【きっかけ】


 京都のビジネスと商業の中心、四条烏丸。そこから一本南の筋、綾小路通を烏丸通から西に5~60m程入った場所に“BROGLD(ブログルド)”というタコ料理専門店があります。それが私の店。主に山口県周防瀬戸産の生タコを仕入れ、その素材の旨味を活かすことをテーマにしています。20席に満たない個人経営の小さな店です。お世辞にも流行っているとは言えませんが、心強い常連の皆様に助けられてなんとか続けております。店頭には恥ずかしげも無く『タコ料理専門店』・『日本と地中海のタコ料理』などと看板を上げておりますが、実は元々 “縁蛸(えんたこ)” という名のタコヤキ屋さんです。脱サラ、修行は一切無し、料理学校も経験無し、完全無欠のド素人からスタートして今にいたります。また『地中海』なんて書いていますが地中海の国々に旅行すら行ったこともありません。なのでお客様から、

  「どこかの国で勉強されたのですか?」

なんて聞かれるたびにちょっと恥ずかしい思いをしています...。

 さて前置きが長くなりましたが、タコ好きの日本でもかなり珍しい『タコ料理専門店』。そんな店なのでお客様からちょくちょく質問されることがあります。

 「タコが好きなんですか?」

 「どうして山口県のタコなんですか?」

って、多くはこんな感じです。ですが中には、

 「オスとメスはどっちが美味しいんですか?」

 「足(腕)の先って毒があるんですか?」

 「タコのスミって食べられるんですか?」

と、ちょっと具体的な質問をされる場合があります。そうなればお客様のご要望に応えるのもプロとして必要なサービス。料理店だから料理さえ出せばいいというものではありません(なのかな?)。もちろん店を始めるときに最低限の勉強はしていたつもりですが、プロを自称するならば常に『より上』のステージに立たなくてはなりません。どんな質問でも即答できるようにと思い、タコに関する色々なことを仕入れ先担当者の方に教えてもらったり、本やネットで調べたりしました。

 その結果、お客様とのコミュニケーションが増えただけではなく、専門店としての評価を引き上げることにもなったのです。新しく得た知識の中には単に好奇心を満たすだけではなく新しい創作料理の素になったり、料理の質を向上させたりとタコという食材の未知だった側面を見せてくれるものがありました。

 『知っているようで知らなかった。しかもそれが身近なものだった。その上、食べていたものだった。』

聞いているうちに驚きと笑顔の表情を見せるお客様たち。それに触発されてもっと深くタコのことを調べるうちに、それらを『書き物』として表現したくなりました。


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