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満月の渋谷

娘が産まれてから、
夜出歩くことなんて全く無くなった。

保育園に迎えに行って、
ぐずる娘をなだめながら帰宅、
抱っこしながら何とか食事を用意し夕食、すぐにお風呂、すぐ寝かしつけ。

そんな生活ももうすぐ2年になるのだが、

先日、
仕事の用事で、
娘を迎えに行った後渋谷に行かねばならなくなった。

帰宅後すぐに、
お茶とおにぎりを持って、
娘を抱っこし、タクシーに乗り込んだ。

すると罪悪感が心にちらついてくる。

こんな時間に、
仕事のためとは言え、
100%ぐずるってわかっているのに無理矢理連れてきて…

娘ごめん…。

娘は、

ブーブー、いっぱい!

と、行きは
すれ違う車に夢中。
おにぎりも食べて、機嫌良くいてくれた。


渋谷で用事を済ませたあたりで、

だんだん眠くなってきた娘はいよいよぐずり始め…

何とかあやしながら
帰りのタクシーを捕まえた。

ごめんねー、
疲れたねー、
はやく帰ろうねー。

スクランブル交差点を不思議な気持ちで眺めた。


街中の人々が、
自分とは全く違う生き物であると感じた。

私とこの人たちとは違う。

違う次元に生きているような感覚だった。

私って誰なんだろう?


娘が産まれる前、

私はよく渋谷から三茶方面へ、
歩いて帰った。

宮益坂をひらひら降りたあと、
駅前の人混みを擦り抜け、
道玄坂で、人をぐんぐん追い越して246へ出る。

とても身軽だった。

いつでも、どこへでも飛んでいけるような、

軽くてヒラヒラした生き物だった。

足の裏で、ぐいぐい地面を蹴って、
小雨くらいなら傘もささずに軽快に歩いていた。


スクランブル交差点で、

当時の私と、今の私がすれ違ったような気がした。


私たちは道が分かれてしまったね。


当時の私は、
寂しそうな私なんか取り合わずに
ぐんぐん進んで行く。


あなたがそれを好きで選んだんでしょ。

勝手にしなよ。

私には関係ない。

私は自由なの。

どうぞご勝手に。お幸せに。



私たちはもう2度と、交わることはないのだろうか?

2人は別れなければいけないのだろうか?



答えの無い話。

それは満月が見ていた夜でした。




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