見合う仕事を見つけられず、地位の低下や労働市場からの排除が統合の障壁となっている。

用いるデータは新難民調査(SNR)で、これは英国における難民統合の縦断的研究である。2005年から2009年の18歳以上の難民を対象としており、郵送で4回のデータ収集を行った。初回は留置許可が与えられた1週間後(S1)に実施。続いて8ヶ月(S2)、15ヶ月(S3)、21ヶ月後(S4)に実施した。2005年には5678件、最終的には939件集まった。
従属変数は(1)雇用へのアクセス:失業中、教育・訓練中、または経済的に非活動的であるのに対し、雇用されている状態(2) 安定した雇用へのアクセス:一時的な仕事に対し、常勤の仕事に就いているか(3) 質の高い雇用へのアクセス:低技能職に対し、管理職、専門職、または準専門職に就いているかである。説明変数は以下の通り。

英語の流暢さとリテラシー
流暢さは理解度と会話のスコアの合計で測定され、リテラシーは読みと書きのスコアの合計で測定される。
流暢さが雇用へのアクセスの確立を高める一方で、リテラシーは質の高い雇用を得るためにより重要であると仮定した。

社会的ネットワークとソーシャル・キャピタル
社会的ネットワーク=友人や親戚、礼拝所や民族・国籍コミュニティ、その他のグループを含む様々な組織との接触頻度によって測定される(範囲は週2回以上~全く接触しない)

出自
各国ごとのケース数が少なく、意味のある統計分析を行うことができないため、(1)アメリカおよびヨーロッパ、(2)アフリカ、(3)中東およびアジアのような大きな地理的地域を形成した。

宗教
大半はイスラム教徒(48%)、キリスト教徒(41%)だった。労働市場統合において「ムスリムペナルティ」があるかどうか評価するためにダミー変数を作成した。

仮説:
1.英語の流暢さは雇用へのアクセスを増加させるが、質の高い雇用には影響しない。
2.英語の読み書き能力は管理職および専門職へのアクセスを増加させる。
3.社会的ネットワークだけでは良好な雇用結果につながらない。
4.ソーシャル・キャピタルは雇用および質の高い雇用に正の関連がある。

結果
移住前の雇用について
移住前の雇用は初期において流暢さとリテラシーのみ正の関連がある。
移住前の雇用は難民の全ての種類のネットワークとの接触を強化し、移住前の大学教育は正式な組織との接触レベルを高めることと関連している。
S1での自己報告による英語の流暢さとリテラシーは、すべてのタイプの社会ネットワークと有意に(ただしやや弱く)相関しており、言語能力がネットワークの形成をサポートする可能性が高いことを示している。
英国に住む期間も、友人や親戚とのネットワークと正の相関関係(それぞれr=0.40および0.28)があり、難民が英国に長く滞在するほど、友人を増やすことが示されている。流暢さやリテラシーと友人との接触との正の相関関係は、これらが英語を話す友人である可能性を示唆している。
滞在期間は、S1における流暢さ(r=0.45)およびリテラシー(r=0.26)とも正の相関があり、両方の相関はS4で0.28および0.09に低下する。何よりも、言語スキルが社会ネットワークの範囲を広げるという証拠があり、流暢さ(r=0.28)およびリテラシー(r=0.23)と正の相関が見られる。
見つかった唯一の有意(ただし弱い)な負の相関関係は、居住期間とグループおよび組織との接触との間にある。組織との接触は到着直後に最も多く行われ、その後の時間が経つにつれてそのような接触やサービスは必要なくなる可能性がある。

結論
難民は、亡命者としてアクセスする住宅の種類に応じて異なる種類の社会ネットワークを持っていることが明らかだ。言語能力が高く、長く居住しているほど広いネットワークを持つ。また、定住の初期段階では、宗教団体、同国人、およびその他のグループとの接触が、住宅や雇用に関する支援を受ける可能性を高めるという証拠もある。
しかし、単にネットワークを持っているだけでは雇用へのアクセスを向上させるには不十分であり、ネットワークの存在は有意な効果を示していない。
雇用へのアクセスにおける言語の重要性が明確であることを考えると、言語能力の向上は重要な優先事項であるべき。近年、英国に6か月未満住む亡命希望者に対するESOL(英語を母国語としない人のための英語)クラスの受講料免除が撤廃され、他の人々についても最低所得者だけが無料レッスンにアクセスできるように制限されている。これらの政策を見直し、質の高い言語教育へのアクセスを改善することは、難民が仕事にアクセスするスピードとその仕事の質に影響を与える可能性が高い。

