サブスクリプション

かつて映画を見る手段が映画館とテレビしかなかった頃、テレビで映画を見る 前には「映画評論家」による前説があるのが定石だった。特筆すべきは「日曜洋 画劇場」の淀川長治さんの名調子で、私が好きな彼の言葉の一つに「映画とは、 国と国の垣根をなくすこと」というのがある。映画を通じてさまざまな感情や文 化の違いに触れ、理解を深めてゆくことにこそ映画の意義があるということなの だろう。
 いまやインターネットの普及で「サブスクリプション」と言われる「定額制で 見放題」の配信サービスが主流になりつつあり、24時間365日、自分の都合 に合わせていつでも映画を楽しめる時代となった。便利にも思えるが、そのあり 様は「飲み放題」の1杯の酒のようになし崩し的に消費され、対象物への愛着が 不足しているようにも感じられる。
 淀川さんが生前のインタビューで「人間は表向きばかり進歩して礼儀やいたわ り、人情がなくなるのが怖い。僕の21世紀への一番の望みは、友情そして愛情 をぐっとつかんで離さない世界になってほしいということね」との言葉を残して いる。明日はクリスマス・イブ、今年も残すところあとわずか。映画にも酒にも 愛着を持ちながら無事にこの1年を過ごせたことを家族や友人に感謝し、穏やか に来年を迎えたい。
 2022年があなたにとっても素晴らしい年になりますように。さよなら、さ よなら、さよなら。


北海道新聞 朝の食卓 2021年12月23日掲載

アヤコフスキー@札幌。ディレクター・デザイナー。Salon de Ayakovskyやってます。クロエとモワレの下僕。なるようになる。リトルプレス「北海道と京都とその界隈」で連載中 http://switch-off-on.co.jp