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#7 一番最初に雨が落ちる場所

【#7 一番最初に雨が落ちる場所】

私が小学生の頃。

『あ、雨だ』

これは、私の口癖のようなものでした。

辺りがまだ濡れていないのに
雨の降り始めを私は認識していました。

顔や腕に
一粒だけ雨が落ちてくるのです。

そして
私が『雨だ』といった数分後
必ず沢山の雨粒が落ちてきました。

『本当に雨が降ってきた。あやかの言う通りだね。‥すごいね』

いつもお母さんはそう言ってくれました。

そう言ってもらえる事が誇らしく
私は、雨を認識する度に報告していました。

ある日。
通っていたスイミングスクールで
同じクラスの友達に話しました。

『私ね、みんなより早く雨がわかるんだよ。だってね、いつも最初に雨が落ちてくるから!』

『へーそうなんだ。すごいね』
『雨で濡れちゃうの嫌じゃないの?』

『嫌じゃないよ!みんなに雨が降るってお知らせできるから!』

私の小さな自慢話は
みんなで盛り上るには絶好のネタでした。

そんな中
ある男の子が私に言いました。

『最初に雨に気がつくのは、馬鹿な奴だってじいちゃんが言ってた』

その言葉は
私の小さな心を砕くのには大きすぎる衝撃で

『‥私、馬鹿じゃないもん‥』

誇らしかった私の思いは
どんどん小さくなっていきました。

なぜそのように言われているのかを
大人になってから知りましたが

「常日頃から、怠ける口実を探しているから
1番最初に雨に気がつくんだ」

と言われているそうです。

その後私は「馬鹿」という言葉を何ども浴び
友達に自慢する事は無くなりました。


そして月日は流れ‥

夏休み。
スイミングスクールの川へ行く行事に
参加することになりました。

天気にも恵まれました。

ホテルに着くと
すぐに水着に着替え川へ行き
泳いだり、崖から飛び込んだり、魚の掴み取りをしたり‥
とにかく遊び放題でした。

次の日。
外でラジオ体操を行い、ホテルへ戻る途中

『あ、雨だ』

顔に一粒の雨が当たったと同時に
そう声に出していました。
その瞬間、口を手で押さえましたが

『雨?晴れてるけどな‥』

隣にいたコーチに聞かれてしまいました。

私は思わず「馬鹿」という言葉を思い出し
恥ずかしくなり

『なんでもないです!!』

そう言って
走って自分の部屋に戻りました。

すぐに朝食の時間になり
大広間へ向かいご飯を食べていると


急に大粒の雨が勢いよく降り出しました。

さっきまで晴れていた空が
嘘のように暗くなっています。

『今日も川で遊ぶ予定でしたが、雨なのでホテルの中のプールで遊びます』

コーチがそう言うと
落胆の声と歓喜の声が入り混じるような
不思議な歓声があがりました。

私は暫くの間
じっと外を眺めていました。
すると‥

『さっきは何で雨がわかったの?』

私に話しかけてきたのは
たまたま「雨だ」という言葉を聞かれた
あのコーチでした。

『‥。顔にね、雨が当たったの‥』

恐る恐る私がそう言葉にすると

『そっか。全然気がつかなかった。‥凄いね!』

と、笑顔で褒めてくれました。

『でも、みんなに内緒にしてね』
『ん?どうして?』
『雨に最初に気がつくのは、馬鹿の証拠だってお友達に言われたの』
『‥そっか‥。でも、コーチはそうは思わないよ』
『なんで?』
『だってあやかちゃんは馬鹿じゃないから』

馬鹿じゃない。
そう言われた事が嬉しくて
私の砕かれた心が戻っていきました。

そして‥

『あやかちゃんは、きっと雨の友達なんだよ。雨が降るよって1番最初に教えてくれてるのかもしれないよ?』

私は"雨の友達"である。
その言葉で私は自信を取り戻りました。

1番最初に雨が降る場所は、私。
だって私は、雨の友達だから。

私の小さな誇りは
コーチの言葉によって
大切に守られることになりました。

今はもう
1番最初の雨が私にはわかりません。
でも
きっとどこかに
私以外の雨の友達がいるだと
そう思っています。

そして余談になりますが‥
CCBという演劇ユニットで
私が主演を演じた舞台作品は

『雨に唄えば。
そこにはやがて雨は降らなくなるだろう。』という作品でした。

私はまだ
雨の友達でいられているのかもしれません。

そうだといいな。


次の話(#8 予言)は
私の幼なじみが突発的に口にした内容が
現実となった不思議な出来事です。

最後までお付き合い
ありがとうございました。

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