まとめ
難民が受け入れ国で同じ出身のコミュニティに留まらず周囲と良い関係を築くには労働、またそのためには言語の問題を乗り越える必要があることがわかった。

メモ
難民がどのように支援を受けて仕事に就くことができるかについてはあまり知られていない
経済的移民の移住において、社会資本が重要な役割を果たすことは知られている(移住先に家族や友人がいることは、仕事や住居へのアクセスを助けるから)
難民は経済的移民とは異なり、強制的に移住せざるを得ず、社会的ネットワークの利用可能性に基づいて住む場所を選ぶことが難しい。


10/24

Dina Gericke, Anne Burmeister, Jil Löwe, Jürgen Deller, Leena Pundt
How do refugees use their social capital for successful labor market integration? An exploratory analysis in Germany
Journal of Vocational Behavior 105(2018)46-61

選択理由
難民とソーシャル・キャピタルの関連性を知りたかったため。

内容
 近年難民は大幅に増加しており、統合を支援することが緊急の課題となっている。労働市場への統合は、社会的、個人的な幸福を向上させるための主要な目標とされており、雇用の確保が福祉依存を減少させる手段として重要だと示されている。この研究で3つの貢献を目指す。第一に、難民がホスト国で利用できる様々なソーシャル・キャピタル(家族、異なる民族的背景を持つ友人など)を水平的および垂直的な結束型ソーシャル・キャピタルと橋渡し型ソーシャル・キャピタルに分類すること。第二に時間的な視点を取り入れて異なる種類のソーシャル・キャピタルが労働市場統合プロセスにどのように影響するか探る。第三に難民が達成する職業のレベルに関して、様々なタイプのソーシャル・キャピタルの価値を探る。
 次に理論的背景について2つにわけて説明する。1つ目は難民という用語である。これは移民とは違い、迫害等に直面したために母国を離れ、人道的理由に基づいてホスト国に受け入れられた人々のことである。自発的に家を離れた訳ではないため新しい環境や文化に適応する準備期間がほとんどない。2つ目はソーシャル・キャピタルである。ここでは「個人の社会的ネットワークのメンバーが所有する資源の集合であり、これらの資源は個人がそのネットワークのメンバーとの関係の歴史に基づいて利用可能になる可能性がある」と定義されている。研究では、伝統的に結束型と橋渡し型の区別がなされている。強い絆は個人が共通の背景や価値観を持つ中で築かれ、弱い絆は異なる社会集団間のつながりを持ち、情報やリソースを提供する役割を果たす。この二分法を批判したライアンは、社会的背景の違いを考慮に入れた視点を提唱し、垂直的および水平的社会資本という次元を追加した。前者は異なる社会的背景を持つ個人間のつながりに関連し、後者は類似した社会的背景を持つ個人間のつながりから生まれる。これを踏まえて、この研究では3つのリサーチクエスチョンに答える。
1.難民がホスト国で利用できる結束型および橋渡し型ソーシャル・キャピタルの種類は何か?
2.ソーシャル・キャピタルは難民の労働市場統合を支援できるか?もしそうなら、どのように?
3.異なるタイプのソーシャル・キャピタルを利用している難民には、どのような仕事があるのか?
 方法としては、質的アプローチを採用し、半構造化インタビューを実施した。また、複雑なデータを記述し分類するための方法であるグラウンテッド・セオリー(データから理論を構築するために開発された)を用いた。調査対象者は既にドイツで雇用を確保している36人のシリア難民である。
 結果として、まずはソーシャル・キャピタルを分類すると次のようになる。①水平的な結束型ソーシャル・キャピタル(家族、同じ国籍または民族的背景を持つ友人など)②垂直的な結束型ソーシャル・キャピタル(共通の宗教、国籍、民族的背景に基づく組織や機関など)③水平的な橋渡し型ソーシャル・キャピタル(異なる国籍や民族的背景を持つ友人など)④垂直的な橋渡し型ソーシャル・キャピタル(ソーシャルワーカー、ボランティア、同僚や上司など)これらの全てが難民を支援することができる。
 発見したことを3つ挙げると、1つ目は、ソーシャル・キャピタルを分類したこと。2つ目は難民が労働市場統合プロセスの異なる段階でどのように自らのソーシャル・キャピタルを利用しているかについての理解を深めた。3つ目は異なる種類のソーシャル・キャピタルが異なる雇用レベルに関連していることを示したことだ。具体的には、橋渡し型ソーシャル・キャピタルは適切な職を見つけるための貴重な資源である一方で、結束型のソーシャル・キャピタルは主に低技能の仕事へのアクセスを提供し、結果として過少雇用につながることがあると示した。

