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『BMSG FES 2022』を観て

――歴史の証人になった。

『BMSG FES 2022』を観た感想を一言で表すと、これが一番しっくりくる。『THE FIRST-FINAL-』も拝見したし、あの時も大変感動したものだが、「すごいものを目撃した」という点では『BMSG FES 2022』はズバ抜けていた。

個人的には、『SKY-HI LIVE TOUR JAPRISON』を目撃したときの感覚に近い。客演のSALUを「一緒に時代を作っていく仲間を紹介するぜ」と呼んでいたSKY-HI。あの言葉を聞いて、あのライブを観て「この人は時代を作っていくんだ」と本気で思った。

だから、BMSGを設立すると聞いたときも、オーデイション『THE FIRST』をやると聞いたときも、いよいよ時代が動いていく。そう思わずには、言われなかった。

事実、BE:FIRSTは社会現象を起こす人気となったし、先日発売された『BE:1』も2022年の重要作品と呼べる快作だ。素晴らしいクリエイティブにはしっかりと結果もついてくるようで、『BE:1』のアルバムは週の売り上げで世界1位を獲得。理解が追いつかないスピードで、彼らは名実ともに進化をしている。

9月17,18日で行われた『BMSG FES 2022』は、いうならば”エピソード0の完結編”だったのではないだろうか。BMSGというカルチャーを提示し、「こういう俺らがこれから世界を獲ります、OK?」と投げかけてくるようなステージ。
楽曲のセレクトや配列をもって個人の歴史を魅せるとともに、横の繋がりも丁寧に描いていく。曲や人をもって線を作り、ひいては立体にまでしてしまうような3時間半。すべてが美しかった。

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まず、各アーティストの出演順や楽曲の配置に物語がありすぎる。オープニングをBE:FIRSTの「Brave Generation」で堂々と飾り、BMSG Unitedへ繋ぐだけで「おお、始まった!」と物語の幕開けを感じさせるのに、このRemixでは登場しないTAIKIやRUI、RAN、REIKOといった面々もバースを蹴るのだ。しかも、このバースが本当に個性豊か。言葉の選び方もそうだが、メロディーラインの作り方もバラエティに富んでいて、BMSGにはいかにカラフルな才能が集まっているのかということを感じさせる。

全員登場のあとに、舞台を任せられるのがNovel Coreなのもムネアツでしかない。BMSGの第一弾アーティストである彼が、一番最初のソロステージ。これ以上の言葉はいらないだろう。楽曲も「PANIC」から「WAGAMAMA MONDAIJI」「独創ファンタジスタ」を経て、Aile The Shotaとの「HAPPY TEARS」へ。個人の物語を追っていくような構成になったいた。
印象的だったのは、Novel Coreソロタイムのラストソング「THANKS, ALL MY TEARS」で、RANが登場しなかったことだ。MVや『THE FIRST FINAL』のときのように、楽曲に合わせてRANが踊ることもできただろう。それを”あえてしない”という選択をしたことに大きな意味を感じざるをえない。

1月18日生まれ3人による「118」を経て、edhii boi、RUI、TAIKIの「Anytime, Anywhere」「Nightmare」。彼らのステージを見ていて思ったのは「めっちゃいいトラックもらってんじゃん~!」ということ。大きなステージと屋外の音響で聴いて、よりしみじみ感じた。
パフォーマンスにも、精一杯「盛り上げよう」という意思がにじみ出る。なかでも、edhii boiのファンサービスが本当に細やかで。自分が関わってるグッズを使ってる人を見つけると熱心に手を振り、口パクで声をかける。”こういうアーティストでありたい像”が明確にある人なんだろうと感じた。

ここで、Show Minor Savage(SOTA・MANATO・Aile The Shota)を出演させるのも本当に粋だ。しかも、既存曲の「No Cap Navy」だけでなく、新曲の「Thinng’bout you」まで披露する大盤振る舞い。繋ぎ方もダンスに合わせてステージから去ると見せかけて、実は新しい曲へ導くという小技まで仕込んでくる。
オーディション内で誕生したユニットが卒業式『THE FIRST FINAL』で活動を辞めるのではなく、次なる一手を打ってくるというのはこれからも続いていくという布石だと思っていいだろう。すでにグループとして活動しているメンバーが、それとは別に表現の場を持ち続けられるのは、とても素晴らしい。

続いて、ここからAile The Shotaのターン。「常懐」から「AURORA TOKIO」まで着席も挟みながらステージは展開されたわけだが、やはり彼は兎にも角にもメロディーラインが抜群にいい。柔らかく透き通った歌声も魅力であることは間違いないが、ここまでトップラインに個性を出せる人も珍しいのではないだろうか。3連符や休符、スラーやタイの交え方が本当に独特で。生歌で一気に通して聞くと、改めてその強みを実感した。

謎の寅年ユニット(SKY-HI・JUNON・LEO・Aile The Shota)は、ある意味では一番予想外だったかもしれない。たしかに2022年は寅年だし、ボスであるSKY-HIも寅年だが、こんな楽曲を仕込んでくるとは予想できないだろう。
ということは、来年の『BMSG FES』は兎年メンツでやるのか…? と思うところだが、このまま所属アーティストが増えないとRYOKIのソロになる。それはそれで見てみたい気もするが、今後の進展に期待したい。

そしていよいよ、BMSGの代表であるSKY-HIの登場だ。もうどうしようもないくらいにセットリストがエモかった。2013年8月にメジャーデビューを果たした彼にとって、2022年というのは活動10年目イヤーに当たる。SKY-HIという名義はメジャーデビュー前の18歳の頃から使っていることもあり、彼自身メジャーデビュー日にこだわらない性分であるが、”SKY-HI 10年計画”という意味では別物だろう。彼はメジャーデビュー時に10年間の見通しを立てて、自身で企画書を書いている。その目標を「達成しました」と語りかけてくるようなセットリストだった。

