リアルということ エースコンバット


エースコンバット(PS 1995年6月30日)ナムコ、エースコンバット2(PS 1997年5月30日)ナムコ


ゲームを評価するときによく使われることばとして、「リアリティがある(ない)」という表現がある。

realityということばを英語の辞書でひくと、「現実(のもの)」とある。
では、「リアリティのあるゲーム」というのは、現実の忠実な再現をしているゲームなのだろうか。それは違う。
辞書をよく見ると、「(描写の)迫真性」という訳も載っている。一般に、リアリティのあるゲームというのは、「迫真性のあるゲーム」ということになる。くだけたことばで言えば、「本物っぽい」ということだ。

では、プレイヤーは「本物っぽさ」をどのようにして感じるか。
たまに誤解している人がいるが、それが実在するものであるか、架空の(つまり本物がもともとない)ものであるかは、実は関係がない。
「本物っぽく」感じるかどうかは、頭の中に貯えられた「そのもの」のイメージと合致するかどうかという点にある。
架空のものでも、既知のものであり、イメージが固定されているものであれば問題はない。架空のものでも、十分「リアリティがある」かどうか、人間は判断できるのだ。

できうるかぎり現実に近づけた模擬操縦装置をシミュレータという。これは主に軍用に研究されてきた。
戦闘機のパイロットは、実際に敵の砲火にさらされながら訓練する必要はない。シミュレータという装置が、実際に戦闘をしているという状況を映像その他で表現し、パイロットはそこで戦闘を疑似体験できる。
一見、パイロットはゲームセンターでよく目にするゲームをプレイしているように見える。しかし、それはゲームではない。

シミュレータとゲームの違いはどこにあるか。
表現される映像に、ほとんど差はない。

シミュレータは、できるかぎり現実に近づけようとする。
ゲームは、できるかぎり遊んで楽しいものに近づけようとする。

開発コストや技術レベルを別にすれば、差があるのはこの点だけであるといえる。


ポリゴンで描画されるゲームは、その距離や大きさを現実のものと同じにすることはたやすい。
時速200kmで走る車を再現しようと思った場合、実際に時速200kmで走らせることができる。

しかし、そうしたゲームをプレイした者は思うかもしれない。
「スピードが遅い。メーターは時速200kmとなっているが、実際に200km出すともっと景色は速く動くはずだ」
これは、すでに体験したことがあるか、あるいはたとえば「時速100kmの2倍の速度」というイメージから類推された「時速200kmの速度」という固定化されたイメージと、ゲームの表現が食い違うとプレイヤーが感じたために出てくる感想である。
つまり、現実を再現したとしても、「体感速度」が不足しているのだ。「本物っぽくない」のである。

そこでゲームの製作者は意図的に嘘を入れる。
メーターでは時速200kmになっているのに、実際には時速300kmで走らせてしまう──そんなふうに。

人間が自然だと実感できるように嘘を入れる手法は、はるか昔から行なわれてきた。
古代ギリシアの神殿や法隆寺などの柱にはエンタシスと呼ばれるふくらみを見ることができるというが、
これも見る者(鑑賞する者)に対して、視覚的に心地よくするための意図的な嘘である。
現代のビデオゲームにおいては、視覚、聴覚、そして設定や操作感にいたるまで、
プレイヤー(鑑賞する者)に対して、心地よく感じさせるための嘘が混入されているわけだ。


「エースコンバット」「エースコンバット2」は、その意図的な嘘を見事に取り入れた名作である。

たった1機で敵の部隊を全滅させてしまうという自機、数十発搭載でき、地上物にも空中物にも当たるミサイル、1000mまで近づかないとロックオンできない敵機、最新のジェット戦闘機でも失速する高高度、強力な対空砲火を持つ潜水艦……
嘘の要素を挙げれば枚挙に暇がない。
ゲームの詳細を説明しただけでは、おそらく飛行機マニアは「それは、リアリティのないゲームだ」と回答するだろう。

では、このゲームには「リアリティがない」のだろうか。それは違う。
そのマニアに一度プレイしてもらうとよい。きっと、彼の回答はまったく別なものとなるはずだ。

これらのリアリティのない設定は、そのほとんどすべてが気持ちよくゲームをプレイするために意図的に入れた嘘なのだ。
このゲームは、本当に空中で戦闘機を乗り回して戦っているかのような気分が味わえる。すなわち十二分に「リアリティがある」のである。

このゲームは、航空自衛隊が密かに開発したパイロット養成ソフトではない。

本物とは違う。だから面白い。

要は、「実際に飛行機を操縦しているような気になれる」とか、「空中で高速度でドッグファイトをしているような気になれる」とか、「オレってカッコいい」と思えるかどうかなのだ。


(同じく戦闘機で戦う3Dシューティングでも、自機は連射しながら直進し、前方から絶え間なく現れる敵機をひたすら撃墜するという2Dシューティングの方法論そのままに3Dシューティング化したのがセガの「アフターバーナー」「アフターバーナーII」である。これはリアリティというよりは爽快感を追求して作られた名作である。これに関しては機会があれば述べたい)

(1999/5/23 綾茂勝太郎)

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