まとめ
適職を見つけるためにソーシャル・キャピタルがどのように活用されうるかということをイメージできた。私はこれまで地域全体のつながりについて調べていたが、個人のつながりについても効果があることが理解できたため、ソーシャル・キャピタルについて文献や本を読むときは意識しようと思った。


10/17

Alexander Newman, Ingrid Nielsen, Russell Smyth , and Giles Hirst
Mediating Role of Psychological Capital in the Relationship between Social Support and Wellbeing of Refugees
“International Migration “Vol.56, Issue2, 2018, 1-20

選択理由
社会的なサポートと難民のウェルビーイングに関する内容だったため。今回は雇用がメインの内容だった。

内容
まとめ:仕事と非仕事の領域からの社会的支援と、難民従業員のウェルビーイングとの関係を検討しており、これらに対する心理的資本の媒介的な影響を調べている。オーストラリアに住む難民従業員190人のデータから、組織的なサポートと家族のサポートは難民従業員のウェルビーイングと正の関連がある一方で上司のサポートとの関連は重要ではないことがわかった。またPsyCapは組織のサポートと幸福との関係を完全に媒介するが、家族のサポートと幸福との関係は部分的にしか媒介しないことがわかった。つまり、組織、家族からのサポートが、PsyCapへの影響を通じて幸福を強化する働きをしている。

導入:難民の統合を成功させるための中心的な要因の1つは満足感とやりがいのある仕事の発見(e.g. Colic-Peisker, 2005; Colic-Peisker and Tilbury, 2007; Fozdar, 2009; Willott and Stevenson, 2013)。OECD(2016)も、まず難民が信頼できる安定した雇用を見つけるのを支援することが必要だとしており、さらに有給の雇用に就いたら社会的及び職場的な支援を提供することも必要だとしている。また、ソーシャル・サポートは難民の人々とより広範な移民の間で心理的なウェルビーイングを構築し、促進することがわかっている解決策の1つだとされている(Colic-Peisker, 2009; Fozdar and Torezani, 2008; Young, 2001)。ここでは、ホブフォールの資源保全(COR)理論を利用して、難民の従業員の組織的支援、監督者支援、家族支援に対する認識が、より高いレベルの心理的資本を育成することにより、彼らの心理的健康に影響を与えるかどうかを調べる。

先行研究:強力なソーシャル・サポート・ネットワークは自発的な移民の心理的健康に直接関連しており、差別の認識による悪影響を緩和することが明らかになった(Jasinskaja-Lahti et al. (2006))。

本論:社会的支援の3つの異なるソースを難民従業員の心理的幸福に関連付けるCOR理論に基づいて仮説を立て、これらの関係において心理的資本(PsyCap)が果たす仲介的役割を検討(COR理論の中心=人々は自分のリソースを増やすように動機づけられている)。ホブフォール→社会的支援などの文脈的資源(個人の外部に位置し、個人が活動する社会的文脈に見出すことができる)と、心理的資源(個人に内在し、自己効力感、楽観主義、希望、回復力などの人格特性や発達状態を含む)に分けた。本研究はソーシャル・サポートを文脈的資源として、PsyCapを心理的資源として扱う。
 仮説1:Perceived Organizational Support(POS)は、難民従業員の心理的健康と正の関連がある
←組織的サポート(=個人が自分の目標を達成するために引き出すことができる文脈上のリソース)の認識=雇用する組織が従業員の健康をどの程度気にかけ、彼らの貢献を評価しているかに関する従業員の信念
 仮説2:Perceived Supervisor Support(PSS)は、難民従業員の心理的健康と正の関連がある
←上司のサポート=上司が自分の健康を気にかけ、組織への貢献をどの程度評価しているかに関する従業員の信念
 仮説3:Pseceived Family Support(PFS)は、難民従業員の心理的健康と正の関連がある
←家族支援=物質的な支援(家事の責任を増やす)と社会情緒的支援(アドバイス、励まし、共感など)の両方を提供することを通じて、家族が労働者への参加をどの程度サポートするかに関する従業員の信念

