見出し画像

よしこのはなし。

よしこはとても気が強い女である。とある医者家系の長女として生まれた。物心がつく頃には何やら普通の子らと違うと過保護に育てられた。特にお婆ちゃんは小さなよしこを見送る時も心配であった。窓から身を乗り出しよしこのかけゆく後ろ姿に「気をつけて行ってらっしゃいよー」と必ず声をめいっぱいかけた。

もう一方のよしこも気が強い女である。生まれはとてつもなく辺鄙な海の近い田舎であった。次女として生まれ物心がつく頃には小さな船に乗せられていた。漁師の父がよしこの小さな手に食べることの出来ない魚を乗せる。特に父はよしこを大変可愛がった。天気の良い日は積極的によしこを連れて沖に出ていた。

よしこを知ったきっかけは37歳の時にハロワで見つけた介護のスクールでのことだった。隣に座っていた。自己紹介では発達障害であることをカミングアウトをしていた。よしこはすぐに私に打ち解けてにこやかな所作と発達障害で言う多動特有のテキパキした動きや物事の飽き易さを屈託なく正直に話す。

もう一方のよしこを知ったきっかけは37歳の介護のスクールの最終日に面接を受けに行った時のことだった。貰った名刺にはよしこと同じ漢字が書いてあった。記入用紙に名前やらなんやらを書いてとよしこはお茶を出してくれた。狭い部屋であったので見られながら字を書くのは緊張していたところ、「ゆっくりで良いですよ」と何度も話しかけてきた。とても落ち着きがあり何か艶かしい雰囲気を醸し出していた。

よしこは元アルコール中毒で入院経験がある。腎臓はボロボロになっているので、ヨーグルトとボイルした野菜や脂身がないものを食べていた。よくお腹を壊しトイレに駆け込んでいた。二人息子を産んで育てていたが育児放棄をせざる得ない状況だった為、離婚をしたら親権を奪われて面会もできずにいる。今では成人した息子だ。

一方のよしこは誰にも頼ることの出来ないタイミングで小さな息子を1人産み、運悪くインフルエンザにかかり孤独を味わうことになる。やがて離婚し親権はよしこが取った。なりふり構わず無我夢中で施設の事務の仕事を任せてもらえるようになって7年経つ。今は息子は小学生で不登校になってよしこの心配は増えるばかりだ。

よしこはスクールに通っている時に再婚した旦那と別れたいと言って卒業と共に離婚していた。もともとW不倫をしていたので堂々と恋人となれると安堵していた。よしこの恋人は奥様と別れることはなかった。時間が別れを後押しした。よしこは新たな知らない人と自堕落して家に男を置いた。やはり追い出したくなり知らない男からストーカーされたと警察通いを始めた。全てラインで逐一多動ぽく連投で連絡して来た。やがて私は意を決してブロックする。

一方のよしこはワクチンに対しての情熱がインフルエンザのトラウマから普通ではなかった。新人は珍しいワクチン打たない派だったのでよしこは1時間以上かけて説得した。やがて施設長とグルになり真ん中に私を座らせ挟んだ状態で会話に入れてあげずにワクチン打たない人の給料を下げるかなどと笑っていた。やがて辞表を出した。

おわり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?