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たわいもないの大切さ〜“気づきに気づくデザイン”

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第10回
20 Sep.2021
【 登壇者 : 大阪芸術大学/三木 健さん 】

第10回目の講義は、日本の先端で活動されているグラフィックデザイナーの三木健さんにデザインの発想法とこれからの企業のブランディングデザインのあり方についてお話しいただきました。

三木さんは、三木健デザイン事務所代表を務める傍ら、現在、大阪芸術大学デザイン学科の教授、大阪美術専門学校の校長を兼任しています。その活動と実績は、ニューヨークADC、日本タイポグラフィ年鑑ベストワーク賞を始め、数多くの賞を受賞しています。


寄り道をすること…セレンディピティとの出会い

三木健デザイン事務所では、いくつかルールがあります。
その一つに「本棚の本を整理してはならない」というルールがあります。

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決まったところに情報を見つけにいくのではなく、思いもよらないところからの情報が発想に結びつくのだと三木さんは考えます。それを、偶然の幸運(セレンディピティ)と呼びます。本を分野や内容ごとに整理してしまうと、ほしいと思っている情報だけを求めて動いてしまいます。そうではなくて、偶然隣り合った本からヒントを得たり、たまたま手に取った本から、新しい気づきを得ることができるのだと言います。だから本棚の本を整理してはならないそう。
データ分析や市場調査など、そうした答えがありそうなことろから探すのではなく、日常の些細な風景、本や映画、人との会話から気づく「気づき」こそが人の感情を動かすことができるデザインになるのです。

講義の中で、三木さんはデザインをする上で「情緒的価値」と「機能的価値」のバランスが大事であるとおっしゃいました。モノに溢れた豊かな社会を生きる我々にとって、心に満足度を与えるデザインであるためには、そうした偶然の幸運(セレンディピティ)から得た「気づき」から情緒的価値の形成をすることが大事であるのだと学びました。

会話の中から考えるデザイン発想法

前項でも述べたように、三木さんは偶然の幸運(セレンディピティ)を非常に大事にされています。
それは、人との会話の中にも存在し、そこを起点とするデザインの手法を三木さんはそれを「話す」デザイン、「聞く」デザインと表現しています。

「話す」デザイン
三木さんは、人と会話の会話の中で発せられる言葉や話の断片を、「点」であると表現していました。そして、その点は線で繋ぎ合わさり形を築きます。
特に余談や世間話といった会話の中から得られたヒントから、自分で仮説をたて、いろいろな断片から物事を見て発想を広げていくそうです。

「聞く」デザイン
会話の中には話者の価値観や感覚が潜んできます。自分からは生まれてこない、相手の言葉からそれを読み取り、新しい価値観を見つけます。
三木さんは、これを人の脳を借りる、「借能(しゃくのう)」と呼んでいます。


私も、学部時代に制作で行き詰まったとき(周りが森で囲まれた名古屋郊外にある芸大でプロダクトデザインを専攻していました)、友達と良く校内の芝生に寝そべって会話をしたり、散歩をしながら制作課題の話をしました。そうすると、なぜか自分の思考が整理されて、制作のアイデアが出てきたのを覚えています。友達との会話や自然の匂い・風・景色、体を動かすことから、新しい気づきが生まれていました。

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事務所でもおしゃべりが大好きだという三木さん。
彼が生み出すエモーショナルな表現は、そうしたモノ・コトの根源を見抜き、「気付き」から物語のあるデザインをしているからなのだと改めて感じました。


所感

昨今、コロナの影響で、会議やイベントはほとんどがオンライン上で行われるようになりました。
声が音声として機械化されてしまっていることや、発言者への焦点があたりすぎることが、無駄な言葉を遮断し、‘‘たわいもない”会話が減ってしまったように感じます。もちろん、クリック一つで参加できるし、現場への移動も準備もしなくて良くなり、メリットも大きいです。しかし、人々が対面で触れ合ったときに生まれる小さな言語・仕草、環境のノイズ、匂い、光…削がれてしまったものの中に創造するためのヒントがあったと思います。

もう少し、この生活は長引きそうですが、少し意識して「たわいもない会話」「たわいもない日常」を見つめ直してみようと思います。

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