 組織や上司、家族からの支援という形で文脈上の資源を利用することで、難民従業員のPsyCap(PsyCap=個人の心理的発達のポジティブな状態を指し、希望、レジリエンス、楽観主義、自己効力感という4つの重要な次元からなる高次の構成要素)が強化され、心理的ウェルビーイングが高まると主張する。ホブフォールは、CORの枠組みの中で、これらの次元を、個人が個人的な目標を達成するために活用できる個人的な心理的資源として特徴づけている。
 仮説4: 心理的資本は、POS と心理的幸福の関係を仲介する。
 仮説5: 心理的資本は、PSS と心理的幸福の関係を仲介する。
 仮説6: 心理的資本は、PFS と心理的幸福の関係を仲介する。

結果の中で上司からのサポートが大きな影響を与えなかったことは、難民のほとんどが半熟練のブルーカラー職についており、上司はライン管理の役割を中心に担うからかもしれない。

メモ:「心理的資本」とは、将来に希望を持ち、自ら目標を設定して物事に挑戦し、自律的に前に進んでいくことができる心の状態のこと

10/10②

森恭子「難民及び難民申請者と地域福祉-最近の事例からの検討-」『生活科学研究』第35巻、151-161頁、文教大学、2013年

選択理由
キーワードにソーシャルキャピタルが挙げられていたため。研究実践フォーラムでソーシャルキャピタルに関連したことを取り上げたので、地域での現状についてその観点からも知りたいと考えた。

内容
日本では、インドシナ難民のように在留資格が決定した人でも日本語が十分に話せず職場から排除され、日本人の友人もおらず孤立してしまうことが多い。特に難民申請者は認定審査の間不安定な在留資格のまま、外務省の恩恵的かつ限定的な保護費の支給を提供されるのみで多くが社会福祉制度や社会サービスから排除されている。

 まず、難民はコミュニティの観点から2つのグループに分けられる。1つ目は同国・同族出身者でまとまって集住しエスニック・コミュニティを形成しているグループ、2つ目はエスニック・コミュニティを持たない孤立したグループである。前者への支援として、このコミュニティの中で相互扶助によるインフォーマルなソーシャル・サポートを利用できる(ソーシャル・サポート=一般的に「手段的サポート(instrumental)」(経済的支援や物品の供与、有益な情報の提供など)や「情緒的サポート(affective)」(本人の自尊心や情緒に働きかけることなど)としての機能をもち(菱沼 2008)、同じ言語、文化的背景をもつ難民/申請者にとっては、不十分な公的サービスを補完するものにもなる)。このようなコミュニティは就労や住居の確保でも助け合えることが多い。また後者に対する支援として、NPO法人難民支援協会のクライエントは、エスニック・コミュニティのない難民を支援する場合が多く、グループワーク(感情の共有の場)を実施しオープントークやアクティビティを定期的に行っている。
 次に地域や日本人との関係について、社会的なサービスの利用や自治体職員の印象は概ね良好だが、警察や役所が難民について無知で自らが難民について説明しなければならないこともあったという。
 続いてソーシャル・インテグレーションとソーシャル・キャピタルについて、歴史的に多くの難民を受け入れてきた欧米では、難民とソーシャル・インテグレーションに関連した研究及び実践が盛んで、中でも社会的つながりを焦点とするソーシャル・キャピタルが近年注目されている。日本でも研究、政策レベルで注目されているが、ソーシャル・キャピタルと移民・難民のインテグレーションに関する研究は少ない。
最後に筆者は、難民や申請者は地域社会の主流の支援体制からは見過ごされる傾向にあるとし、「中間的就労」の要素も含むボランティア活動が橋渡しになるのではないかと述べている。これにより社会的孤立を予防し、自尊感情の回復が期待でき、日本人と接触することで日本語の学習や日本文化、習慣、地域社会を知る機会の提供ができるとしている。

