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来客
夜勤明け。
お昼を遠に過ぎたつい少し前の出来事。
疲れ果て重い脚をひきずりようやく家に辿り着くと、
尻尾が痛々しくちぎれ、
頭にたんぽぽの綿毛を逆さに乗せた来客が。
危機に瀕して自分で切った直後なのか。
切り口は生々しいほどにまだ鮮やかである。
私の親指くらいの太さのかなり立派なトカゲ。
壮絶な逃走劇だったのだろうか。
剥がれた鱗にその人生(トカゲ生)を感じずにはいられない。
束の間の日向ぼっこに目をとろんとさせている。
可愛すぎる。
でもここはマンションの5階、コンクリートジャングル。
眺めのいい上階の角はイソヒヨドリがよくとまって囀るポイントでもある。
いつまた鳥たちに狙われるやもしれぬ危険な場所だ。
もしかして来客は鳥が落として運良く助かり上からやってきたのか。
はたまたこの5階まではるばる下から登ってきたというのか。
あるいは迷い込んでしまったのか。
どちらにせよそこは私の家のドアの前。
突然やって来た来客に尊喜し、話しかける。
一体これからどうしたら。
貴方はなにを望むでしょう。
日向ぼっこをしばらくじっと見守っていると、
私の気配にようやく気づいて驚き慌てふためく来客。
心にも身体にも負荷の無いよう素早く優しくそっと捕獲。
“来客を捕獲”だなんて失礼極まりない言い回しなのだが。
そうだ先日も職場で、
手のひらサイズの大きな真っ黒い蜘蛛を手で捕獲して放したばかり。
キャーキャー逃げ惑う人の中、生き物好きだといつだってそういう役回りになる。
食べる物も隠れる場所もたくさんある緑の深い場所まで送り届けることにした。
いざ放すと、少し進んで振り返ったまま動かなくなるトカゲ。
好きに行っていいんだよ。
頭にはまだたんぽぽの綿毛をくっつけたまま。
たとえ緑がどんなに深く、日向ぼっこができる場所であったとしても。
そこは常に弱肉強食の生きるか死ぬかの厳しい世界。
逞しく生き抜いていってねと、
祈り送り出すことしか出来なかった。
いまにも落ちかけるほどに限界だった私の瞼も、
今やすっかりぱっちりしている。
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