英雄は、ひとりぼっちじゃない。 We're not the lonely hero(in)es. ファンタシースターオンライン

ファンタシースターオンライン(DC 2000/12/21) セガ

ビデオゲームの多くは、既存のゲームにルーツがある。
もともと「ゲーム」と呼ばれているスポーツや囲碁将棋麻雀等のビデオゲームは言うまでもないし、
初期のビデオゲーム「PONG」はテニスや卓球、ガンシューティングゲームは射的で、「テトリス」の原点は木製のパズルだったという。

RPGのルーツは、テーブルトーク形式としばしば呼ばれるロールプレイングゲーム(以下、TRPG)だった。参加者どうしが一同に会し、会話しながら行うゲームである。
TRPGでは多くの場合、プレイヤーどうしは対等であり、しばしば「冒険者」と呼ばれた。

それをコンピュータゲーム化しようという試みがコンピュータRPG(以下、CRPG)の始まりだった。
なかなか数人が集まって長時間遊ぶのは難しい。そこで、コンピュータに進行役であるゲームマスターや他のプレイヤーの役をやってもらおうというのだ。その発想は、人間の代わりに相手をしてくれる将棋や囲碁のゲームと違いはない。

ところがCRPGは「ドラゴンクエスト」を機に日本で独自の進化を遂げた。
あらかじめ決められたストーリーを味わうメディアに近くなっていったのである。
そのストーリーの多くは「世界を救う」というものだ。プレイヤーはひとりであるのだから、世界でただひとりの特別な存在にすることは容易だ。救世主ほど特別な存在はいない。
CRPGでは多くの場合、プレイヤーが動かすメインキャラクターは、「勇者」と呼ばれた。そこには世界を救う英雄という意味が込められている。


「ファンタシースターオンライン」(PSO)は、パソコン以外で初の本格的なネットワークRPGである。
一緒に冒険をする仲間はすべて人間が操作しており、文字で会話をしながら冒険を行うことができる。
ネットワークというインフラを得ることによって、CRPGはRPG本来のかたちであるTRPGに近いものに戻ったのだ。

PSOのパッケージにあるキャッチコピーは

英雄は、ひとりじゃない。
You're not the only hero.

である。
つまり、これまでのゲームでは、人間が操作するのは主人公である勇者ひとりだけだったので、英雄は自分だけだった。だがこのゲームでは人間が操作する主人公は無数に存在する。だから英雄はひとりではなくなったのだ。
これは家庭用初の本格的なネットワークRPGであることを声高に宣言している。

TRPGは対面して行うため、プレイヤーどうしはほとんどの場合顔見知りである。ところがPSOのようなオンラインRPGの場合、ほとんどの場合は初対面であり、相手の素顔はわからない。
それにもかかわらず、PSOの熟練プレイヤーは、初心者を助けているのだ。体力の回復や蘇生をしてやるのはもちろん、アイテムやお金を分け与えたり、アドバイスしたり、レベルアップの手助けをしたりする。
初心者はどうやってその親切に応えればいいのかというと、答えは簡単だ。PSOの台詞の定型文の中には「ありがとう」というワードがあらかじめ登録されている。これを使うだけで良い。

「ありがとう>みんな」
これほどの名台詞が、ほかにあっただろうか。
人から人への感謝の言葉。それは人から人への善意があるゲームだからこそ存在できるのだ。
相手が人間だからこそ、よりいっそう親切がしたくなる。
相手が人間だからこそ、相手の親切に対して感謝の念が浮かび、それは感謝の言葉となる。
善意の行動と感謝の言葉。
そのコミュニケーションの形こそ、PSOがはじめて家庭用RPGの世界に現出させたものであり、それこそPSOの偉大さである。
そうした善意で育てられたプレイヤーたちは、成長し初心者を助ける。
誰かにもらった善意を、別の誰かに返す。この好循環がPSOの世界を包んでいる。

ネットワークの世界には、温かい仲間たちが待っている。
他人に感謝された者は、誰もが英雄と呼ばれる資格がある。
そしてもはや英雄は、孤独ではない。

(2001/3/31 綾茂勝太郎)

ちなみに、「救世主」のほかに特別な存在である「神」になれるゲームはシミュレーションゲームになった。

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