まとめ
気になったことは警察や役所で自ら難民の説明をしなければならなかったという話だ。少し前のものなので今は改善されているかもしれないが、学校で習うわけでもニュースで頻繁に取り上げられるわけでもないので周知することにまだ課題があるかもしれないと感じた。
次は欧米の難民とソーシャル・キャピタルの特に実際に地域に入った論文を探して読みたい。また日本で難民にかかわらず関係が強いと言われる地域の難民への対応について調べたい。

10/10①

柄谷利恵子「『難民』保護への挑戦:第三国定住受入れを英国の事例から問う」『続・戦争と統治のあいだ』関西大学法学研究所、2022、285-309頁

選択理由
日本よりも移民などの受入れ経験が豊富であるイギリスでは難民保護がどのように行われているか知るため。

内容
2021年入国管理計画によれば、グローバル・ブリテンが目指す庇護制度は次の通り。「入国管理制度の基本理念は公正である。人道主義に基づく庇護制度は入国管理制度の一部。英国が提供できる庇護には限界があり、制度の維持には公正さが不可欠。現行の庇護制度の下では第三国定住受入れのような『確立された正規のルート』を通じた入国者だけでなく、密航業者を通じた
『非正規のルート』
で入国した後に庇護を申請する者がいる。後者は密航業者に支払う金銭を有する者。庇護は必要な人に提供されるべきである。金銭の有無によって制度の参入が決まるのは不公正。今後は非正規のルートで入国した者の庇護申請を思いとどまらせると同時にそのような入国方法を提供する者に対する罰則を強化する。」
1990年代後半以降、UNHCRも第三国定住の重要性を訴えているが、現実の受入れ人数は期待通りにはなっていない。
この論文ではこのような第三国定住が英国の庇護制度においてどのような役割を果たしているか、またなぜ再評価されるのか検討している。

まず英国の現在の庇護制度について、2021年3月からは既存のプログラムを統合し、新たに「英国・第三国定住プログラム」が始動している。一方、非正規のルートで入国し庇護申請をする者や、入国して一定期間が経過した後で庇護申請をする者に対しては、申請が認められたとしても限定的な権利しか付与されない。これに対して、入国方法や庇護申請までの時間に基づく難民の選別についてUNHCRは難民条約違反だと指摘。英国赤十字社も庇護の付与は「直面する危機」に基づくべきであり「入国方法」に基づくべきではないと述べている。
また、個別庇護申請数のほうが第三国定住受け入れ数に比べて圧倒的に多いのに制度改革の動きがないことについて、個別庇護申請という時間も費用もかかる方法ではなく、受け入れる難民の数や要件について政府の管理が及ぶ第三国定住プログラムが優遇されているという指摘がある。加えて、本当に保護を必要とする脆弱な人ではなく、受け入れ国の望む「難民」のみを優先的に受け入れる手段になりかねない。結果として第三国定住受入れプログラムは、実施にたずさわる組織の腐敗や汚職の原因に繋がる恐れがある。


次に「管理された移動」について、第三国定住プログラムに参加する国家は「管理されたヒトの移動の論理」に基づいて行動していると説明される。それぞれのプログラムは前もって対象となる「難民」の属性および要件を指定している。その中に入国後の「適応能力」を基準に含めている国も多い。
+受入れ審査は国際機関もしくは受け入れ国の担当者が現地に赴き実施。そのため実施国は自国国内に庇護申請手続き中の申請者を抱えずにすむ。

本来国際的パートナーシップ活動に基づく「難民」の第三国定住受入れと各国が独自に運用する入国管理制度は依拠する理念や目的が異なるはずだが両者はこれまでになく接近している。
→・第三国定住受入れの再評価の目的は「公平な負担と責任の分担」を促進するため
→・各国が自国の利益の最大化を第一に目指し「難民」の中で選別した者をうけいれるような「一国合理性」に基づく制度設計および運用を阻止する必要がある

