バケツの水のたどり着く先には
小学生の図画工作の時間が大嫌いだった。
やれ、お友達の顔を描きましょうだの、心に留まった風景を描きましょうだの。
写真で十分じゃんと、齢10歳にしてだいぶひんまがった性格をしていたと思う。
それでも学校のイベントとなると、義務教育を受けさせてもらっている身としては、甘んじてそのカリキュラムを受けなければならない。
写生遠足という名のそれは、全校生徒で小学校から30分ほどの公園まで歩いてやってきて、その中の好きな場所で好きな絵を描く、というもの。
なるべく他の人のいない殺風景な場所を僕は選び、与えられた白い画用紙に適当に、緑と茶色で木を描き、青と白で空と雲を描き、それっぽい何かをさっさと仕上げる。
ゴロンと横になって見上げた、初夏の空。
青い空、白い雲。
でもなんで、空は青いんだろう。
誰が青い空なんて言い出したんだろう。
空がピンクだと、誰か困るんだろうか。
5秒ほど目を瞑ったのち、おもむろにパレットに赤と白い絵の具を捻り出し、ぐちゃぐちゃっと混ぜ合わせる。
そして完成したはずの画用紙を取り上げると、持ってきていた筆全部でそれを塗りつけた。
赤がつよいところ、白がつよいところ、何となく混じってピンクになったところ。
『印象に残った風景を描きましょう』
バケツに突っ込まれた筆を引っこ抜き、誰もいない白いタイル地の広場に、僕はそれをぶちまけた。
赤がつよいところ、白がつよいところ、何となく混じってピンクになったところ。
小さな画用紙を飛び出した、空と僕のピンク。
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