旅の記憶 キューバ

菜奈はヒネテーロの誘いを快諾した。タクシーを拾い要塞跡地のバーへと繰り出し、酒を飲みサルサのリズムに酔い、勢い男の家についていくと言い出した。

いつの間にか私の傍らにもバスケットボール選手を名乗る男が恋人然と寄り添っていた。家の扉が開いて上半身裸の老人が私たちを出迎える。「パスタをゆでるわ」と台所に入ったとたん、シンクから立ちあがる悪臭に反吐が出そうになって涙がでた。

リビングに戻るとすでに菜奈は男と隣の部屋に消えていて、私と部屋に消えたがっているバスケットボール男が待っていた。私は送ってと懇願し宿へと戻った。手を引かれながら暗い暗い道を歩く。

途中、男は泥のように甘いカフェを買い、怖がらないでと微笑んだ。

私は男友達に会うためにここへ来たのだ。彼は「ひと夜の恋人になりたい」と手をあげる男たちとは違う。違うけれど、手をつないで町を歩くほどにはロマンティコで、正真正銘のクバーノであるのに変わりはない。

※2013年に受講したSWICH編集部主催の「クリエイティブ・ライティング講座」で書いた課題テキスト。テーマは「記憶に残る旅」。忘備録。

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