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虎の群れ

わたしのまなざしに虎の群れが宿る。
あなたが愛でる剣のような。
わたしたちはあなたの愛の巣が
荒廃した星になるのを見る。
あなたは屈辱的な状況にあっても
純粋さ、素朴さ、寛大な精神を
失わない海の娘だ。

そしてこれはまるで獣たちの
燃えさかる宴のようだ。
とても親密になり
そして決して殺さない。

虎の群れがわたしのまなざしに
宿りますように。
あなたが愛でる剣のような。
火星では戦争、闘争に
従事している愛の兵士。
あなたは勝つ方法を知らない、ああ。

そしてこれはまるで獣たちの
燃えさかる宴のようだ。
とても親密になり
そして決して殺さない。

Tigres

虎は繁殖期以外群れをなさない。
虎は勇敢さの象徴だ。

海の娘の名前はエスペランサ。

希望という名の幼い少女は難破船から救出された孤児であり、テレサという女性に引き取られ育った。

テレサは若くして結婚したが夫は逃げ、息子も生まれたものの不慮の事故で亡くしてしまう。その悲しみを、エスペランサを育てることで癒していった。

ところがエスペランサを迎えてから11年後、突然、彼女の夫が戻ってきた。

少女であるエスペランサに魅力された男は、女性ふたりと暮らすためにテレサの夫としての立場を取り戻し、経済的な保護と引き換えに彼女たちを愛の巣という名の監獄に閉じ込めた。

火星は性的エネルギーを象徴する星。
火星は闘争心や攻撃性、怒りを表わす。

とても親密な家庭という空間のなかで、性的搾取が行われ飼い殺されるような暮らしに、女性たちはお互いにサポートしあって男の主張に抵抗を試みるがなす術もない。

一方で、テレサは自分が育てた少女を自分の亭主が寵愛することへの嫉妬や憎悪にも苛まれる。

そしてエスペランサは遂に海へと身投げしてしまう。彼女の美しい顔に最期にキスをしたのはテレサだった。

この曲は「Hija der mar(海の娘)」という小説をモチーフとして存在しているようだ。これが推測に過ぎないのは、Tigresを作詞/作曲したロリ・モリーナ本人が語っているインタビューを見つけられなかったから。

ただこの物語のプロットを追いかけていくと、ふたりの女性たちの男への抵抗を、剣のような愛すべき勇敢さとして、また、それを以てしてもあえなく希望が潰えたことへの怒りを、虎のイメージを用いて表現しているのかなと思いあたる部分が多い。

「Hija der mar」は男性の嫌がらせの中で「名誉」を守る抗議物語として19世紀にロザリア•デ・カストロによって書かれた。

彼女の人生と物語のプロットには類似性があるようで、作者自身の意識的および潜在意識的な救済のような作品だと評しているひともいる。

ロリは、Tigresを収録したアルバム”Lo azul sobre mi”について「作るのが難しいアルバムだった」と告白している。

「誰も聴きたくないアルバムだと感じました。私たちはまだ80年代のアップデートであるエレクトロポップのブームにあり、今なっている音とは完璧に離れていました。

スペインのギターレコード、弦楽四重奏、悲しい曲や思慮深い曲を誰が聞きたいでしょうか?しかしそれが抵抗の行為として、わたしがやるべきことだと感じました」

ところが失敗どころか、多くの聴き手が何よりも注意深くつながるアルバムとなった。彼女はこう語っている。

「もしパンデミックがなかったら、このアルバムは多くの人にとって忘れ去られただろうと思う。しかし、多くの方に時間を割いて聴いていただけました。

このアルバムは非常に瞑想的なアルバムで、私が最も多く受け取ったコメントは、『長い夜、孤独の中で私に大いに寄り添ってくれた』というものでした。 そして、それはわたしそのために作ったアルバムだから」

虎に戻ります。ロリが虎のイメージをどこまでの意図を持って扱っているかは分かりません。

が、インターネットの海のなかで巡り合った虎のシンボリックな意味は、他にもこのようなものがありました。

“虎はどこから見ても災いが近づかないよう外敵を睨んでいるかのように描かれ、魔除けや厄払いのシンボルでもある“

”仏教では精神的な目覚めと途中で起こる変容に必要な資質を表しています。彼の強さ、勇気、障害を克服する能力は、彼を悟りに向かう人々にとって強力なシンボル“

”愛のなかで虎のサインの人々は情熱的です、彼らはどんな犠牲を払っても彼らが最も高貴だと考える闘争を爪で守ります”

参考:

Hija del mar
Lori Molina entrevista

読んでくださって嬉しいです。 ありがとー❤️