〖余談〗の時間 その壱


(真面目な話⦅そうなのかな?⦆ばかりだと何ですので、ちょっと店であったエピソードなんぞを...)


 脱サラ独立をして数か月、たこ焼き屋さんの頃のこと、イギリスの車『ジャガー』が店の前に停まりました。中からはスキンヘッド、薄茶色のサングラス、モスグリーンのダブルのスーツ、蛇柄の皮靴という完璧にイカツイ姿の50代くらいの男性が降りてきました。ちょっと一般社会人っぽくない? というか完全に『や』の本業に見える人でした。その男性が開口一番、

 男「兄ちゃん!!!! たこ焼くれるか!!? 」

 私「ああ、はい。わかりました。」(やっぱり『や』だろうな...)

 男「今なんぼある?」(『何人前できているか?』ということです)

 私「すいません。注文いただいてから焼いて、出来立てを渡す店なんです。」

ちょっと怖かったけどそう答えました。多分それで帰るだろうなと思っていたら... 

 男「そうかそれは旨そうやな、ほんなら一ぺんに何人前できるんや?」

 私「はい。8人前です。12、3分くらいかかります。」

 男「おう。そしたらそうしてくれ。」

 私「はい。わかりました。ありがとうございます。」(えっ!!びっくり。)

 男「おう!! 待ってるわ。」

やがて調理を終え、車に持っていき会計を済ませました。男性は受け取るとき、

 男「旨かったらまた来るわ。」

と言い残し帰っていきました。


 その数日後のことです。黒い大きなゴールデンレトリバーを連れた野球帽にジャージ姿の男性が来店されました。

 男「兄ちゃん!! 美味かったわ!! 今日はここで食べていくから焼いてくれ。」

一瞬戸惑いましたが、直ぐに理解しました。あの『や』と思われる男性でした。その後、その男性は週に2回以上くらい来店してくれました。話を聞くと大阪育ちらしく、京都のたこ焼に不満があったそうです。もちろん頻繁にご来店いただくくらいですから、

 男「日本で一番美味い!!」

と大絶賛してくださりました。ただ、いろいろ話していると、どうも職業は『や』の関係ではないようです。本人曰く、

 男「よう間違われる。」

っと言っていましたが(それはそうですよ)、結局は何の仕事かはわかりませんでした。でも内縁の20くらい年下の奥さんがいて、その奥さんは祇園のクラブを経営している『チーママ』でした。何だかんだ言って、もう何もかも『や』みたいですよ。ほんとに。

 その後2度の移転をした私の店。男性は自宅から離れたそれらの店にもちょくちょくおいで下さいました。ハートは優しい男気のある人でした。残念ながらもう現世からはサヨナラしてしまわれましたが...。ありがとうございました。感謝しています。

 でっ!! ある日ひょんなことからその男性の素性がわかりました。少し予想はしていたのですが、それはそれは京都でも屈指の名刹。京都東山にある大名刹の『かなり上の立場のお坊さん』でした。

 皆さん。京都で貫禄あるヤクザっぽい人がいても『必ずしもソレ』ではないことをお伝えしておきます。


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