まず、幕開けを飾ったのがSKY-HI 初期の作品である「スマイルドロップ」と「愛ブルーム」。そこから自身の活動を総括するナンバーである「Sky’s The Limit」を投下し、楽曲を連ねていく。
しかも、バックバンドにはSUPER FLYERSが大集結し、SKY-HIダンサーのBFQまで勢揃い。コロナ禍前ぶりに記念すべきステージでメンバーが集ったこともエモすぎて言葉がでないのだが、個人的にはBFQがあの大きなステージに立っていることがエモすぎだった。なにせ、10年以上一緒にやっているメンバーである。オールスタンディング350名のライブハウスに出演していたときから、一緒にいた4人である。エモすぎだろ…。今や何倍かもわからない人の前でパフォーマンスをしているのだから…。

「Double Down」や「Seaside Bound」といったライブで盛りあがる楽曲もしっかりと入れこみ、SKY-HIのスタンスをキャッチーかつ力強い言葉で綴った「Fly Without Wings」を投下。『THE FIRST』の審査楽曲のイメージもある「Sexual Healing」を挟み、オーディションを通して出会った仲間たちを集結させるターンへと入っていく。
「Bare-Bare」でAile The Shota、「Tumbler」でRAN、「14th Syndrome」でRUI・TAIKI・edhii boi、「One More Day」でREIKO。BE:FIRSTを除く『THE FIRST』のメンツが揃ったところで、Novel Coreとの「SOBER ROCK」である。”BMSGの始まりは、SKY-HIとNovel Coreだった”という事実が、いかに揺るがないかということを証明してるに他ならないだろう。MVの撮影は富士急ハイランドで行われており、出会いを締めるナンバーとして「SOBER ROCK」が用いられたことは、すべての伏線を回収したようでよりエモーショナルだった。

「カミツレベルベット」でSKY-HIとしてのターンをまとめ、BE:FIRSTへ繋ぐ「To The First」を披露。自身のキャリアを物語的に魅せると共に、次なるステージへのパスもしっかりと渡していた。
ちなみに、この日は台風が直撃していたのだが、SKY-HIのステージが終わるまでは、ほとんどが小雨か曇り。なんなら演出で用いられた水噴射のほうが、よっぽど濡れたくらいだった。

バトンは、いよいよBE:FIRSTへ。プレデュー曲の「Shining One」でスタートを切り、オーディションの課題曲であった「Be Free」「Move On」と繋ぐ。この頭3曲だけで、BE:FIRSTという物語が「To The First」から始まったことを謳っていた。なお、この3曲をやっているときが、いちばん雨が強かった。びしょびしょになりながらも表情を崩さず、クオリティを保ったパフォーマンスを披露する7人。雨で足元が滑るだろうに、服が重くなっているだろうに…。そんなことを感じさせない姿は、まさしくプロであり、1年前まで素人だったことなど、微塵も感じさせなかった。

SKY-HIはボーイズグループを作るまえ、歌詞について「少なくともアイドルやアーティストを、架空の存在であるかのように扱うことはないと思います」と語っていたが、BE:FIRSTの楽曲を聴いているとまさしくそうなっていったように思う。とにかく、どの曲も言葉の強度が強いのだ。本気の想いが乗っているからこそ届くメッセージがあるのだと、ステージを見ていて改めて実感させられる。
とくに「Kick Start」「Grateful Pain」など彼ら自身で綴られたナンバーは、その筆頭といっていい。各パートには個々の物語が乗っているが背骨になる部分は共有されているため、切り離されることなくより強固なメッセージを生み出していく。だからこそ、素晴らしいトラックにもアーティスト自身が負けないし、よりクオリティの高いクリエイティブを生み出すことができるのだ。

BE:FIRSTの始まりであり、彼らを表す1曲ともいえる「Gifted.」で結び、ラストはBMSGアーティスト総出で「New Chapter」をステージング。各々のバースやリリックが魅力的なことはもちろん、SOTAのコレオグラフもキレキレだ。「BMSGここにあり」と歴史に刻む夜を堂々と作り上げたのである。

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『BMSG FES 2022』は、BMSGがカルチャーを作りあがていることをまざまざと見せつけたイベントだった。
まず、ひとりひとりがしっかりとアーティシズムをもった個だと証明されていた。各々の楽曲にそれぞれのカラーが出ていることはもちろん、しっかりとアイデンティティが乗っている。本人と乖離していないクリエイティブは、その人がなんたるかを十分に表明していた。

次に、その個がしっかりとストーリーをもっていた。なんとなく楽曲を散布するのではなく、意図をもって配置することにより、しっかりと意味を持たせ文脈を見せている。これにより、ひとりひとりが持つ歴史を鮮やかに描きだした。

そして、その歴史がBMSG内でしっかりと結びついていた。Show Minor Savageや寅年ユニットのようなグループの垣根を超えた活動と共に、コラボレーション曲も積極的にパフォーマンス。事務所内で個々が孤立して音楽と向かいあっているのではなく、影響しあいながら一緒に高見を目指していることを描いてみせた。

圧倒的なアイデンティティを持った個が点として存在し、その点は楽曲を用いて歴史を描き線となる。その線は、他者との関わりにより面になり、ひいては立体になっていく。それぞれが共鳴しあい、お互いの輪郭を映し出すことが、結果として”BMSGとはなんたるか”を証明する。それがBMSGというカルチャーを作ることなのだと、3時間半を超えるステージは提示しているようだった。

しかしまだ、BMSGの物語は序章に過ぎない。新章へ突入した彼らが、どんな活躍をしてくれるのか楽しみだ。

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