色あせない思い出

 懐メロといえば、古い世代が懐かしんで聴く流行歌の代名詞だが、いつの間にか私も「古い世代」になっていることに気づいた。「歌は世につれ、世は歌につれ」とはよく言ったもので、懐メロを今聴くと「こんな歌がはやっていたのだな」と隔世の感がある。
 昭和の演歌は、捨てられた女の恨み節、もしくは「捨てないで」とすがる女の未練にあふれている。当時の若い女性アイドルの歌でも「一番大切なものをあげる」や「もうすぐ食べごろよ」だったりと、若い娘に歌わせるには意味深でみだら。良くも悪くも昭和という時代のにおいを感じさせる。
 「ダイヤル回して手を止める」という表現は、わたしの世代ならば「電話をかけようとしてためらった」と分かるが、今の若い人なら「金庫破りの歌」と誤解するかもしれない。いや、金庫だって今やダイヤル式ばかりではない。
 「セピア色の思い出」という表現もよく使われる。セピアとはイカ墨を表す単語で、起源はローマ帝国時代にさかのぼるそうだ。イカ墨は当時、インクとして重宝され、紫外線により劣化するのが玉にきずということで、技術の進化と共についえたらしいが、ノスタルジーを感じさせる色味として現代も生き残っている。
 デジタル化で色あせることがなくなった写真を、最新技術でセピア色に「劣化」させることができる今。かつてのローマ帝国の賢人とまみえることができたとしたら「進化とは何なのか」と禅問答になりそうだ。


北海道新聞 朝の食卓 2021年1月19日掲載



アヤコフスキー@札幌。ディレクター・デザイナー。Salon de Ayakovskyやってます。クロエとモワレの下僕。なるようになる。リトルプレス「北海道と京都とその界隈」で連載中 http://switch-off-on.co.jp