報徳精神

 世界中が止まってしまった。かのウイルスを制圧するためには人の動きを止めねばならず、世界中が不況にあえいでいる。
 家電メーカーが製造ラインをマスク用に切り替えたり、香水を作っていたハイブランドが消毒液の製造に乗り出すなど、まるで民需品生産から軍需品生産に替わる「民軍転換」の様相だ。国家間ではなくウイルスと戦う「世界大戦」のような現状を思えば、あながち間違った表現ではないのかもしれない。
 身近な所では、コンサートや芝居を開催できない人たちや客足が遠のいた店主たちからの生活を危ぶむ声と、ウイルス感染を恐れる声がぶつかりあっているが、経済と命は直結している。この叫びにそれぞれ応える政治のハンドリングに期待したいところだが、世界的にもまだ終息は見えず、目に見えない敵との戦いは長丁場になりそうだ。
 今後、私たちは経済のあり方を考え直す大きな分岐点に立たされる事になるだろうが、この状況をただの「災厄」と考えるだけでなく、本当の意味での「人にも地球にもやさしい」世の中を再構築するチャンスにも思える。
 皮肉なことに人の動きが止まったことで大気汚染が解消され、オゾン層も回復、驚くべき速度で地球環境が改善されていると聞く。道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言であるという二宮尊徳の言葉をいまこそ見つめ直したい。損得より尊徳だ。


北海道新聞 朝の食卓 2020年4月11日掲載

アヤコフスキー@札幌。ディレクター・デザイナー。Salon de Ayakovskyやってます。クロエとモワレの下僕。なるようになる。リトルプレス「北海道と京都とその界隈」で連載中 http://switch-off-on.co.jp