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人は、誰でも作曲できる。 - 作曲家・すぎやまこういちさんの単行本『やさしい作曲入門』を読んで。

ドラゴンクエストシリーズの作曲家としても知られる「すぎやまこういち」さんの単行本『やさしい作曲入門』を読みました。この本は、1980年に日本文芸社から出版された書籍を底本に、2010年に復刊ドットコムという会社から復刊されたものです。なかなか書店やAmazonでは手に入りにくいのですが、三鷹市立図書館の本館にあったので借りてきました。

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冒頭の文章は、こんな感じで始まっています。

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皆さんたちが、まず作曲を試みる前に、絵を描く、文章を書く、俳句を作る、といったことを頭に浮かべてみてください。これらのことは、実際にはそんなに簡単なことではないのですが、日本語の読み書きができればだれにでも、すぐにできそうな気がします。

ところが、作曲ということになると、一般の人々の多くは、特別な音楽教育、音楽的才能が必要なのではないか、楽譜の読み書きができなくてはいけないのではないか、音楽理論に通じていなくてはいけないのではないか、(中略)自分には無理なのでは、などとつい難しく考え過ぎて、尻込みをしてしまうようですが、決してそんなことはありません。

作曲家になろうと思えば、今からでも、だれにでも可能性はあるのですから、皆さんも自信をもってこの本を読んでいただきたいと思います。

作曲というものの本質は、五線紙に音符を書くことではなく、字の通り、あくまでも「曲を作る」ということなのです。オタマジャクシを書き並べるというのは、メロディーを記録するための手段にすぎません。何はともあれ、鼻歌のひとつも歌えれば、皆さんにも作曲はできるはずです。

(すぎやまこういち『やさしい作曲入門』P.1、P.6より)

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僕も、作曲という行為は、絵を描くのと同じぐらい簡単な行為であり、選ばれた人だけが持つ特異な才能でもなんでもなくて、誰にでもできるというふうに考えております。すぎやまこういちさんも同じ考えを持っていることが分かって、とても嬉しかったです。

『やさしい作曲入門』を読めば、おそらく誰でも、ちょっとの努力をすれば作曲できるようになることと思います。

全編を通じてとても面白い内容なのですが、特に第3章の「音階の種類と実例」が面白かったです。ペンタ・スケール、ブルース音階、沖縄音階、ドリアン音階などを紹介していまして、日本で江戸時代に生まれた「今様音階」にも触れられています。今様音階は、江戸時代にはとても新しいものとされていたそうで、レミファソラシドというふうに「レ」からはじまる、非常に日本的な味の出る音階とのことです。典型的な例が『君が代』で、レから始まりレで終わります。『君が代』のメロディーを日本的だと感じる理由はそういうことだったんですね。

あと、作曲にまつわる基本的な知識が学べたり、実際のヒット曲の分析などもとてもためになりますが、それよりもなによりも、第6章「まとめ」に書いてある、次の文章が非常に心にささりました。

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作曲を志す人のなかで、何か自分という人間の中からどうしてもいいたいこと、書きたいことがあその人の心の中にあって、それが歌を作るというかたちで出てきた人は本物だと思って間違いないでしょう。

中にはその逆で、作曲家という職業にあこがれて、「レコードを出したい」、「作曲家といわれたい」、「流行作家になってみたい」というカタチが目標として先にあって、そのために何かするという人がいますが、そういう人はニセモノだと見ていいでしょう。そういう人には、人々の心に残るよい曲は書けません。

たまたま作った曲がレコード化されたり、ヒット曲になったりするのは結果であると見なければいけません。自分の感情を音楽を通じて人々の前に発表してみたいという心がなければ、作曲しないほうがいいでしょう。

歌手の場合にも同じことがいえます。歌うことが好きで好きでたまらない。だからどうしても歌いたい。歌っているうちに自然に歌もうまくなり、歌手になったというのは本物だということができます。

そうではなくて、何がなんでも歌手になりたいということや、有名スターになるための目標が先にあったとしたら、それはまったく本末転倒であって、よい歌手になることはできません。

音楽にはからずその人の人間性がなんらかのかたちでにじみでるものです。先に述べたように、「自分はこれが美しい音楽だと思う」というやむにやまれぬ気持ちで作ったものではなく、ひたすら「レコードを出したい」とか「人に受けたい」「採用されたい」といった実利的な功名心で作曲した場合は物欲しそうな曲になるといっていいでしょう。

作曲家志望で、レコードを出すことばかりを目標にして曲を作っている人おを私は現に知っています。しかし如何にも今ふうのヒット曲的メロディー・パターンはしているのですが、そこにはなんら本質的美しさがなくて、物欲しそうな姿がメロディーに出ているために未だに成功しておりません。そして、レコードを出すことのみあこがれて曲を書いているために、結果的にはいつまでたってもレコードを出してもらえないという皮肉な結果になっています。

ですから、曲を作る場合は、結果を目標にしてはいけません。あくまでもいい音楽、いい歌を作りたいという「衝動」が出発点だということを忘れないでもらいたいものです。

(すぎやまこういち『やさしい作曲入門』P.130、P.132より)

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この文章を読んで、気持ちの部分、心構えの部分って、音楽の知識よりももっと重要なんだなあということが改めてわかりました。逆にいうと、いい音楽、いい歌を作りたいという「衝動」がありさえすれば、誰にでも作曲はできるということです。

音楽の知識がない人でも、読んでみれば作曲ができるようになるであろうこの本、なかなか手に入れにくいとは思いますが、お近くの図書館などにありましたら、ぜひ読んでみてください。

下記の「カーリル」という検索サイトで、お近くの図書館にこの本があるかどうか探すことができますのでどうぞ。

▼すぎやまこういち『やさしい作曲入門』
http://calil.jp/book/4835444167

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