まとめ
難民の受入れと入国管理の接近については難しい課題だと思った。日本でも「管理」の側面が強いと言われている。簡単に難民かそうでないか判断できないために窓口を分けるのも難しいと考えられる。また、イギリスでは今年不法移民をルワンダに強制移送する法案が可決された。強制になると移動の自由を奪うことになるが、一国が受け入れられる人数に限りがあることも理解できる。受け入れた難民が自立して生活できる仕組みや政策を実現させなければ受入れの負担が増えていくばかりだと感じた。


10/03


大澤優真「地方自治体による外国人保護―通知に基づく保護の限界―」『社会政策』第12巻第1号、99-110頁

選択理由


内容
2014年に行われた裁判で、最高裁が「外国人は生活保護法の対象外である」と判断を下したことにより外国人に対する保護は違法であるという言説が広がっていることを誤解だとしている。判決では厚生省から出された1954年通知に基づく保護については判断されなかった。1950年の生活保護法に関して、1954年に通知が出され、生活保護法に基づく外国人保護は「法律上の権利として保障したものではなく、単に一方的な行政措置によって行っているものである」と規定され、法的権利として認められなかった。現在は外国人を取り巻く状況が変化し、国ではなく地方自治体の裁量によってその運用が左右されるようになった。また、地方分権化によって自治体が外国人保護を行う法的根拠が不明確化している。そこで本論文では自治体が外国人保護を行う法的根拠が不明確化し、国から自治体の裁量の問題へと変化した背景を明らかにする。また、近年問題視されている排外主義運動が自治体に対して自治体が外国人保護を行う法的根拠や正当性を問う住民監査請求や裁判を起こしていることについて、自治体が示す外国人保護を行う法的根拠や正当性を明らかにしている。さらに、1954年通知に基づく保護は限界を迎えており、外国人保護を法制化する必要があることを指摘する。
地方自治法の改正により、以下のような変化が起こった。
旧地方自治法下:外国人保護に関する事務は機関委任事務とみなされ、国が通知や指示を出している以上自治体はその通知や指示に従い外国人保護を行う必要があり、法的拘束力を有していた。
新地方自治法下:1954年通知は技術的助言(特定の事務について、国が自治体にこうした方がいいというアドバイスをするもの。法的拘束力や規範性を持たない。)とみなされ、自治体はそれに法律上従う必要はない状況が生じ、自治体が外国人保護を行う法的根拠が不明確化した。=自治体はその裁量次第で外国人保護を行うか否か判断することが法的には可能となり、住む場所次第で外国人の生活と生命が守られない状況が生じている。
筆者は、神奈川県、大阪市、浜松市、流山市の住民監査請求、また神奈川県、浜松市の住民訴訟を分析し、自治体が外国人保護を行う法的根拠や正当性を明らかにしている。
結果わかったこととして、主に3点挙げる。1点目は排外主義運動に対する地方自治体の姿勢である。自治体は憲法や生活保護法に外国人保護を禁止する規定がなく生活保護法に基づく保護とは別に外国人に対して必要な保護を行うことは憲法あるいは生活保護法上禁止されていないと主張している。2点目は地方自治体の裁量と法制化の必要性である。自治体が外国人保護を行う法的根拠はあくまでも「寄附または補助」である(地方自治法232条の2:普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては寄附又は補助をすることができる)。つまり、法的根拠は示したが、そこに権利性は見いだせず、自治体の裁量次第で外国人保護を行うか否か判断できる状況にある。そのため外国人保護に消極的な自治体が現れ、行わなくなる可能性も否定できない。3点目は国の視点から見た法制化の必要性である。自治体が「寄附又は補助」として行っていることに対して、国が費用負担を行う根拠は不透明であり、国はその根拠を示す必要がある。また、難民条約や国際人権規約の観点からも法制化が求められる。難民条約第23条で「約国は,合法的にその領域内に滞在する難民に対し,公的扶助及び公的援助に関し,自国民に与える待遇と同一の待遇を与える」と規定している。
まとめとして、法制化する場合、保護対象者をどの範囲とするのかという問題が残されており、また外国人保護の正当性についても検討する必要があるとしている。

