扉を開け。道を拓け。 ゼルダの伝説シリーズ

この文章は、ネタバレをしないように書かれています。未プレイの方も安心してお読みください)

扉を開け。道を拓け。ゼルダの伝説シリーズ(FC,SFC,GB,N64,GC,GBA 1986~) 任天堂

史上もっとも多くのゲームに登場したアイテムとは何か、ご存じだろうか。

体力回復のための薬草やポーション?
敵を攻撃するための剣や銃?
それとも身を守るための鎧だろうか。


『ゼルダの伝説』シリーズには、バリエーションに富んだ数多くのアイテムが登場する。

ブーメラン、バクダン、弓・矢、はしご、いかだ、フックショット、グローブ、時のオカリナ、グローブ、ハンマー、ヘビィブーツ……。数え切れないぐらいたくさん出てきた。
これらのアイテムを集めていくのも、『ゼルダ』の楽しみのひとつだ。
ついに宝箱を見つけ、わくわくしながらそれを開ける。あのおなじみの音楽とともに、ついにそのアイテムが手に入ったときのうれしさは格別だ。

それはもちろん『ゼルダ』で大切な瞬間に違いないのだが、
地味だが必要不可欠なアイテムのことを忘れていないだろうか。


それは「カギ」のことだ。
ダンジョン内の「錠」(LOCK)がかかった扉を開けるための「鍵」(KEY)である。

『ゼルダの伝説』シリーズのダンジョンは、部屋がいくつもあり、それらは扉で繋がっている。扉は最初から通行可能なものもあるが、多くは「錠」がかかっている。
いうまでもないが、そこを通行可能にするアイテムが、カギだ。
先に進むためには、カギを探さなければならない。
「お金がなければ矢は使えない」のは一作目だけだったが、その後の『ゼルダ』でもカギがなければ扉は開かないのだ。


カギそれ単独では、ダンジョンをすべて踏破することもできないし、ボスを倒すこともできない。
だが、ダンジョンを進むためのアイテムを取ることができる場所へ行ったり、ボスを倒すための特殊なアイテムを取ることができる場所に行くために、カギは必要不可欠なのだ。

つまり、カギとは「それがなくては行けない場所に行くためのアイテム」である、と定義できる。


しかし、「それがなくては行けない場所に行くためのアイテム」とは、カギだけなのだろうか。

『ゼルダ』をやりなれている方ならご存じだろう。
『ゼルダ』には「今はまだ行けない場所」が数多くあることを。そして、アイテムを集めていくうちに、それがどんどん「行ける場所」に変わっていくということを。

足場のないところを越えるためのフックショット。離れた場所にあるスイッチを押して道を拓くためのブーメラン。
壁に穴を開けるためのバクダン。行く手を塞ぐ岩をどけるためのグローブ……。

これらは、やはり「それがなくては行けない場所に行くためのアイテム」だ。
すべて道を拓くためのアイテム、「次の部屋」に行くためのアイテムなのだ。

つまり、これらのアイテムの本質は、カギと同じなのである。

だから、ここではこれらのアイテムのことをまとめて「鍵」と表現しよう。

カギという「鍵」で、扉という「錠」を開け、いかだを取る。
いかだという「鍵」で、湖という「錠」を開け(渡り)、はしごを取る。
はしごという「鍵」で、水路という「錠」を開け(渡り)、笛を取る。
笛という「鍵」で、ボスキャラのデグドガという「錠」を開け(倒し)、トライフォースのかけらを取る。
8枚のトライフォースのかけらという「鍵」で、ガノンという「錠」を開け(呼び出し)、
銀の矢という「鍵」で、ガノンという「錠」を開け(とどめを刺し)、ゼルダ姫を得てゲームをクリアする。
ゼルダ姫という最後のアイテムを得るために、「鍵」を取り「錠」を開け「鍵」を取る……、というプロセスを幾度も幾度も繰り返す。
つまり、『ゼルダ』というゲームは、無数の「錠」と「鍵」で構成されたゲームにほかならない。


しかし、この話は『ゼルダ』だけにあてはまるものではない。
程度の違いはあれ、多くのゲームはこの図式で解釈できるのだ。
『ゼルダ』のアイテムは、上に挙げた主に移動系アイテム(持っていると行動範囲が広がる)の他、
体力回復アイテムや、武器、防具のような戦闘系アイテム(持っていると戦闘が有利になる)もある。
「敵」という存在自体がある種の障害、つまり「錠」なわけだから、戦闘系アイテムも、極言すればやはり「鍵」だということができるのだ。
(実際、特定の武器でないと倒せない敵が必須アイテムを取るためのカギを持っている場合、その敵は「錠」であり、その武器は「鍵」といえる)

すなわち、ゲームに登場するさまざまなアイテムのうち、そのほとんどは、見た目と名前こそ違えど、実質的には「鍵」なのだ。

「鍵」は、具体的なアイテムではなく、「解法」という形をとることもある。
そして我々プレイヤーがゲームプレイ中に取り組んでいる課題、すなわち「ゲーム」を構成している要素のほとんどは、「錠」だともいえよう。

結局のところ、「鍵」を探し「錠」を開ける、というその不断の繰り返しこそ、多くのゲームで我々が行っていることの正体なのだ。
『ゼルダの伝説』は、たまたまそれがもっとも目に見えやすい形で表現されているゲームだったにすぎない。
つまり、史上もっとも多くのゲームに登場したアイテムというのは、「鍵」なのだ。

我々は、いつも「扉」と「鍵」を探している。


(2003/6/23 綾茂勝太郎)

最後に乱暴に普遍化しすぎたかもしれない。
この話は、一般にフラグと呼ばれているビデオゲームに普遍的に見られる要素(『RPGツクール』シリーズではスイッチと称される)をアイテムで表現している場合の話、ともいえる。

「鍵」を集めて扉を開くダンジョンゲームとしては、たとえば『バイオハザード』は『ゼルダ』とまったく同じゲームデザインを行っているといえる。

アイテムを取るためにアイテムを取る、というのは、アイテムの無限交換ともいえる。これは(消費こそしないが)『わらしべ長者』の話によく似ている。『ゼルダ』でも、人と物々交換を繰り返すイベントは「わらしべイベント」と呼ばれている。

要するに『ゼルダ』タイプのゲームのデザインは次のようになっている。
1.「鍵」を手に入れよ
2.「鍵」を使う場所(「錠」)を見つけ、「鍵」を使い(「錠」を開け)、扉をくぐれ

ちなみに、鍵を集めて錠を開けるタイプの他に、最初から鍵をたくさん持っていて、その鍵をすべて使用することがクリアとなるゲームもある(たとえば「3つの爆薬をそれぞれ指定の場所に仕掛けろ」とか)。その場合の「鍵」は、純粋に達成すべき課題がいくつ残っているかという指標となる。
2作目の『リンクの冒険』はそうなっていた。ダンジョンの奥にあるトライフォースのかけらを集める1作目『ゼルダの伝説』に対し、『リンクの冒険』では最初から持っているクリスタルを1つずつダンジョンの奥にある石像に埋め込んでいく。

また、「鍵」が特に設定されていない場合もある(単なる迷路ゲームとか)。これらはこの1.の要素が省略されているともいえるだろう。

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