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#6 悲しい背中

【#6 悲しい背中】

私が大学生の頃。
突然、何もかもが嫌になってしまったことが
ありました。

毎日が辛くて
何をしていても何も感じられなくて
自然と涙がこぼれ落ちる
そんな無機質な自分を自覚すると
これがまた辛くて‥

そんな日々が繰り返し訪れ
その思いを顔に出さないよう日々過ごしていました。

今になって思い返すと
あの頃の私は、何かおかしかったです。
でもそれが何なのかわかりませんでした。

ある日。
大学へ向かうと、受けていた講義の
休講のお知らせが貼ってありました。

『休みか‥どうしよう‥』

突然目の前の予定が無くなると
どうしたらいいのか分からなくなりました。

何の当てもなく
大学内を歩いていました。
そして気がついたら
大学内にある心理カウンセリングを行う
研究棟の前にいました。

私は、臨床心理学部の学生だったので
この研究棟には何度か訪れていました。

ですがこの時は
何故か足が棟内部の方には向かず
ただただ棟の前で立ち尽くしていました。

不意に涙がこぼれました。

『私、何してるんだろ‥』





『‥大丈夫?』

突然、背後から声が聞こえました。
ハッとなり、振り向くと
優しい表情で私をみつめる女性がいました。


『あなた‥随分と悲しい背中をしているのね。』

その言葉を聞いた瞬間
私は何かの栓が外れたかのように
声上げて泣き始め
その場に崩れ落ちました。

突然目の前で泣き出した私を
女性は何も言わず
ただただ、 
私の背中を優しくさすってくれました。

その時間は
今までに感じた事のない程優しい時間で
面識の無い女性の不思議な言葉には
何故か安心感がありました。

『あなたの背中が余りにも悲しくて
私は声をかけずにいられなかったのよ。
‥沢山頑張ったのね‥』

何も話していないのに
全てを受け止めてくれたような言葉が
私の心に突き刺さり

何も感じなかった私の心は
あっという間に溶かされていきました。


私に声をかけてくれたのは
臨床心理学の教授を務め、うつ病にも詳しい
沼先生という方でした。

私は、先生の講義は受けておらず
ゼミの生徒ですらありませんでした。 

何の面識もない私に
先生は声をかけてくれました。

私は、何のお礼も言う事ができず
身体が少し楽になった後
その場を立ち去ってしまいました。

きちんとお礼を言うべきでしたが
自分が正常ではないという認識が
その場から逃げるように立ち去るという行為になってしまいました。


卒業して随分経ちますが
感謝の言葉を伝えることができず
今でも後悔しています。


臨床心理士とは"心の専門家"である。


講義内で習った当たり前の言葉を
身をもって感じました。

『あなた‥随分と悲しい背中をしているのね。』

そのたった一言で
私は救われる事ができました。

きっとご本人感謝を伝えても
私の事は覚えていないと思いますが

あなたの言葉で
私は救われました。

だから私も‥

いつか私の言葉で誰かを救えるような
そんな人間になりたいです。


最大の感謝と尊敬の気持ちを込めて‥

『先生、あの時は私の背中に声をかけてくださり、本当にありがとうございました。』




次の話(#7 一番最初に雨が落ちる場所)は
雨という天気に
好意をもつきっかけになったお話です。

最後までお付き合い
ありがとうございました。


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