まとめ、感想
自治体の裁量で左右されると外国人住民が一部の自治体に集中してしまうという問題にもつながるとあった。法制化に当たっては保護対象者の範囲を検討する必要があるとあったが、次に上げる予定の論文でもイギリスにおける「真の難民」を区別した政策に対してUNHCRが難民条約に違反していると主張していた。保護の他にも雇用に向けた支援などが充実していれば区別しても対応できるのではないかと感じた。


9/26

李度潤 瀬田史彦「『多文化共生』を重視した地域づくりという観点からの自治体外国人住民政策に関する研究―欧州評議会『インターカルチャー政策』を基礎として―」『都市計画論文集』公益社団法人日本都市計画学会、49巻3号、2014

選択理由
地方自治体は移民政策としてどのようなことを行っているか知り、逆に不足していることの概要を知るため。

内容
日本の地方自治体は、将来外国人住民とどのように地域社会を作っていくかという視点からアンケート調査をした論文。
目的は、定住段階に移りつつある外国人住民に対して地域社会としてどう対応すべきかという視点から、地方自治体レベルの外国人住民を対象とした政策について、そのあり方を検討することである。また、対象は、統合政策(入管政策とは違い、地域社会において生活者として生きる外国人住民に対応するための政策、多文化共生政策とも言われる)に関する地方自治体の政策である。
分析の枠組みとして、欧州評議会におけるインターカルチャー政策を挙げている。これは移民政策について同化主義政策か多文化主義政策かという議論を超えて移民の社会統合を目標として実現を図ろうとする流れで始まった。またダイナミズム、イノベーション、創造性及び成長の源泉となり、グローバルな社会・経済的課題に前向きに対応できるものであるとしている。EUは米国などのような伝統的移民国ではなく、戦後ポスト植民地と経済成長の時代以来移民の受け入れに対する姿勢を徐々に変化させながら移民政策を実施してきた点で日本の経験を先取りしている側面があると、北脇(2009)は述べている。
調査の方法は、2010年の国勢調査で外国人住民人口率1%以上の基礎自治体の外国人住民担当部局を対象として、外国人受け入れ政策の実施状況について郵送でアンケートをとるという形式である。調査内容は「法律・政治的領域」、「社会・経済的領域」、「文化・宗教的領域」、「空間・居住領域」に分けられる。
結果として、まずは27.4%が外国人住民に関する計画等を策定しているか策定中であった。次に法律・政治的領域については、外国人専門の相談窓口を設置しているのは35.2%と多かったが、直接行政に声を届けられる住民投票権を認めているのは1.7%だった。相談窓口では行政に反映させる仕組みが確立されていないということができる。次に社会・経済的領域については、母子手帳やHP、災害情報などを翻訳して提供している自治体は多かったものの、ハローワークなどと連携した情報提供や雇用機会の創出はいずれも15%を下回っていた。次に文化・宗教的領域について、約半数が日本人住民との交流イベントの開催を行っていた一方で、エスニック団体の把握が進んでいないという課題が明らかになった。最後に空間・居住地域について、公営住宅では日本人と大差ない状態だが、民間住宅ではまだ差別が見られる。
まとめとして、外国人住民を社会システムへ統合するというこれまでの路線を継続しつつ、外国人住民の文化やアイデンティティを尊重し、コミュニティ形成の支援等を通じて、地域社会への参加を促進するなどのパラダイムシフトが求められているのではないか、としている。

まとめ、感想
筆者が良い面として挙げていた、策定した計画の中に外国人住民を「パートナー」と捉えている自治体が多いことや、基本的な情報提供などは、確かに必要なことではあるが前者については本当にそれが暮らしやすさにつながっているかは疑問が残ると感じた。また、相談窓口があるだけでは行政に意見を反映させられないと述べていたことには賛成で、個人として投票権がなかったとしても団体として意見を述べられる場が必要だと考えたことに加えて、移民が多い外国では投票権がどうなっていて、元々の住民はそれについてどう考えているのか知りたいと感じた。


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